閑話 その他の勇者達
阿久井 重が王国を去った後、アリエルは王様に急ぎ報告をした。
「申し訳ありません。闇の勇者を取り逃がしました」
謁見の間にて、アリエルは只々頭を下げた。
「もうよい。いや、よくはないんだが、闇の勇者とはそういうものなのかもしれん」
王様は無理にでも自身を納得させようとして、アリエルに言っているというよりも、自分自身に言い聞かせていた。
「申し訳ありません」
「よい、下がれ」
王様はアリエルを下がらせ、代わりに横に控えていたテーテーとバッポスが姿を現す。
「だから召喚してすぐに殺せとあたしゃいったんじゃ」
「後の祭りですな」
テーテーは愚痴を吐きながら、バッポスは諦めたように言葉を発する。
「お前達は口だけで何もしとらんではないか!」
王様は二人の言葉に怒りをぶつけるが、二人は素知らぬ態度をとる。
「どうしてこんなことになった。一刻も早く、他の勇者達をなんとか育てねばならぬな」
常に笑顔を絶やさず、どんなものにも下手に出ていた王様が真剣な顔で王の顔をしている。
「ほほう、久しぶりじゃな。王がそんな顔をするのは」
テーテーは面白そうに王の顔を見て笑った。
「黙れ!テーテー」
王様の一喝を聞いて、むしろテーテーは身震いする。
「それでこそ我らが王よ」
バッポスもテーテーに同意するように、二人は王様の前に跪く。
「「なんなりとお申し付けくださいませ」」
「うむ、当面は光の勇者を育てる。バッポスは騎士達と共に、光の勇者につけ」
「はっ」
「テーテーは、その他の四人を見てくれ。魔法の才を伸ばすか、戦闘の才を伸ばすか見極めよ」
「はいですじゃ」
ーーーーーーーーーーー
天野は高校ではあまり目立たない存在だった。顔は中性的で綺麗な顔をしているが、同年代の女の子達からすれば頼りなく見えていたのだろう。
「天野君は綺麗だけど付き合うとかはないよねぇ」
クラスの女子の会話を聞いたとき、思春期を迎える男としては悲しくなる言葉だった。顔は悪くない。だけど付き合えない。彼は17になるが、未だに女性と付き合ったことがなかった。
女性に話しかけるのも苦手だったため、自分からアプローチしたこもない。
「コウガ様、どうかされましたか」
そう……そんな天野は、最大のピンチに直面していた。
「わからなければなんでも聞いてくださいね」
金髪の美女が胸元の開いたドレスを着て自分の隣にいる。その顔は超絶美人であり、肌も白くスベスベで柔らかく何度か手を取られて感触を覚えてしまった。
「えっと……王女様。どうしてこんなに近いんですか」
緊張のあまり、やっと言葉を発することができた。
「王女様なんて他人行儀に呼ぶなんてヒドイです。ちゃんとフーリアと呼んでくださいませ。それにお勉強を教えているときは、これぐらいの距離感が普通ですのよ」
フーリアとはフフリアと言う名前を、天野が言いにくそうにしていたので、王女が考えた愛称である。王女は今にも吐息がかかりそうなほど近くで、魔法や国の歴史についてレクチャーしていた。
しかし、天野はすぐ側に美女がいる状況で、一向に勉強が頭に入ってこない。しかも天野は童貞であり、女性と接する機会がなかったため、フフリアをどう対処していいかすらわからない。
「どうかしましたか?
フフリアの挑発的な声が耳元から聞こえてくる。ダメだと思っても、つい視線は胸元にいってしまう。
それも全て王女フフリアの作戦なのだが、天野にはそんなことわからない。
天野は子供を交通事故からを救うほど勇気のある者だが、健全な男子でもあるのだ。
「やっぱり、少し離れてください」
「いやん」
天野が必死の思いで王女の肩を掴み距離を取ろうとするが、天野に肩をつかまれた瞬間に王女が発した艶めかしい声に手を引いてしまう。
「ふふふ、本当にコウガ様は可愛い方」
最初こそ光の勇者として接していた王女も、年下の中性的な容姿を持つ天野に段々と惹かれていった。今では普通に天野を誘惑するのを楽しむ毎日を送っている。フフリアは天野に手を出してほしい。
そうすればこの可愛い生き物は自分の者になるのだと、肉食系女子全開な考えを持っていた。
コンコンと扉を叩く音に、天野は天の助けがきた思いだった。フフリアは邪魔者に苛立ちを覚える。
「シエルです。お紅茶をお持ちしました」
シエルの声を聴いて、フフリアもイライラを引っ込める。
「どうぞ」
フフリアの声により扉が開かれシエルが入ってくる。シエルはフフリア付のメイドで、幼い時からフフリアのことを知っている。そのためフフリアもシエルには心を許していた。
「フフリア様、お紅茶をお持ちしましたので、ご休憩されてはいかがですか?」
「そうね、コウガ様も今は身が入らないようですし」
シエルの言葉に天野は胸を撫で下ろす。異世界に召喚されて一週間が経つが、剣の稽古とトイレ、あとは寝るとき以外は常にフフリアがついてくるのだ。正直、天野は疲れていた。これは本当に国を救うための勉強なのかと考えるほどに……
「まぁまぁ、じゃ気持ちを落ち着ける紅茶がよろしいかしら」
だが、シエルもフフリアとグルなので、安心できない。しかし、フフリアと二人じゃ無いだけで天野は気を抜くことができた。
コンコン、扉がノックされる。
「第一軍団団長 バッポスであります。入ってもよろしいかな」
扉の向こうの声は、天野が初めて聞く声だった。だが、フフリアとシエルは声の主を知っているらしく体を強張らせている。
「どうぞ」
二人が黙っているので、代わりに返事をする。
「失礼します」
軍服を着た初老の男性が入ってきた。バッポスと名乗った男性は、軍服を着ているが、あまり覇気はなく田舎の爺ちゃんがコスプレしているように見えた。
「えっと、天野 光賀です。初めましてですよね」
「左様、初めましてであります。本日よりコウガ・アマノ様に戦闘を教えることになりましたので、顔合わせに参りました」
「そうなんですか、よろしくお願いします」
天野もバッポスに倣い頭を下げる。
「ではさっそく参りましょうか」
「ちょっ、バッポス。今は私の勉強の時間ですよ」
バッポスの態度にフフリアが声を上げる。
「フフリア様、私の言葉が理解できませんでしたか」
「ヒィ!!!」
バッポスが長いまつ毛の下から目をのぞかせると、フフリアは悲鳴を上げて下を向いた。
「アマノ様、よろしいですかな」
「あっはい」
フフリアの様子は気になったが、天野はバッポスに従って後について行った。鬼のバッポスの後に・・・
「コウガ様、生きて帰ってきてください」
フフリアは戦場に向かう夫を見送るような心境で、胸の前で腕を組み天野の無事を願った。
読んでいただきありがとうございます。




