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閑話 その他の勇者達35

 大魔王を相手に組手をしている神代カミシロ 火鉢ヒバチを見ながら安城アンジョウ 風香フウカはアンジェリカが入れてくれたお茶を飲んでいる。


 ドラキュラ城で静養していたアンジェリカの話をすると、大魔王である砂丘サキュウ 修二シュウジがアンジェリカの下を訪れて治癒を施してくれたのだ。

 本来、治癒の魔法が使えるのは水か、光の属性なのだが、砂丘は精霊ルシフェルを宿してから大抵の魔法は使えるらしい。


「ヒ~ちゃんもあきへんな。一日中組手ばっかりで」

「火鉢様は未だに一度も砂丘様に勝ったことがございませんから、悔しいのでしょう」


 アンジェリカも体調を回復してから大魔王城で生活している。アンジェリカは正直、命の危険もあったのだが、砂丘のお陰で回復することができた。

 慣れない旅で体力を奪われ、碌な治療も薬もないまま寝ているだけで栄養も摂れず、このまま死を迎えるのだとアンジェリカも思っていた。そこに砂丘が現われて、アンジュリカの命を救ったのだ。アンジェリカにとって砂丘は命の恩人であり、同時にどこか気になる人になってしまった。

 仕えている勇者達の夫なので、大っぴらには言えないが、アンジェリカも年頃の女性なのだ。心に何を思っても悪いことはない。


「ヒ~ちゃん負けず嫌いやからね」


 風香とアンジェリカが談笑する横に、半分に減ってしまった近衛騎士達がいる。近衛騎士達は、勇者と大魔王の祝言を見終えて、帰還する者と残る者に分かれた。エルファルトとオクトーが残り、レイチェル達3人は本国に戻ることにしたのだ。近衛騎士達の考えを聞いて、砂丘が転移の門を使わせた。

 砂丘がいなくては一歩通行になってしまうので、戻ってくるときはまた長い旅をしなくてはならない。現在は大魔王の城に、砂丘、火鉢、風香、アンジェリカ、エルフェルト、オクトーの6人だけになっている。ヴィクターは道案内を終えたと言って、ドラキュラ城に戻っていった。

 人間国の監視をキセラに任せようとしたが、気分やで自由気ままなキセラは魚人族を引き連れてライブに戻ってしまったのでヴィクターがやらなければならない。


「それにしても砂丘様の力は凄まじいですね」


 アンジェリカは戦闘技術も高いのだが、大魔王と火鉢の戦いは全く見えない。もう普通の人間が見える限界はとっくに超えている。それは火鉢が使うブーストや死角に入るなどの技術ではなく、単純にスピードが目で追えないのである。

 エルフェルトやオクトーも同じで、先ほどから二人の戦いを見て驚嘆の声を上げている。この場で唯一見えている風香にしても、大魔王が何をしているかは完全に見抜けない。


「そうね。どんな戦いをしてきたらあそこまでの強さを手に入れられるんやろね」

「風香様は見えておられるのでしたよね?」

「そうやね。見えることは見えてるんやけど。見えていても何をしているかはわからんのよ。説明を求められてもそれは無理やね」

「そうなのですか」

「だって、ヒ~ちゃんが使う技の全てが修二さんの意表を突くためのものなんやで。私が分かるようじゃ意味がないやん」


 風香は二人の姿を一瞥して、ゆっくりと口に紅茶を運ぶ。


「そういうものですか、それより風香様は火鉢様のように戦いを挑まないのですか?」

「う~ん?戦闘はヒ~ちゃんに任せるわ。私は私なりに修二さんを籠絡するのが目的やから」

「籠絡ですか?」

「そっ、女の武器を使わなね」


 自信満々な風香の話を聞きながら火鉢の戦いを見る。戦いは佳境に入ったらしく、アンジェリカにも分かる火鉢の動きに入った。火鉢は最後のキメをする際、自身の一番得意な構えを選ぶ。確かに精霊を宿してから火鉢のスピードは格段に上がり、砂丘に匹敵するぐらいになったらしい。アンジェリカには見えないので、らしいとしか言えない。

 しかし、攻撃を仕掛ける前に必ず停止するので次の攻撃がわかる。そしてそこから見えなくなり、次に出てきた瞬間が決着のときなのだ。


 今日は砂丘の右斜め後ろに火鉢が現れた。次の瞬間には火鉢が意識を失い倒れる。最近よく見るいつもの光景である。


「良い攻撃だ。日に日に速度と意表を突くタイミングが上手くなってきてるな」


 砂丘は誉めるが、本人は気絶して聞こえていない。


「砂丘様、お茶になさいますか」

「ありがとう。アンさん」

「いえ」


 アンジュリカから、ティーカップを受け取り一気に飲み干す。


「おいしい。アンさんの入れてくれたお茶は凄いおいしいです」


 大魔王とは思えない笑顔で砂丘が笑いかけると、アンジェリカは少し顔を赤くして後ろに下がる。


「修二さん。お疲れ~」

「風香、お前は俺を倒さないのか」

「私は倒すよりも別の事に時間を使いたいの。そんなことよりも今後はどうするん?ずっとこのままここにいるん」

「今後か、一人でいる時はずっとここだと思ってたけどな。そうだな。二人も精霊持ちを仲間にしたし、暗黒龍でも倒しにいくか?」

「暗黒龍、強いの?」


 今まで聞いたことのない名前に風香は聞き返した。


「ここが暗黒大陸って言われてるのは知ってるよな?」

「知ってる」

「暗黒大陸として言われるようになったのは暗黒龍が出現してからなんだ。俺が勇者として召喚されたとき、魔王なんていなかったんだぞ。魔王の代わりにいたのが暗黒龍ベルザルード一匹だけだ。その一匹に世界が滅ぼされそうになっていたんだ」

「アン、知ってた?」

「いえ、初耳です」

「エルは?」

「私も知りませんでした」


 砂丘の語る歴史を知らない二人に風香は困惑した顔をする。


「人間族は知らへんの、なんでなん?」

「それはその時の勇者が力を合わせて封印したからなんだ。俺はその時から封印を守る唯一残った勇者としてここにいる。まぁ、俺が大魔王となって永遠の命を手に入れたから可能なんだけどな」

「それはいったい何年前の話なん?」

「もう忘れたな。百年以上前じゃないか?」

「修二さん何歳?」

「さぁな。時が止まったのが二十一だったから、体は二十一のままだろ」


 砂丘の言葉に、風香は永遠の命に「ズルい。なんかズルいわ修二さん」風香はズルいと言いながら修二の腕に体を絡ませる。胸を当てるのも忘れない。


「大魔王様、もっと歴史の話を聞いてもいいですか?」


 エルファルトは基本的に大魔王には話しかけない。恐ろしいと言うのもあるが、火鉢が惚れたことが未だに納得できないのだ。


「別に大丈夫だが、火鉢も起きたみたいだし飯にしよう」


 大魔王の話は人間族が忘れてしまった物語だった。

いつも読んで頂きありがとうございます。

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