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閑話 その他の勇者達31

 絶貴ゼツキは総大将の椅子に座り、状況報告を受けていた。


「絶貴様、現在均衡状態に入っております。玄夢ゲンム様の幻術により相手の進行は遅くなりましたが、相手は数にまかせて進軍しては他方にわたり、迂回して我らの背後及び本国を狙っておるようです」

「報告ご苦労。本国は紫苑がおるから心配するな。それより水の勇者のご様子はどうだ?」

「依然オロチの上におられるので、詳細は分かりかねます。見える範囲では毅然とした佇まいで戦場を見下ろしておられます」

「そうか・・・」


 絶貴は沈痛な面持ちで黙り込んだ。伝令は絶貴が黙り込んでしまったので一声かけて姿を消した。


「御免」


 現在オロチの魔法により遠距離砲撃が行われている。草原では玄夢の幻術で、迷路が作られて兵士の足止め及び各個撃破を行なっている。

 相手の魔導師はオロチの魔法を防ぐのに精いっぱいで攻撃には転じていないが、相手にはカブラギの十倍以上の兵士がいるのだ。消耗はこちらの方が激しい。長期戦になれば勝ちを得るのは厳しくなる。


 絶貴はこの戦いに乗り気ではなかった。しかし、戦いとは常に勝たねばならない。絶貴もそれはわかっているからこそ、次の一手を打たねばならなかった。

 絶貴は自身が鍛えぬいた生え抜きのシノビ部隊である、三十人の暗貴達を呼び寄せた。


「お呼びですか絶貴様」


 暗貴達三十人の長を務める、蘭丸が前に出る。


「お前達にやってもらいたい仕事がある」

「我々は絶貴様の手足、我々の磨いた腕を戦場で役立てていただけるとは光栄の極み」

「黙れ」


 怒気の込められた言葉に、暗貴達は押し黙ったが誰も怯えた様子はない。


「本来ならば戦場になどお前達を出したくはない。だが始まってしまったならば勝たねばならぬ」


 絶貴が自分達の事を心配してくれていることは伝わってくる。そして、戦いにかける思いの強さが暗貴達にも伝わっている。


「我々は絶貴様のために死ねることが本望なのです。我々は元々親が無く、絶貴さまに拾ってもらわねば死んでおりました。この命、いかようにでもお使いください」

「蘭丸、我は何も死んでこいなどとは言わぬ。生きて任務を全うしてほしい」


 絶貴の目を見て蘭丸はなんとお優しい方だと思った。しかし、戦場で行う任務は死ぬなという方が難しい。それでもあえて言葉にすることで、絶貴の想いが伝わる。蘭丸を含め暗貴一同嬉しく思い、どんな任務でも全うしようと思えた。


「して任務とは?」

「うむ。隊を三つに分ける。一つは本国に迫りくる我々の背後を突こうとしている別働隊を足止めもしくは撃破してもらいたい。二つ目はルールイスの本部に潜入し、情報収集及び敵の司令官を暗殺してほしい。三つ目はもっとも過酷な任務となる。ルールイス本国に入り、土の勇者の所在を確かめてほしい。本当に死んだのか、死んだのならば遺体はどうなったのか、死んでいないのであれば、どうしているのかを調べて来てほしい。戦争となっている今ならば警戒も緩んでいよう」


 絶貴が告げた任務に蘭丸がそれぞれの隊を分ける。


「絶貴様、隊を分けましたので行って参ります」

「ああ。武運祈る」

「はっ絶貴様もご武運を」


 蘭丸に続いて暗貴達が少し頭を下げて散開する。


「せめて水の勇者様の魂が少しでも救われればいいが」


ーーーーーーーーーーーーーーーー


 ルールイス本陣ではバッポスの指示の下、作戦を多岐に展開しようとしていた。


「相手は数ではなく質や技で戦いに来ておる。確実に次の一手を打ってくるはずじゃ。我々が押し切る為にも相手を撹乱すること必要じゃな」


 同じく本陣にて魔法隊の指示をしているテーテーがバッポスに頷き返す。


「そうじゃな。まさか向こうにあのような切り札があった事は誤算じゃった。我が魔法隊が完全に足止めを食らってしもうた」


 もし魔法隊が防御に回らなければ、今頃本陣は消し飛んでいたことだろう。普通の魔法師が放つ、実に千人分の魔法が、それぞれの首から六色の魔法として放たれる。

 しかもの種類が六色とも違う魔法なのだ。それに対応しなければならないため、魔法隊も疲労を重ねていた。


「とにかく今は相手の弱点を探すことじゃ。背後に抜けられるかわからぬが、隊を左右に分けて進軍させてみた。戦争に勝つため、カブラギ本国を攻める隊も編成した。草原を抜けられればよし。無理でもこちらが勝ってみせるわ」


 バッポスの言葉に将兵達は頷き合い、各戦場に向かう為に席を立った。


「ちょっと待っていただけますか?」


 一人の将兵が手を挙げる。


「なんだ、お前は?」


 バッポスが忙しい時にと思いながら、訝しげな顔で尋ねる。


「はっ。小官はカブラギ皇国方面、第一部隊隊長 キズキ・アンジェラスと申します」

「それでアンジェラス殿、何を待てと言うのだ?」


 バッポスの鋭い眼光がキズキを射抜く。


「えっと……今のままでは作戦は失敗すると思われます」

「ほう。何をもって失敗するというのだ?」

「はっ!それは二つの面から説明したいと思います。まずは現状の面から相手の目的が我々は掴めていません。何を以て終結となるのかわからないため、決着の仕様がありません」


 キズキはこの戦争に不可解さを感じていた。どうして戦争になったのか、どうすれば終わるのか相手の目的は何なのか、全くわからないのだ。


「野蛮な鬼人共が暴挙に出たのだ。全滅させればよいのではないか」

「では全滅させるためにルールイス王国が滅んでもよろしいと大将殿はお考えか?」

「なっ貴様、我を愚弄しておるのか」


 バッポスの鋭い眼光を受けてもキズキは怯まなかった。


「いえ。相手が何を考えているのか分からぬまま戦えば、必ず互いの滅びを招きます。相手は侵略者だと言われた方がまだ納得がいきます。「暴挙に出た!」と仰いましたが、どうして暴挙に出たのですか?私はカブラギ皇国との国境を守ってきました。もちろん彼らと話したこともあります。ですので、彼らの人となりを知っているつもりです。ゆえに彼らが戦いを挑んでくるような暴挙に出たのが不思議でならないのです」


 キズキの言葉に本陣が静まりかえる。


「貴様のような下級の者にはわからぬことだ」

「では上の方々はわかっているのですね」

「くどい!」


 バッポスの一喝にキズキは話を変えることにした。


「わかりました。ではもう一つは、私がカブラギ皇国方面の部隊長をしていたからこそ言えることです。彼らに今の戦力では勝てません。たとえ背後を取ろうと勝てないのです」

「その根拠は?」

「向こうに絶貴という総大将がいるからです」

「絶貴?聞いたこともないわ」


 バッポスが一笑に付す。


「でしょうね。だからこそ勝てないと言うのです。彼はカブラギ皇国に伝わるありとあらゆる術を使えます。そして彼には暗貴と言われる特殊部隊が存在します」

「それがどうしたのと言うのだ」

「バッポス様、お命を大切にしてくださいませ」


 キズキはそれだけ言うと本陣を後にした。自分の言わなければならない情報は伝えた。後はどう判断するかはバッポスが決めることなのだ。


「どうするのだ?」


 テーテーがキズキの言葉を聞いて、バッポスに質問する。


「どうもこうもないわ。作戦は変えん」

「そうかい、あんたも年だね。若い者の意見を聞いてはどうだい?」

「くどい、作戦はこのまま決行する。ワシはワシの考えを貫く」


 テーテーが何を言っても無駄だと思い、本陣を出ていく。そしてキズキの後を追い、質問を投げかけた。


「ちょっとお待ち、小僧。あんたに質問だよ」


 キズキは膝をつき、テーテーを迎える。


「これは内務大臣様、私に何用でしょうか?」

「さっきの絶貴はどんな技を使うんだい?」

「自然を操ります」

「平原で迷路を作っとる奴じゃないのかい」

「多分あれは相方の玄夢だと思います。彼は幻術と薬術に精通していたと思います」

「そうかい。随分詳しいね」

「彼らはとは……友ですから。カブラギとルールイスが友好関係を結んでいた時はよく国境を行き来していましたので」

「なるほどね。それであんたならどういう作戦を立てるんだい?」

「ルールイスの全面降伏。それができないのであれば、絶貴と戦わないために時間を稼ぐ長期戦をお勧めします。彼らは数が少ないため、消耗戦になればこちらに勝ち目がありますので」

「そうかい。呼び止めてすまないね。行ってもらっていいよ」

「はっ!失礼します」


 キズキと別れたテーテーは、厄介なことになったものだと本陣を振り返った。


いつも読んで頂ありがとうございます。

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