死神になります2
アクが考えた作戦通りに、セントハルクを動かせたことができて安堵していた。なるべく人を殺したくないのは変わらない。セントハルクの性格を考えると、軍人としての矜持を優先するかもしれない恐れがあったのだ。先にこちらから提案すれば、従うよりもより良いものを求めて探究する相手だと思っていた。
「上手くいったな」
横に並ぶ水龍の族長 白扇がアクに声をかけてくる。アクよりも頭二つ分大きな体は、誰もいなくなった会議場を見渡している。
「まだまだこれからだ」
「マスターは策士なのだな」
「こんなものは策でもなんでもない。人の心を操るのは基本だ」
アクの言葉に白扇は面白いモノを見るようにアクの顔を見ていた。
「ほう~それでマスターはこれからどうするつもりなのだ?」
「俺にはお前達がいるからな」
「なんだそれは、我々頼りか?」
「そうだ。俺は自分の力で戦うんじゃない。人を使うんだ。戦争をするのも、それに指示を出すのも、全て人だ。人の心が分かる者にしか勝利は訪れない」
「ふはははは、さすがはマスターは、我が見込んだ男よ」
「お前達にも働いているぞ」
「まかされよう。アースの大地を狙う不届き者を、叩きだしてくれようぞ」
白扇は楽しそうに笑って胸を叩く。
「男共は楽しそうだね、これからどうなるのかな」
アクを見つめる七人の少女達、サーラはヤレヤレと言った感じで手を広げる。ルーやヨナも、アクを見つめて笑いが込み上げてくる。それは本来のアクが戻ってきたからだろう。
「ご主人様はどこでもご主人様だね」
「うん」
ルーがヨナに話しかけ、ヨナは嬉しそうに笑う。アクは次の一手に取り掛かるため、残された兵隊千人との顔合わせをすることにした。
「なんなんだ、こんな時間に集まれって」
会議が終わったのは、日が傾き闇を迎える前だった。
「どうせ俺達の出番なんてないのによ」
「セントハルク様が居れば負けないんだ」
「「「そうだそうだ」」」
兵士達はセントハルクの領内で過ごしてきた者が多く、セントハルクの強さを知っている。そのため今回の戦いでもセントハルクが最高司令官と聞いて安心していた。しかし、自分達の直属がセントハルクではないのが不満なのだ。
「皆さんお揃いのようで」
兵士達が不満を漏らしているところにアクが現れる。兵士達も宰相を相手に直接何かを言う勇気はないらしく、バツが悪そうにアクの顔をちらちら見る。
「皆さん随分たまっているようですね。そんなに私が司令官では不満ですか?」
「……」
先程の話を聞かれていたのかと兵士達はお互いの顔を見合わせて、お前だろと罪の擦り付け合いを始めた。
「別にあなた方がどう思っても戦争は始まります。しかも確実にこの街は戦禍に見舞われる」
「「「「「なっ!」」」」
兵士達がアクの話を驚き、初めて顔を上げてアクの顔を見る。
「現在バンガロウ艦隊は三部隊に分かれて、二部隊をシーサイド、リバーサイドの両国に送り挟撃を行う予定です」
「「「おおおぉぉぉーーーー!!!!」」」
兵士達の中にはセントハルクが考えた案だと知っている者もいるのかもしれない、そのため三方向からの挟撃作戦が叶ったことに歓声が上がる。
「しかし、相手も同じように隊を三隊に分けて進軍してくると私は考えています」
「はっ?」
アクの発言に兵士達は呆気にとられる。
「しかも相手は左右に分かれて二万もしくは三万ずつ分けるでしょう。一番多い本隊は正面から来ます」
アクの言葉に兵士達は聞き入り、誰も何も発しなくなった。
「そのため船も兵士も左右に分けた手前、我々はこの千人しかいない戦力で、本隊の何万人もの敵を相手にしなくてはいけません」
「そんなの無理だ!」
誰かが叫んだ言葉は、それはここに集まった兵士達すべての思いになった。
パンパン
「は~い、皆さんは無理だと思いますよね。ですが俺はできると思っています」
騒ぎ始めた兵士達はアクを睨みつける。そんなことができるはずがない。アクは出来もしない無理を言っているんだと、馬鹿にしたように見る者もいる。
「その力の一端を見せよう」
アクが振り返ると白扇が立っている。白扇がアクの前に出て、白扇に対して兵士達が疑わしげに見つめ続けていた。白扇の体が変化していき巨大な龍へと変貌する。
「これが俺の力だ」
アクがもう一度兵士達に語りかけるが、兵士達の目は龍に向いたままだ。しかし、驚きながらもアクの話には耳を傾けている。
「俺はアースを探検した。皆は聞いていないだろうか、変わり者の宰相の名を」
自分で名乗るのは恥ずかしいが、ここで宣言しなくては兵士達は動かない。
「俺の名前は阿久井 重、サントン王と共にバンガロウ王を倒した者だ」
アクの宣言を聞いて、バンガロウで生きていてその名を知らない者はいない。バンガロウを滅ぼした死神軍師アク、遠く離れて居ようと、バンガロウに住んでいれば聞かずにはいられない名前、アクの悪名はかなり有名になっていた。
「死神が我らの味方?」
「そうだ。お前達は死神を味方にした。この戦い勝つぞ」
「「「おおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉおおっぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!」」」
兵士達の心を掴むのにアクに時間はかからない。
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