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大魔王になります2

 砂丘サキュウ 修二シュウジは異世界に召喚されたとき、内心興奮していた。昔からゲームが好きで、小説を読んでは空想していた。

 空想の世界では、魔法や剣で戦うのだ。そんなモンスターや、獣人や、精霊がいる世界に自分がこれたことに感動していた。

 小説のような、ワクワクやドキドキが待っていると思っていた。しかし、現実はそんな甘いものではなかった。人族と獣人族は戦争をしていて、獣人や精霊とは敵としてしか会えない。会ってしまえば殺し合いになる。一カ月という修業と歴史の講習で、この世界のことは大体理解した。

 砂丘には土の魔法の才能がある。砂丘自身の感想としては、他の魔法よりも地味な感じがするけど、まぁ魔法が使えるだけいいかと思った。

 砂丘は土の魔法を駆使して色々なことを試してみた。それはレギンバラ王国には存在しない魔法ばかりで、普通の魔導師が教えを乞いにくるほど強力なモノが多かった。

 但し、使う相手がモンスターじゃないのが、砂丘に戸惑いを生んでいた。本当に獣人を殺してもいいのかわからない、むしろ殺したくない。


 どうして天辰アマタツや、時東トキトウが賛同できたのか、砂丘にはわからなかった。獣人といえ、人の形をしているのだ。戦争をしているのは仕方ない、元の世界でも人と人とが戦争することは絶えなかった。しかし、それに参加するのは嫌だった。

 砂丘は小説に出てくるような異世界が大好きで、日本という平和な国に生まれた者の常識を持っていた。


「それでどうじゃ、あれから一カ月経った。そなたらの考えを聞かせてほしい」


 一カ月という猶予で得た知識と力をどう使うのか決めるため、王様に六人は呼び出された。


「俺の意見は変わらないぜ、この国に力を貸す。歴史を学べば学ぶほど、獣人共が許せねぇ」


 天辰は胸の前で拳を握り、獣人達へ怒りを露わにする。天辰が言っている歴史とは、あまりにも人族が良人で、獣人族が悪人かを聞かせるものだった。素直な人間が聞けば、確かに天辰のような態度になるのもわかる。片方の意見を聞けばこうなるのは当たり前かもしれないな。そう、片方の意見だけを聴けばだ。砂丘は冷静に考えていた。


「私も皆さんの協力がしたいです」


 時東が天辰に続いて賛同の意を示す。決められていた答えに、王様も安堵の息を吐く。


「そなたらは本当の勇者である。して、他の者はどうじゃ」


 王は、二人の賛同を得られたことで機嫌を良くして、残りの四人に視線を向けた。


「俺は自由がいいんだよな。王様、俺は力を貸してもいいが、やり方は自由にさせてもらっていいか?」

「協力してくれるのであればどんな手段を使おうと構わんよ。そなたが人間族の味方であるのなら、いっこうにな」


 王も横柄な態度の木場キバ クリスティンの言葉に、眉を一瞬吊り上げるが。木場の自由な気質は将軍から聞き及んでいたので仕方ないと判断した。


「私も構いませんが、土地をいただきたい」


 エレオノールは異世界に召喚されたことを、異国の地に来たぐらいに考えていた。ならば勝利者には褒美が必要だと考えにいたったのだ。彼女は寡黙な性格をしている。そして自身を武人だとも思っている。


「土地であるか?」

「はい」

「もちろん。武功を立ててくれれば褒美は差し上げよう」

「ならば私はお力添えいたす」


 エレオノールが賛同したことで王は残りの二人に目を向ける。特に黒髪の綺麗な少女に目を向ける。


「どうじゃ黒金クロガネ殿?」

「私は構いませんよ。一宿一飯の恩義もありますし、何より死を目の前でみられるのは嬉しいことですから」


 黒金は言葉を発した後、本当に楽しそうに笑っていた。


「どういう意味じゃ?」


 王は、黒金の反応が分からずに将軍に聞く。


「彼女は特殊故、気になさるな」

「わかった。とにかく五人までが協力すると言うことだな」

「それでよろしいのでは」


 将軍の言葉に王は満足して、最後の少年に目を向ける。他の五人に比べて平凡な顔をしている。しかし、魔法の才能に関しては抜きんでたものを持っていると報告を受けている。

 他の者も確かに強く素晴らしい才能を持ってはいるが、魔法や戦闘に関して、この少年に勝てた者はいないと言うのだ。


「砂丘殿、お主が最後になったがどうじゃ。我々に協力してくれるか?」


 王は五人の了承を受け取っていたので、最後も了承が返って来るものと信じ込んでいた。


「お断りします。王様」

「そうかそうか、構わぬか……何っ!今なんといった?」

「お断りします。王様」

「お主は断ると言うのか」

「はい。俺には獣人が殺せません」

「なんということを!貴様、自分が何を言っているのかわかっておるのか」

「はい。確かに一宿一飯の恩義はあるかもしれない。だが、こんな世界に呼ばれなければこんなことにもならなかった。何より人の形をした者を殺すなどできません」


 砂丘の言葉に、他の五人も顔を見合わせる。


「協力しないということは、もうここで面倒はみれぬがよろしいか」


 王は脅しのつもりで言った。異世界で誰も頼ることができず放り出される苦しみを味わうのかと、獣人に会えば殺されるかもしれない恐怖があるのだと、それをわかっているのか問うような顔で王が質問した。


「はい。俺は自身の力で生きていけます。あなたに協力するつもりはない」


 砂丘は王への強い拒絶の言葉を吐く。人間族を束ねている者に対しての言葉として、言ってはいけないほどに 砂丘の態度は王だけでなく将軍や最初に賛同を示した天辰にも不評を買った。


「おい。お前さっきから聞いてればわがままばっかり言いやがって、人を助けたいと思わないのかよ」


 天辰は年上なりに自分が説得すれば砂丘は折れるかもしれないと、内心甘い考えを持っていた。


「黙れよ。能天気野郎」


 この時彼らは砂丘の力の片鱗を味わうことになる。砂丘は正直、天辰に一番怒りを感じていた。空っぽの言葉、どこかで聞いたようなセリフ、どうしてこの男は何も考えずに王様の言うことに賛同できるのだ。天辰以外の四人はそれぞれ理由があり、意志があった。しかし、天辰には理由らしい理由も、自身の強い意志もなかった。砂丘の怒りは力を呼び覚ます。


『殺気』


 天辰は胸倉を掴もうとしていた砂丘に恐怖を感じる。彼らも現代人なのだ、死に慣れてなどいない。ましてや殺気をぶつけられたことなどないのだ。初めて味わう恐怖に天辰は震え、王はまるで怪物を見る様に砂丘を見た。それは謁見の間にいる者すべてが感じたことだろう。


 砂丘 修二が恐れられる最初の事件となった。

いつも読んで頂きありがとうございます。

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