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死神になります10

 リバーサイドの港でグリンダ・アマゾネスの横にハッサンが立っていた。ハッサンは、アクに授けられた作戦を行うためにグリンダ・アマゾネスを説得しているのだ。


「そんな戦い方できるはずがない」

「これしかないんだ」


 ハッサンがアクから授かった策は、賭けに近いものだった。相手の将軍の力量は関係なく、船と船の戦いで負けた場合に授けられた策なのだ。


「相手に降伏するのか?」

「ああ。戦いで勝つのがベストだ。しかし、現在いる兵達を温存するのも大切なんだ」


 ハッサンはグリンダに兵士を隠すように指示を出したのだ。もちろんハッサン自身も隠れる。そしてグリンダは負けを認めてもらい、相手の軍門に下り、時を待てと言うものだった。


「しかし、相手の兵力は二万弱は残っておるのだぞ。相手に無慈悲な扱いをされる恐れもある」

「船での戦いで負けた自分を恨むんだな。お前が有利に戦えば問題なかった。互角でもなんとか戦況を覆す手を授かっていた。しかし、負けた場合はなるべく被害を減らすことを優先するように言われている」

「最小の被害か、我らリバーサイドにはない策だ」


 リバーサイドは戦士の民なのだ。一兵卒になるまで戦い続ける覚悟をしている。顔を上げたグリンダの顔は、先程までの大敗を喫して情けない表情になっているのではなく、清々しい顔をしていた。


「よかろう。三千の兵を連れて行け。ここは我が護ろう。もちろん降伏と言う形でな」


 グリンダは潔くハッサンの策を引き受けた。王としての責任を取ろうとしているグリンダは覚悟を決めていた。


「よし、港に滞在する兵を千人。左右の船に乗っていた兵達を半分連れて行く。後は頼んだぞ」

「一ついいか?ハッサン殿」

「なんだ?」

「これは被害を最小に抑えるための策なのだな」

「ああ。もう少ししたらバンガロウから救援が来る。それまで待て」


 ハッサンが言う救援が本当に来るのか、グリンダにはわからない。自身が王として負けたのが事実、ならば潔く責任を取らねばならない。グリンダはそう考えたのだ。


「ならば従おう。一世一代のグリンダ・アマゾネスの演技を見ておれ」


 グリンダはサントンとハッサンの事を気に入っていた。本当に、この戦いが終わればハッサンの嫁になってもいいと思った。

 しかし、現実は残酷で、兵を分けて待ち伏せして相手を挟撃することに失敗した。自らの策が失敗したことは仕方ない。しかし、自分を囮として降伏し死ぬことを命じるとはなんとも恐ろしい。

 死神軍師 アクの策は残酷で実に面白い、グリンダはその策を飲むことを承諾した。もちろんグリンダに仕える者達は反対したが、彼らも一国を支えてきた重鎮達なのだ。戦争の意味を理解している。


「兵士達よ。我らリバーサイドは戦士の眷属だ。しかし、戦士は負ければ潔くならねばならぬ。我々は降伏しバンガロウの兵達を逃がす時間を稼ぐ。共に来てくれる者は我に続け、逃げたいもんはバンガロウに付き従え」


 女王の言葉は兵士一人一人に響いた。誰一人としてバンガロウに付いて行こうとする者はおらず、誰もが女王と共に歩む道を選んだ。


「バカな奴らだ。アマンダ」


 グリンダは、妹のアマンダを呼ぶ。彼女は戦士として優秀であるが、グリンダよりもかなり若い。


「お前は千人の若者を連れて、バンガロウに付き従え。これは女王命令である」

「しかし、姉上」

「くどい。これは王命である」

「はっ」


 アマンダを有無を言わせず送り出す。本当は抱きしめて別れを惜しみたいが、そんな時間はもうない。セントセルス船団がすぐそこまで迫っているのだ。


「行ったか、皆の者、我はこれよりセントセルスに降伏を申し出る。最後まで戦士でいてくれ」


 それは拷問を受けようと仲間を売るなと言う、グリンダなりの激励だった。


「テリー艦長。リバーサイドが白旗を振っています」

「うむ。作戦を弄するものが白旗を振るか、一つの作戦がつぶれただけで本当にそんなことをするだろうか」


 テリーはリバーサイド側からの降伏を疑わしそうに見つめた。しかし、戦場での白旗は降伏の印を意味する。それを無視して攻撃すれば完全に勝てるであろうが、卑怯者のレッテルを貼られてしまう。


「まあいい相手の降伏を受け入れる。船を港につけよ」


 それは開戦して半日しか経っていなかった。

いつも読んで頂きありがとうございます。

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