閑話 その他の勇者様34
コウガはセントセルスに帰る馬車の中で頭を抱えていた。
どうして自分は負けたのだろう、どうして自分は弱いのだろう。
アクの転移で帰す予定であったが、テリーが共に連れ帰ると言ったため、バンガロウ王国はテリーの言葉を受けてコウガを解放した。
馬車に揺られながら、コウガは思考の波に沈んでいた。
コウガは本当の強者に勝ったことがない。
セントセルス神聖国に飛ばされたときは、一時的な記憶喪失があった。
しかし、今はどうして自分がセントセルスにいるのか理解している。
自分は光の勇者として異世界から召喚され、ルールイス王国のフフリア王女と恋をした。
そして彼女が望む勇者になろうと、土の勇者に戦いを挑み全力でぶつかり合った。
その衝撃でセントセルス神聖国へ飛ばされてきた。
最初こそ記憶が無くて、戸惑ったが体に染み込んだ訓練のおかげで聖騎士になることができた。
そして訓練や戦いを続けるうちに記憶は鮮明に戻ってきた。
今回の作戦は自身の力を示すのに最適な作戦だった。
兵力はこちらが上、戦闘訓練を積んでいるのもこちらが上、負けるはずがなかったはずなのだ。
なのに、相手に化け物がいた。
魔力を最大にしても攻撃を面から点に凝縮しても通じなかった。
土の勇者にも聖騎士筆頭であるテリーにも通じた必殺は受け流されて仲間を襲った。
顔が分かるので、苦しむ仲間の顔を何度も夢に見る。
コウガが頭を抱えて苦しんだ顔をしていても、テリーは言葉をかけなかった。
テリーも今回の戦争にショックを受けていた。
大敗したことが悔しいのはもちろんだが、自身の命を天秤にかけられ国はテリーを選んだ。
そのことの重大さに気持ちが押しつぶされそうになる。
コウガに構っている余裕などテリーにはなかった。
二人が暗澹とした気持ちのまま、セントセルス神聖国聖都の地を踏んだ。
聖都は大敗の知らせを聞き落ち込んだ雰囲気が街全体に広がっているだろうと思っていた。
それもこれも自分のせいだと落ち込んでいた二人だったが、二人を乗せた馬車が聖都に入ると落ち込んでいた雰囲気が一変する。
「帰ってきたぞ。我らが英雄様が」
誰かが言った言葉にコウガとテリーは目を丸くする。
馬車の中で二人は初めて顔を見合わせた。
「どういうことだ?」
「わからん」
二人が困惑している間も、パレードのように人だかりができて、それは大聖堂に着くまで続いた。
「よくぞ戻りました。テリー。コウガ。あなた達はセントセルス神聖国の宝です」
大聖堂につくと聖女と枢機卿が出迎えてくれた。
他にも神官達が大勢二人を待っていた。
「聖女様。この度は大敗をしていまい面目次第もございません」
テリーが聖女に頭を下げる。
コウガもその後に続くが、言葉は出ない。
「何を言っているのです。今回の戦争の総大将はガンドルフ・ボルナレフです。彼は6万もの兵を失い、戦場で生きながらえようとしました。それに対してあなた方二人は少ない兵数で敵と交戦し続け、もう少しと言うところまで相手を追い詰めました。その功績は英雄と呼ばれるに相応しいものです」
聖女が語る言葉に二人は顔を上げ口を開けたまま固まる。
聖女が言っていることは確かに戦場で起きたことに間違いはないが、自分達の相手も決して自分達の兵数よりも多くはなかった。
それにテリーは相手を追い詰めたのは事実だが、コウガに至っては一方的な敗北と言える。
「それは事実無根では?」
コウガが恐る恐る聖女に言葉を返す。
「事実などどうでもよいのですよ。ガンドルフ・ボルナレフには責任を取ってもらいたいます。但しあなた方若い芽には決して負けであっても、使徒達の希望になってもらいたいのです。希望とは即ち新たな英雄の誕生です。あなた方二人はまだ若い、そして力がある。テリーにはすでに神の加護を与えています。そしてあなたにも神の加護を授けようと思います。いいですね、コウガ」
聖女が言った言葉をコウガは理解できなかった。
そして聖女の言った言葉は現実とものとなる。
コウガは新たな力を得ることになり、聖女によって植えつけられた力を無理やりに呼び起こされる。
神の名はアポロン 太陽の神と呼ばれコウガの光の魔力を最大限に引き出してくれる。
アポロンの力はコウガにとって従えられる強さではなかった。
コウガの気持ちとは違い、民衆は新たな英雄を歓迎した。
10万の兵士の死よりも、二人の英雄の誕生を祝う異常な光景を誰も疑問に思うことはなかった。
大聖堂が英雄を後押しをしているというだけで、民衆は崇めることを受け入れた。
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