死神になります 終
青狼族は自分達が間違いをおかしたことに気付いたときには遅かった。誰に従わなければならなかったのか、生きるための生存本能が鈍っていた。
目の前に広がる只々大きな黒い塊、青狼族の村を飲み込もうとしている黒い塊を見つめる村長は跪いた状態で泣いていた。
「すまなかった。俺達が間違っていたから命だけは助けてくれ」
族長であるヒューイは、赤猿族族長ケルイの言葉を思い出していた。「お前も会えば分かる」ヒューイはアクの強さをわかっていなかった。ケルイの言葉を理解していなかった自分を呪いたくなる。
しかし、不運なことにヒューイはアクに会う機会に恵まれなかったのだ。
目の前に立つアクを見て、ヒューイはこの男には勝てないと思った。なんと恐ろしいことか、交渉は一切通じず、只々村を蹂躙していく黒い塊にヒューイは自分の考えが如何にバカだったかという後悔しか出てこない。
どうして他の種族同様、すぐに頭を下げなかったのか、どうしてもっといい条件を出してもらえるなどと思ったのか、今となってはわからない。
結果は青狼族の存亡を揺るがすものになってしまった。
アクはキララとの会見後、エビスの店に寄ってフェアリータウンに戻った。フェアリータウンでは、ミルイやマルイなどの赤猿族が警備を続けていてくれた。孤児達が畑を耕し、村を発展させるために頑張っていた。
さらにピピンの発明で城壁や家の建築なども早くなり、掘立小屋ばかりだった村は煉瓦造りの家がちらほら建ち始めた。街と呼ぶにはまだまだ小さいが、土台が出来始めている。
さらにキララとの会談ではドワーフ族が仲間になってくれるという書状の話があった。彼らとはなるべく早くに会談して、フェアリータウン増築への協力を仰ぎたい。
木の伐採や栽培、結界などの管理はエルフやユグドラシルの専門なので、その辺とも話を付けなければならない。アクのやることが山ほどあって張り切っているところに、赤猿族族長ケルイから書状が届けられた。
「青狼族がバカなことを考えているか」
ケルイの書状の中には青狼族が共存ではなく、一方的な条件をアクに押し付けようと考えていること、さらに頭を下げて来なければ仲間にもなってやらないと言う傲慢な態度をとっていることが綴られていた。
ケルイもヒューイを仲間にしようと動いたらしいが、あまりにもバカバカしいヒューイの態度に諦めたらしい。
「バカな奴はバカな奴なりに利用しないとな」
アクは一つの考えを持っていた。それはこのまま亜人種が仲間になるのはかまわない。だがあくまで共存なのだ。彼らが人間を虐げるような状況になっては意味がない。
今まで彼らは人間に虐げられてきていた。それを逆にやらないか、やる者は出てこないか、そんなことを差せるわけにはいかない。
「見せしめが必要だな」
アクは異種間交流が夢だった。だが夢だけで、上手くいく筈がないとも考えている。只々楽しみにしているだけでは、これから上手くいくはずがない。それならば最初に人間族の力を見せる必要がある。
アクの決断は早いものだった。青狼族以外の亜人種に書状を送り互いの同盟を承認させた。青狼族だけにはなんのアクションも起こさず、さらに傲慢にも身勝手な要求を突き付けてきたことを書状にしたため、協力以外の一方的な要求を求めるならば、どうなるか書状に書いた。
その日のうちにケルイの下を訪れて、青狼族の村を聞いたアクは、書状が届いてから青狼族の村を襲撃した。メンバーはアク、ヨナ、サーラ、シーラ、同種族を倒すという事もあり、ルーにはお留守番を頼んだ。
しかし、アクは他の少女達に何かをさせるつもりはない。今回は粛清であり、みせしめなのだ。正直反感を買う事も考えておかなければならない。
そのために恨まれるのは、アク一人で十分なのだ。
「マスター、どうかされましたか」
シーラが考え事をしていた、アクに言葉をかける。
「いや。お前達に言っておく。青狼族は俺が殺す。手を出すなよ」
「マスター、どうしてそんなことを言うの」
ヨナが不思議そうな顔をする。
「今回は俺の仕事だ」
アクは素っ気なくヨナの言葉を受け流す。他の三人はアクの気持ちを理解して、アクの背中を悲しそうな顔で見つめる。青狼族の村に着くと、アクは青狼族全体に聞こえるように宣言する。
「お前達は我々に従わなかった。他の亜人達にこれからそんな態度を取られては困るのでな。みせしめとして死んでもらう」
アクの宣言を聞いたヒューイはアクを馬鹿にしたように嘲り、アクに殴り掛かった。アクは強化された肉体のままカウンターで殴り飛ばす。そしてブラックホールを発現させて村全体を飲み込んだ。
「おい、待ってくれ。命だけは、命だけは助けてくれ」
ヒューイらしき男が何か叫んでいたが、アクは何も聞かずにブラックホールで村全体を消しさった。
「終わったな」
「マスター」
アクの力は確実に巨大になりつつある。アクは気付き始めていた。ブラックホールで人を飲み込む度に自身の力が増していくことに……
その日、青狼族は滅びを迎えた。それは老若男女問わず、容赦がない所業に亜人も人間族も死神軍師アクの名を改めて知ることになる。アクは誰からも死神と呼ばれ、恐れられるようになった。
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