盗賊になります終
ゲオルグの号令と共に村に盗賊達がなだれ込む。村は南と西に門があり、村の周りを壁が囲んでいる。門は、朝、昼、夜に開かれて夜の門の時に、畑や狩りに出た者が帰ってくるため、他の時間より少しだけ長い時間解放される。
村には小さなギルドがあり、クック村に住んでいる者達は危険なことが起きてもギルドメンバーや警備をしている若者が何とかしてくれるという思いがあるので気が緩んでいた。
その日も何事もなく過ぎていくものだと思っていた。
「「「キャー!!!」」」
門を抜けて流れ込んでくる盗賊達に、村人は慌てふためく、警備の者もいきなりの出来事に対応しきれない。盗賊達は村人に目もくれず、ギルドになっている二階建ての建物と村長の家に殺到した。
「村長と、ギルドマスターを捕まえろ!」
ゲオルグの怒声が響く。ギルドの前で怒鳴り声を上げるゲオルグの代わりに、ギルドに入りサントンがギルドマスターを引き吊り出してきた。さらにダントが手下を引き連れて村長を連れてきた。
「なんだ、貴様らは!」
ギルドマスターがゲオルグを睨みつける。ギルドマスターと言われるだけあり、荒くれ者を束ねるだけの肝が据わっているようだ。
しかし、サントンは手際よくギルドマスターを捕まえて抵抗を許さない。
「こんなことをしても何にもならんぞ。王国の兵士がきて、お前らなど蹴散らしてくれるはずだ」
続いて村長も声を出すが、初老に差し掛かった白髪頭の男は少し声が震えていた。
「黙っていろ」
ゲオルグの一喝に、二人は反論しようとするが、手下達が猿轡を噛ませ黙らせる。
「村の者達よ!」
ゲオルグは、盗賊達の所業を家の中で身を縮めて時が過ぎるのを待っていた村人達にも聞こえるように大きな声で話し出す。
「我らはシルバーウルフ盗賊団。今日から俺たちはこの村を支配する。何もお前たちの暮らしを脅かそうと思っている訳ではない。村長やギルドマスター共が行なっているような統治を引き継ぐだけだ」
早々にギルドマスターと村長を捕まえたのは、反論しそうな者達を黙らせるためだった。村人の誰にも手を出さなかったのは、脅かさないという言葉を印象付けるためだった。
「我々はバンガロウ王国に反旗を翻す。蔑まれていた者達よ、我の下に集え!ゲオルグの名において我はお前達を蔑まない。皆平等である」
ゲオルグの宣言は、村の中だけに発したものだけではない。この場で暴れないでいる冒険者ギルドのメンバーに向けた言葉だった。
冒険者ギルドのメンバーは、今から村を脱出することだろう。脱出したギルドメンバーは、他の村や他のギルド、バンガロウ王国にもこの宣言を伝えるはずだ。
それを聞いた者が、ゲオルグに賛同して行動を起こせばいい。
連邦はいくつかの島からなり、それぞれ小国が手を組んでいる。バンガロウ王国も、その一つで連邦に加盟している。
バンガロウ王国はアーク大陸に一番近い南にある小さな島だ。1万人ほどの人口で、王国に不満を持つ者は必ず出てくるだろう。
その者達へ向けての言葉を宣言したのだ。
村人にとっては意に沿わない物言いである。王国に支配され税を納めて生活していれば平和に暮らしていられたのだ。王国に反旗など考えたこともない。
ただ、ここで逆らっても殺されてしまうかもしれない。支配された者達にとって反骨心など湧くはずなかった。
「本当に逆らわなければ、おら達の生活は脅かされないのか?おら達は、あんた等みたいに国に逆らう気はないぞ。それでも殺されないか?」
ほっかぶりに麦わら帽子を被った村の男が、ゲオルグを見上げて声を出す。
「もちろんだ」
ゲオルグは村の男に対して大きくうなずいた。
「我はお前達の味方だ。もし王国に我らが討たれれば、お前たちは無理やり従っていたと言えばいい」
ゲオルグの言葉に、顔を伏せていた村人も少しずつ小さな声で話し出す。
「皆、今は耐えよう」
先程の麦わら帽子を被った村の男が、村人に向けて発する言葉で顔を伏せていた村人が顔を上げていく。
「そうだ。おら達の生活は変わらない。それなら反抗するだけバカだ」
村人の中にも段々と賛同の声が広がっていく。
「悪いようにはせんよ。皆の者、我らと共に立ちあがらん!」
ゲオルグが高々と馬の上で剣を突き上げると歓声が上がった。シルバーウルフ盗賊団は最小限の抵抗で村を手に入れることに成功した。
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広場から離れた家の陰で、先ほどまで村の代表のように話していたほっかぶりに麦わら帽子の男がほっかぶりを脱ぐと、黒髪、黒目のアクの顔が表われる。
「うまく行ったな。団長達に話したのは正解だった」
今回最小の被害で最大の功労を得ることができたのは、アクの作戦があったからだ。アクは自分が考えた作戦が上手くいったことで、小さくガッツポーズをした。ゲオルグ達に話して襲撃が行われるまでに一週間の時を要した。
それでも作戦を実行して良かったと実感できた。
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