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死神になります9

 ジェシカ副官はテリーの作戦に応用を利かせて提案を加えた。


「それではこういうのはどうでしょうか。まずテリー艦長の言うとおり、魔法防御を敷いて相手に突っ込む部隊を作ります。さらに時間をおいて、同じ魔法防御部隊を仕掛けます。時間差で相手に攻撃を続けていきます。あちらは見える限り、ガレオン船が一隻、キャラベル船が20隻ほどです。こちらはガレオン船三隻、キャラベル船五十隻あります。これを十隻ずつの五段階に分けて攻撃を行ないます」

「うむ。確かにそれならば波状攻撃になって相手に罠があっても最小の被害で済みそうだ」


 ジェシカの提案を素直に受け入れ、テリーは作戦行動に移る。


「はい。魔法攻撃による遠距離射撃が基本ですが、相手があの位置で動かないという事は、何かあるのでしょう。テリー艦長の案で行きたいと思います」

「そこまで考えたら君の案だと思うが、まぁどっちでもいい。隊の編成を頼む。攻撃は、今より二刻後に行う」

「はっ」


 ジェシカ副官は胸に片手を当てて、神興国風の敬礼をして出ていく。見送るテリーも同じポーズをとる。


「上手くいくといいが、何かが引っかかる」


 テリーは戦争を経験したことはない。大規模戦闘は何度か経験しているが、それはあくまで陸の上なのだ。海での戦闘は正直初心者なのだ。

 だからこそ海での戦闘経験があるジェシカを副官に付けたのだが、テリーの胸の奥に何かが引っかかっていた。


「相手に動きがあります」


 リバーサイド女王グリンダ・アマゾネスは相手の動きを読んでから、後の先を取るために準備をしていた。リバーサイドの船が二十隻では少ないのだ。それは相手の知るところではない。

 相手には見えているところに船がある。それだけの情報を与えてやればいい。


「よし、第二艦隊、第三艦隊にいつでも出れるように準備をさせておけ」

「はっ」


 報告に来た女性に更なる伝令を伝え、グリンダは港で拠点にしている家に入る。


「さぁ相手はどうでるか、我々に戦いを挑んだことを後悔させてやる」


 グリンダは、獰猛な野獣のような目で海を睨み付ける。


「どうやら動くらしいな。相手は横に十隻、縦に五隻ずつ並んだな。何をする気だ」


 ハッサンは小高い丘の上にいるので、海がよく見渡せた。するとセントセルス神興国側は、船で隊列を組みだした。


「おいおい。海の上でそれは狙ってくれって言ってるようなもんじゃねえのか」


 ハッサンは相手が固まっている所に遠距離魔法をぶっ放せば終わるんじゃないかと楽観視していた。しかし、戦場が動き出すと言葉を失った。

 キャラベル船は陸を走る騎馬のように高速で海の上を滑るように走りだした。テリーが風魔法でそうするように指示を出していたのだ。一気にリバーサイド陣営に特攻をかけて銛を一射ずつ放ち、放った船は五隻ずつに分かれて横移動を開始する。


「なんだあの陣形」


 ハッサンは驚きすぎて崖から落ちそうになる。ガレオン船三隻を守るように五十隻の船が円の形になる。防御に重点を置いた陣であるが、リバーサイドの作戦に対して有効な手をうってきたのだ。

 リバーサイドの作戦は隊を三つに分けて、三方向から挟撃をかける作戦を考えていた。何も考えずに港に近づけば挟撃は大成功、もし隊を分けたとしても隠している別働隊の方が数が多くなり、奇襲には最適となる。しかし、テリーの取った作戦は、気になることをそのままにできなかった。テリーが最後に思いついた攻防一体の陣形をとったのだ。


「なんじゃあの動きは」


 グリンダも相手の予想外の動きにどうすればいいのか戸惑ってしまう。三方向から攻撃をかけても円状に動く相手では死角がない。


「ええい、突撃をかけよ。三方向同時攻撃ならば穴もできよう」


 リバーサイド陣営からの遠距離魔法攻撃が開始される。左右の崖の裏に隠していた船団に攻撃の合図を送る。港から打ち上げられた火の魔法は白い煙を出して狼煙のようになる。左右の船団は狼煙を確認して移動を開始する。

 彼らの位置からセントセルス船団の動きは見えていなかったのが不運だった。遠隔攻撃を繰り返しながら、現れたリバーサイド船団に対してセントセルス船団は正面から撃ち合える位置に陣を構えていた。

 数はセントセルスが上、魔法の精度も上で、セントセルスが有利な状況で、リバーサイドに勝ち目があろうはずもなかった。


「なんということじゃ……」


 海に沈むリバーサイドの船達を見て、女王は嘆きとも悲鳴ともつかぬ声を上げて叫んだ。


「これはダメだな。奴ら港に上がる」


 ハッサンは状況を見極めて事前に出していた指示を、ドイルとダンに実行してもらうために魔剣を抜いて魔法を放つ。バンガロウ隊は千ずつ分かれて左右の崖に走り出す。三日月まではいかないが、リバーサイドの港は岬になっている。左右の崖は海に近く、そこからでも魔法は海に届く。千人の兵が放つ矢と魔法の雨がセントセルス船団を襲いリバーサイド兵団の逃げる時間を稼ぐ。

 ハッサンは港に着くと、グリンダに船団の撤退を命令する。


「早く下げろ、全滅するぞ」

「私は……なんということを」


 グリンダも戦争の経験がない。ハッサンも無いが、ハッサンにはアクに授けられた、いくつかの作戦があった。


「そんなこと言ってる場合か、お前の命令が人の命を救うんだ」


 ハッサンの言葉で、グリンダも正気を取り戻した。


「そうだ。我は王なり。皆の者撤退だ。撤退の合図を送れぇ!」


 グリンダの声に伝令役は魔法を放つ。第二、第三兵団はかなりの数を減らしたところで撤退することができた。対してセントセルス兵団は三隻のキャラベル船が沈んだだけだった。


「被害を出してしまったか」


 テリーは三隻の船に対して敬礼をして目を閉じた。


「艦長、完勝です」


 そこにジェシカ副官がやってくるが、テリーの様子に目を丸くする。


「何をなされているのですか」

「うん?謝罪をしていた。俺の力が足らず死なせてしまったことに」

「そんな~これだけの完勝じゃないですか」

「一人でも犠牲が出れば同じだ」


 テリーの重い言葉にジェシカ副官は黙るしかない。


「だが、彼らの犠牲のおかげで勝てたのも事実だ。次は相手の拠点を落とすぞ」


 テリーの言葉にジェシカは顔を上げて、テリーに敬礼をする。


「はっ!艦長についていきます」

「相手の戦力は半減した。撤退した者達も動きを取れまい。これで見えている敵に集中できる」


 テリーは改めてガレオン船の上でリバーサイドの港を見つめる。

いつも読んで頂きありがとうございます。

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