死神になります13
青い光に包まれたテリーの前に、黄い光に包まれた剣士が立つ。目映い光に意識を覚醒させたグリンダが見た者の名前を叫ぶ。
「サントン王!なぜあなたが?」
「真打は遅れてやって来るってか、女王、すまない。遅くなっちまった」
サントンはアクの魔法で転移してきた。そして辺りを見渡し現状を理解した。
自分は遅かった。多くのリバーサイドの兵が死体となって横になっている。もっと早く着いていれば防ぐことができたのに間に合わなかった。
「お前がやったのか?」
「何をだ。兵を殺したことを聞いているなら俺がやった。彼らは敵だからな」
テリーの目は何処までも冷たく、サントンを敵として認識していた。
「お前は許さない」
サントンの周りに黄い光が目映く光り出す。
「お前がバンガロウ王国の王ならば、俺もお前を許さない。亜人と手を組むような異端者を、許すわけにはいかない」
「じゃ、やるしかないな」
「お前が俺の相手になるのか?」
「やってみればわかるだろ」
サントンは二本の剣を抜いて交差させるように構える。テリーは腰に下げていた大剣を抜いて正眼に構えた。互いに体の周りに光を纏っていた。辺りは静けさに包まれ、互いに相手の出方を窺うように微動だにしない。
二人が動くのにいったいどれだけの時間が経ったことか、グリンダが息を飲むように唾を飲み込む。その音を合図に、先に動いたのはサントンの方だった。サントンは剣を左右に開き、半回転しながら後ろを向いて剣を突き刺す。
テリーは突かれた二本の剣を体勢を横にすることで受け止め、反動でサントンを押し返す。サントンは押し返された瞬間に、足に力を込めて跳躍する。サントンの意表を突く一撃にテリーは何の迷いもなく返した。更に追い打ちをかけるためにテリーが踏み出した一歩はすぐに引かれる。テリーが踏み出した足があった場所を、いつの間にか背中に背負った剣を抜いてサントンが斬りにいっていた。
グリンダは目の前で行われている戦いを、必死で目で追おうとするが、全く目がついて行かない。二人の戦いは次元が違っていた。グリンダにわかったのはそれだけだった。
ウォーターウォールは今も消えずに存在しているため、この戦いを見届けられるのは自分しかいない。グリンダはサントンの勝利を祈り続けた。
「この戦いが、この戦争の結果を左右する」
グリンダは他の戦場を見ていなかったが、バンガロウ王が出てきたということは、これが最終決戦だと言うことを意味しているように思えた。
「お前なかなか強いな」
サントンは本当に強い相手を目の前にして、喜びを隠せずにいた。サントンは王になってから、王としての素質を開花させた。しかし、本来の彼は戦うことを楽しむ単なる戦闘狂なのだ。
「強さなどどうでもいい。勝てばいいのだ」
「つまんねぇな。お前は強い奴と戦いたいと思わないのか」
「思わんな。俺はセントセルス神興国の教えに従うまで」
「そうか。お前ほどの男がつまらない生き方を選ぶんだな」
「俺は俺の信じた道を進むだけだ」
テリーに迷いはない。自分が信じた道に迷わない。それこそがテリーの強さでもあり、彼の純粋さがここまでの魔力を高め、強さを手に入れる資格を得た。
「ならやっぱり決着をつけるしかないな。俺にも守らなければならない奴が、山ほどできたからな」
バンガロウの王となり、サントンなりに覚悟はできている。
「決着を付けよう」
テリーは前にコウガと戦った時よりも遥かに強くなっている。洗練された魔力は体内の精霊を呼び覚ました。テリーに宿った精霊は、類を見ない力を持っていた。水の神と称される強大な力を持つポセイドンが体内に眠っていたのだ。
精霊に名前を付けて契約を結び、さらに精霊を体に取り込んだ。すると精霊と一つになったことで、圧倒的な力を得ることができたのだ。
強力な水の魔法も自由自在に使えるようになり、剣を振るう際の力も速度も段違いにレベルアップした。
テリーは大剣に力を伝える。
港に張っていたウォーターウォールを解いて魔法力を自身に集中させる。今までの光よりも巨大な青い光がテリーの体を包み込み、小さく研ぎ澄ませていく。研ぎ澄まされた分だけ力も速さも増していき、テリーが力の収縮を終えてサントンを見る。
そこにはまるでテリーと同じように力を研ぎ澄ませたサントンが黄い光に包まれていた。
「待たせたな」
「いや。お互い様だろ」
サントンは持っていた剣を地面に突き刺して、背中から二本の剣を抜く。
「身軽にしたか、次の一撃で決着だな。いくぞ」
「おう」
テリーの声に応えるようにサントンが身を屈める。双剣と大剣が、黄と青の光が、互いの国で一番強い者が剣を抜く。
「「うおおぉぉぉぉぉぉぉーーーー!!!!!!!」」
叫び声をあげて、二つの光が交差する。ぶつかる瞬間、二つの光が爆発して互いの光を消滅させる。
「やっぱ強いなお前」
サントンが剣を地面に突き刺して体を支える。
「お前みたいな奴がいるのか」
テリーの手から持っていた大剣が落ちていく。
テリーにとって生涯三度目の敗北、全力をぶつけたことでテリーは力尽きて意識を失った。ウォーターウォールに阻まれて、港に入って来れなかったハッサン、ダン、ドイル、アマンダが部隊を率いて雪崩込んできた。
司令官を失ったセントセルス軍はそれでも抵抗したが、司令官の力は大きくさらに兵数も半分に減り、セントセルス軍は時間と共に崩れていった。
力尽きる者、降伏する者、逃げ出す者と様々だったが、ハッサンはアクに相手が崩壊したときは無理に追わず、捕まえられる兵だけでかまわないと言われている。
リバーサイド方面の戦いが集結したことで、バンガロウ、シーサイド、リバーサイド王国同盟軍三万対セントセルス神興国軍十万の戦いはセントセルス神興国軍六万の死により終結した。
同盟国側の被害は、バンガロウ王国死傷者ゼロ、重軽傷者多数。シーサイド王国、一万二千人が船の戦いにて死亡。重軽傷者多数。リバーサイド王国、一万二千人中五千が船と共に沈み、テリーにより三千人が葬り去られた。
バンガロウ王国の港の戦いでは、アクが用意した百隻の小舟に炎の魔法を積んだ状態で、相手の船にぶつけて爆発させる方法を取った。相手はアクの策に為す術もなく、船が大打撃を受けた事で反撃することもできない状態のまま白旗を掲げた。
開戦して一日で全ての戦場は戦いを終えた。アク自身は被害も出さないまま戦いを終えたのだ。しかし、アクが予想したよりも相手に被害を出してしまった。戦闘とは机上通りにはいかないものだと、改めてアクは思い知らされた。
捕虜となったセントセルス新興国の司令官達をバンガロウ王国に連行する。残った兵士達は三つの国で分けて捕虜とすることになった。
これをもって一つの戦争が終わった。これはセントセルス神聖国が、バンガロウ王国に宣戦布告状を出してから一月後のことだった。
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