閑話 その他の勇者達36
均衡状態が続いていた戦場に動きが見られた。バッポスが放った背後挟撃部隊が全滅した事が、ルールイス陣営に報告されたのだ。
さらにカブラギ皇国本国に向かわせた人員も同じく全滅したとの報告を受けた。どちらもルールイス本国からの増援部隊なので、1万ずついたにもかかわらず報告は無残なものだった。
相手のゲリラ的な昼夜問わない攻撃を受けて、数が減っていく恐怖に肉体も精神も共に砕かれていってしまった。そして彼らは逃走することもできず、全滅という結果になった。
「なんという事だ……」
バッポスも指揮官として無能な男ではない。そのためキズキ・アンジェラスが言った言葉を思い出す。
「絶貴と暗貴か……どういう奴らか知らんが、ワシは受けた屈辱は何倍にしても返すたちなんじゃ」
バッポスの目は獰猛に光る。彼は今でこそ鬼コーチや静かなる元帥と呼ばれているが、昔はかなりのやんちゃをやってきた。絶貴が如何に凄い才能があろうと、暗貴という隠し兵を連れていようと負けるつもりはない。
「強襲部隊、重装騎馬隊、魔王剣士部隊をここに呼べ」
バッポスにも隠し兵士は存在する。そしてバッポスも長期戦を仕掛ければルールイスに分があることもわかっている。しかし、あえてそれを選ぶことはない。大国とは絶対的余裕を持って勝たねばならない。
「お呼びでしょうかバッポス様」
三人の将軍がバッポスの前に音もなく現れ、頭を垂れる。
「来たか、三人とも。お前達にそれぞれ倒してもらいたい者達がいる。」
強襲部隊隊長 黒冑のケルベロス
重装騎馬隊隊長 赤鎧のベヒモス
魔法剣士隊隊長 紫杖のサリエル
「はっ!何なりと、お申し付けください」
三人がバッポスの顔を見上げる。
「うむ。ではケルベロスには強襲部隊を率いて幻覚を突破し、幻覚を作り出している者を頼む。貴様の力であれば幻覚も通用せんだろ」
「仰せのままに」
「ベヒモスは重装騎馬、軽装騎馬、歩兵隊を率いて迂回し、敵本陣を挟撃せよ。背後に回る必要はない。山を一つ越えれば相手の横っ面を叩ける。数で圧倒してこい。何としても指揮官だけは殺せよ」
「仰せのままに」
「サリエルは敵本国に攻め入り相手の王を討て。貴様の能力があれば容易かろう」
「仰せのままに」
三人は返事をすると来た時と同じように音も無く消え失せた。
「ただの数で押すだけが能だと思うなよ。我が直々に育てた者達の力を見せてくれるわ」
バッポスは三人の実力を疑うことはない。それだけの訓練と実戦を、彼らは踏んでいると自負している。キズキの言葉など覆せるとバッポスは思っていた。
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カブラギ皇国本陣には蘭丸が報告に戻っていた。
「本国に侵入しようとした敵1万は紫苑様率いる近衛隊50名と、我々暗貴の挟撃攪乱にて全滅しました。さらに背後を攻めてきていた1万の兵も攪乱に慌てふためき、最後は水の勇者様がオロチの魔法弾を撃ち込んでくださったので、全滅させることができました。最後に本陣に忍び込むことはできたようですが、未だ司令官を討つまでには至っていない模様です」
本陣に戻った蘭丸は部下からの報告をまとめ、絶貴に報告していた。
「うむ。土の勇者の情報はどうなっている」
「それに関しては、土の勇者らしき者を確認とのことです。本人かは分かりませんが、こちらに向かっているそうです」
「でかした!これで水の勇者様の怒りを鎮めることができるかもしれない」
これまでにないほど、絶貴は喜びの声を上げた。
「はっ!ありがたきお言葉」
「だが、相手もこのままで終らせるはずがない。玄夢もすでに一週間もの間、術を発動し続けている。こちらの消耗はかなりのものになってきた。そろそろ手打ちを考えねばならん」
「相手はどうでますか?」
「相手がバカでなければ様子を見て動かぬと思うが、バカならば同じ事をしてくるかもな」
「またも数で押してくると?」
蘭丸は絶貴が苦しそうな表情をするのを見逃さなかった。
「ああ。今度の攻撃は熾烈を極める気がする。相手も死に物狂いで向かってくるであろうな」
「絶貴様はどうされるのですか?」
「時間を稼がなければならぬ。何としても土の勇者を、水の勇者様に会わせるのだ。そのためにも次の攻撃を凌ぐぞ」
絶貴は相手がもう一度何か仕掛けてくると確信を持っていた。確かに消耗戦になれば相手に分があり、こちらは不利だ。しかし、こちらにも目的があり、目的を達成できれば戦争など意味がない。
長期戦を選んでくれればこちらは目的が達成できてこちらの勝ち。相手が強襲を行い、こちらが防げば勝ち、防げなかった時のみ負けがあるのだ。なんとこちらに有利なことか、負けない戦をすればいい。
「蘭丸、お前は再度、本国に戻り背後及び左右に暗貴達を配置せよ。それと共に紫苑に姫様の護衛の強化を命じろ。相手本陣に潜入した者にはなんとしても司令官を倒すようにとな」
「御意に」
蘭丸が姿を消してお互いの司令官の命令が発動する。いよいよルールイス王国対カブラギ皇国の戦争も佳境を迎えようとしていた。
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