大魔王になります4
白鬼の若はフードの男に付き従い戦場を離れた。全身の骨が砕けたような気がしていたが、男が何か言うと、体が光に包まれ全身の傷が治っていた。若は呆気に取られたが、傷みが消えたことで起き上がり、自身の体に違和感が無いことも確認した。
「どこにいくんだ」
「まずは戦場を離れる。ここでは落ち着いて話もできないからな」
「話か、ここも戦場で鬼人族の者もいるんだが」
「今はまだ無理だ。怪物が暴れている。どさくさで逃げてくれることを祈れ」
「……わかった」
若は渋々フードの男に付き従うことにした。確かに今の自分では力が無く、一人で駆けずり回っても共倒れする恐れすらある。
「ここまでくればいいだろう」
それは若が怪物と共に飛び降りた場所だった。
「なんでここなんだ」
「あの怪物は意志がある。そんな怪物を使役できれば心強いと思わないか」
「意志がある?それに使役するだと?そんなことができるのか」
「さぁな。だが話してみる価値はあるだろう」
フード男の顔は見えないが、どこか楽しそうな声に聞こえた。若はこの男についてきて本当によかったのかと悩み始めていた。
「話す?そんなことができるのか」
「まぁ、まずは戦場が落ち着くのを待つさ。あいつも怒って暴れてるんだ。一通り暴れれば落ち着くだろう」
そういうとフード男は、岩を背に寝そべり始めた。
「あいつが落ち着いて動きを止めたら教えろ」
「おい」
若が声をかけるが取り合わない。それから三時間ほどすると、戦場が落ち着いてきた。普人族が撤退を始め、怪物はそれを追いかけずに戦場のど真ん中で眠りについている。
「そろそろだな」
若が声をかける前に、フード男は起き上がっていた。
「何だ、起きたのか」
「行くぞ。グズグズするな」
「おい。お前が寝てたんだろが」
若は文句を言いながらもフード男に続く。若は前を走る男の背中を見つめながら、男の速度について行くのがやっとなことに驚いた。フード男が何者かわからないが、鬼人族の自分を置いていけるのは獣人族でも上位の者達だけなのだ。しかし、目の前の男に全力で走らなければ追いつけない。
フード男の顔は見えないが、余裕があるようにすら感じる。
「着いたぞ」
男の声に顔を上げると目の前に化け物がいた。七つの首をした巨大な蛇が蜷局を巻いて寝ている。
「なぁ、お前は話はできるか」
フード男は寝ている怪物に話しかける。
「なんじゃ、お主は?ワラワは疲れておるのだ。貴様のような小物を相手している時間はない」
「お前になくても俺にはあるんだよ。俺と喧嘩しないか?俺が勝ったらお前は俺の下僕だ」
フード男の不遜な態度に化け物が体を起こす。若も男の発言に驚いて言葉が出ない。
「ほう、貴様ワラワに勝てると申すか」
化け物に喧嘩を売るフード男を見て、若は正直頭がおかしいのではないかと思った。化け物は獣王や竜王、敵方の勇者であっても一人では決して勝てない強さを持っている。それぐらいは若にだって分かるのだ。
「ああ。圧倒的にな」
「よくぞ言った。ならばやってみせよ」
化け物は立ち上がり、七つの頭がそれぞれの魔法を唱え始める。もちろん唱えながらも、尻尾を振って物理的な攻撃を忘れない。そんな攻撃を避けながら、フード男は普通に歩いて近付いていく。尻尾は跳んで避け、七つの首の一つを殴り飛ばした。続けざまに七つの頭が吹き飛ぶ。
「なっ!」
若はあまりの出来事に驚いた。あの化け物が小さな男の一撃で吹き飛んだだと……
「貴様、我の顔を打ったな!許さぬぞ」
化け物が怒りの込めた顔と声で、男を睨み付けて七つの魔法を放った。七色の魔法は、男を覆い尽くすほど強力な威力を持っている。その場にいる物全てを消し炭に変えていくと若は思った。それほどの威力を誇る魔法を、フード男は片手で弾き飛ばした。
「なっ!化け物か、お前は」
化け物に化け物と呼ばれた、フード男の口元が若には見えた。本当に楽しそうに笑っていたのだ。
「まだ敗北を認めないか」
「誰が認めるか」
若はどちらが化け物かわからなくなってきた。そこからは一方的なものだった。フード男は、七つの頭全てを何度も殴り飛ばして、蛇が降参と言うまで何度も何度も殴り続けた。
「どうだ?」
「すいません。あなたの下僕にしてください」
七つの頭全てを下げて、フードの男に化け物は頭を下げた。若には信じられない光景だったが、現実にフード男は化け物よりもはるかに強かった。
「よし。お前は今日から白だ」
「白?」
「お前は名前があるのか」
「名前?」
「そうだ。お前個人を呼ぶ名前だ」
「わらわを呼ぶ?」
「そうだ。今日からお前は白。それがお前の名前だ」
「白、わらわの名前」
七つの顔を持つ蛇は体を振るい感動していた。自分を化け物と呼ぶものはいたが、我を倒して名前を付けて呼ぶものなどいなかった。
「いいな、白?」
「はい。主様。わらわは主様に従います」
「主様か、まぁそれでいい。白、お前は人の形にはなれないのか」
「変化であるか」
「そうだ」
白は少し考えた末、自身の体を小さくする。七つの頭は柔らかい粘土のように合わさり、一つの小さな人の頭になる。髪は白く腰まで長く伸びている。
肌は白という名前にふさわしい透き通るような白い肌、一糸纏わぬ美しい幽鬼のような女性がそこにいた。まだ若い、若には目の毒なぐらい白の体は美しかった。
「おいおい。白鬼。あまり白を見てやるな」
「別に俺は見ていない」
フード男に指摘され、急いで顔を背ける。
「白、こういう口だけの奴は気を付けろよ」
「はい。主様、それで何を気をつけるのじゃ」
全裸で首を傾げている白にフードの男はフード脱いで白にかけてやる。
「お前!!!普人族だったのか」
若はフード男が普人族だと知って大声を上げる。ずっとフードを被っていた男が若に視線を送る。
「それがどうした、お前は俺の手を受け入れたんだ。種族など些細なこと気にするな」
「些細なことって……はぁ~お前といると何がなんだかわかんなくなるよ」
若の顔は困惑はしているが、フードの男への憎悪はなかった。
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