閑話 その他の勇者達32
ルールイス王国王都に土の勇者が戻ってきたのは七か月ぶりのことだった。
ランドは街の様子を眺めて何か思い出さないか見て回るが、これと言って思い出すことは何もなかった。
「あとは城だけか……」
「ランドさん、お城に行きたいんですか?」
「ああ。ルールイス王都に来たのは良いが、何も思い出せないんだ」
「そうですか、どうにか見学できないか聞いて来ますので、しばらく宿にいてもらえませんか」
「わかった。すまないな、ドロップ」
「いえ。ランド様のためになるのでしたら」
ドロップと別れて、ランドはもう一度街を見て回る。アリスはランドの横に並んで歩いていた。
「ランド、久しぶりだね。二人で歩くの」
「えっ?ああ、そうだな。ドロップと合流してからはいつも三人だったからな」
「やっとここまできたね」
アリスとしてもランドの記憶が戻るかもしれないと思うと、寂しいような嬉しいような複雑な気分だった。
「そうだな。アリスに荒野で拾われてから、ここまで長いようで短いものだった……」
「ランドの記憶のなかにいる、女性がここにいるといいね」
「ああ。だが、この国に来た時から嫌な気分がして堪らないんだ」
「嫌な気分?」
「なんだかわからないんだけどな。凄く悲しい事と、とても嫌な想いをしたような気がするんだ」
「そうなんだ。じゃ早く王城に行って記憶のかけらを探して、嫌な場所とはおさらばしよ」
「おさらばはいいが、今度はどこに行けばいいんだろうな」
「わかんないけど、何とかなるよ。これまでもなんとかなったしね」
「そうかもな。ありがとうアリス」
ランドに礼を述べられて、アリスは微笑む。
「今日は思う存分買い物に付き合ってね」
「そうだな。この国の装備でも見に行くか」
「うん」
二人が去っていく後ろに、姿を見せないように付いてくる影がいたことに、二人は気付かなかった。
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「ルールイスに到着したことはお父様に報告しておいてください」
「はっ!」
影はドロップの許から離れて、姿を眩ませる。
「これで本当にいいのでしょうか、ランド様を召喚したのはルールイス王国であることは明白な事実。ルールイスの王族ならばランド様の顔を覚えているかもしれないと言うのに、お父様の予言では暴走さえしなければ、ランド様の好きなようにさせてあげるように言われていても不安だわ」
ドロップはランドの為にルールイス城へ入る許可を得た。ランド達と別れたことで、バロック家への報告も済ませていた。
「本当に世界は変わるのでしょうか」
ドロップは月を見つめて独り言を呟く。
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朝からランドはアリスとドロップを連れて、ルールイス城へ見学にきていた。ドロップの提案でランドは変装をしている。変装と言ってもフードを被り、付け髭を付けただけの簡単なものだが、ランドとはわからない。
「先に言っておきますが、騒ぎは起こさないでくださいね」
ドロップがランドに念を押すように何度も繰り返す。
「わかっいる。ただ、見学するだけだ」
「それならいいんですが……」
三人が城の城門に来て門番に通行書を見せる。
「見学ですね。謁見の間とプライベートルームには入れません。あとは案内の者が来ますのでついて行ってください」
しばらく待っているとメイド服を着た女性がやってきた。
「皆様をご案内させていただきます。メイドのアリエルと申します」
アリエルと名乗ったメイドに付き従い、三人は城の中に入る。城の中に入ってすぐに、広いエントランスがあり、綺麗な柱と綺麗な中庭が続いている。
ランドはここに来たことがあるのだろうか、ここに自分を知る者がいるのだろうか、ランドは城の中を歩く度に見たことはないか?身に覚えはないか?考え続ける。
「ランド、どう?」
辺りを見渡しているランドにアリスが問いかける。
「まだわからない」
ランドは必死に辺りを見渡すが何も思い出せなかった。そして最後に通された兵士の訓練場、そこは確かに訓練を行っている兵士もいるが、大々的に修繕が行われた跡があり正直綺麗な城の中で、唯一ボロボロな作りに見えた。
「どうかしたのランド?」
訓練場に入った瞬間、ランドは足を止めた。愛しき人の面影は何も見つけることはできなかったが、この場所に入った瞬間一つの記憶が蘇る。ランドは確かにここで戦ったことがある。
光り輝く誰かと……「ここで戦ったことがある」ランドが発した言葉にメイドが反応する。
「ランド様でしたね。あなたは兵士だったのですか?」
「いや。俺は傭兵はしたことがあるが、基本は冒険者をしている」
「そうでしたか、もしここで戦ったことがあるとすれば、兵士だけの筈なのですが?」
アリエルはランドを疑わしそうに見る。
「あ~この人記憶喪失なんですよ。七か月前以上の記憶がなくて、たぶん記憶の中の場所と似てたんだと思います」
アリスが良かれと思って捲し立てた内容を聞いて増々アリエルの表情は厳しい者になる。
「七か月前、そうですか」
アリエルの頭の中に七か月前行われた光の勇者と、土の勇者の戦いが思い浮かべられる。
「フードを取っていただけませんか?」
アリエルはいつの間にかランドの前に立ちフードを捲り上げようとしていた。メイドとは思えない動きにアリスは呆気にとられた。ランドは冒険者としてSランクの称号を受けた者だ。いくらメイドらしく動きではないといっても、そう簡単に遅れは取らない。
「すまないが、私は全身火傷で太陽の光にすら弱ってしまうんだ。許してほしい」
「本当ですか?」
アリエルは疑わしげにランドを睨み付ける。ランドも首筋だけめくり火傷を見せる。それはランドが即席で作った物だが、そんな技術があることを知らない者にはわからないほど、精巧に作られた火傷の痕だった。
「これでよろしいか?」
「すいません。疑ってしまって、確かに火傷の後です」
ランドがは誤解が解けたと思い服を戻そうとするが、アリエルは突然兵士を呼び鈴を鳴らす。
「どうされました」
「皆さん慎重にお願いします。土の勇者様のご帰還です」
アリエルが言った言葉に兵士は固まる。土の勇者の名前、金剛 護はルールイスにとって忘れられない恐怖の対象となっていた。
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