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死神になります11

ガレオン船を港につけたテリーは出迎えに来ていたムキムキの女性を見て、質問を投げかける。


「お前がリバーサイドの女王か?」


グリンダは予想よりも若い司令官に驚くが、膝を突き降伏を訴えた者として頭を下げる。


「はい。リバーサイド女王グリンダ・アマゾネスと申します。この度は我々の降伏を許していただきありがとうございます」


 礼を尽くす女性にテリーは冷ややかな目を向ける。


「ああ、俺はセントセルス神興国、筆頭聖騎士テリー・ハンソンだ」

「なっ?あなたが蒼き稲妻か」

「俺のことを知っているのか?」

「ああ。蒼き稲妻、聖騎士筆頭にしてセントセルス神興国の最強の矛」

「そんな風に知られているのか」


 グリンダの中で、まさか自分の相手が聖騎士筆頭だとは思わず息を飲む。よく生き残れたものだと安堵する浮かんでいた。


「それでですが、我々の扱いは?」

「別に本当に降伏するのであれば何もしない。しかし、偽りならば全員殺す」


 テリーの目は、冷酷なまでに全てを見透かされるような気持ちにさせられる眼力があった。グリンダは考えた。このままハッサンの言う通り兵を隠して内部からと、外部から相手を攻撃するか、正直に隠れた者も呼んで従うか、グリンダは改めてテリーの目を見ようと顔を上げる。それが間違いだった。


 テリーに嘘は通じない。


「偽りなどありません。私達はあなたに従います」


 テリーの目を見てグリンダは確信してしまった。勝てないと……ハッサンの作戦は無駄になると……


「ならばいい。では全兵力をここに集めろ」


 テリーの言葉にグリンダは冷や汗を流す。ハッサンの策は通じないと思うが、このまま何もできない自分も許せない。ならば時間を稼がねばならない。


「全兵力となると沖に出した船に乗っている者がいるのですが」

「かまわん。そいつらも集めろ」


 テリーに言われるがままに、グリンダは三種類の狼煙を上げる。


 一本目の狼煙には全戦力の集結を命じる意味を込めて

 二本目にはハッサンに作戦が通じないと伝えるために

 三本目にはなるべく時間を稼ぐ意味を込めて


 グリンダが時間を稼ぐことはできない。ならば集結する者達が時間を稼ぐならば仕方がなかろう。グリンダはテリーに目を合わせず、策だけを弄した。


「ああ。先に言っておこう。今より一刻を過ぎて、全員の集合が無ければ、それ以降四半刻毎に兵士を殺す。猶予がないので、迅速な行動を心がけよ」


 グリンダが行った全ての事が無駄だった。


「待たれよ。我々は降伏したのだ。そこまでする必要はなかろう」

「何を言っている女王よ。これは戦争だぞ。いきなり相手が降伏したからと言って信じられるはずがないだろ。なによりここはそちらの国だ。地の利もそちらが有利なのだ。逃げようと思えば、逃げられるかもしれない。我々は今できる最善の手を採るのは当たり前であろう。分かったならば我が軍に従え、一刻の間にお前達は港に立てられた家に監禁させてもらう。そちらが不穏な動きをすれば家には火を放つので覚悟されよ」


 確かにハッサンから伝えられたアクの策では自分は死ねと言われた。しかし、共に戦うと誓ってくれた者達の断末魔の悲鳴を聞いて私は耐えられるだろうか。

 テリーは言葉通り本当に一刻と四半刻が過ぎたとき、一人の兵士を殺した。


「待て、待ってくれ。テリー殿」

「どうした、女王。騒ぐのであれば殺す人数を増やすか?気持ちが変わって、急かす気になったか?」


 テリーの目に全くブレはない。


「そういうことではない。殺すならば我からにしてもらえぬか」

「ほう。女王自ら命を差し出すと?」

「そうだ。民に死を強いることはできぬ。お主らに負けたのは我だ。我の罪は我が受けねばならぬ」

「そうだな。だがお前が死んでも罪を受けたことにならない。貴様は死を覚悟していたならば、他の者を殺す方が罪になるだろ」


 テリーは的確にグリンダという人物を理解していた。グリンダは苦虫を噛み潰したような顔をして黙り込んだ。


「殺されるのが嫌ならば、急かすことだ」


 グリンダはテリーを睨みつけることしかできなかった。そのころハッサンは部隊を集結するため、ドイルとダンに合図を送っていた。ハッサンの横にはアマンダがいる。彼女はどこか不機嫌で、ずっと黙ってハッサンについてきていた。


「先ほど狼煙が上がりました。姉さまが集結を訴えています」

「それがどうした?」

「どうしたって姉様の命令が聞けないんですか?」

「最初から狼煙は上げることになっている。それにまだ時間はかかる。かけないといけない」

「もしかしたら仲間が酷い目に遭っているかもしれないのですよ」


 アマンダはハッサンの態度に苛立ちを感じていた。本当にこの男についていっていいのだろうか、姉のグリンダの命令が無ければ、すぐにでもとって帰り、姉様を守りたいと言うのにハッサンはそれ以降無言で何かを待っていた。アマンダにとって一番長い時間となった。


 馬の嘶きが聞こえ、ハッサンの下にドイル、ダンが集結する。そこにはバンガロウ隊二千、リバーサイド隊五千がいた。左右の船に乗っていた全ての兵を集結させたのだ。


「大将、お待たせいたしました」


 ダンが馬から降りてハッサンの前に膝を突く。ダンはすっかりハッサンの副官が板についてきた。


「ダン、待ったぞ。首尾はどうだ」

「滞りなく」


 二人の男は目を合わせて頷き合う。アマンダはそのやり取りに苛立ちを覚えた。何か策があると踏んで黙っておくことにした。


「反撃の開始だ」


 ハッサンが立ち上がり声を張り上げる。


「いくぞ、俺に続け!」


 ハッサンは兵隊を引き連れ戦へ見を投じる。バンガロウ軍のため、グリンダのために。

いつも読んで頂きありがとうございます。

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