死神になります1
今日から第七章開始です。
バンガロウ王国が誇る海戦隊五十隻が港町に集結していた。指揮をするのはこの国最強の男、最高司令長官セントハルク、副官に左翼担当ドイル、右翼担当バルベルトが指揮を執る。それぞれの補佐として参謀、百人長の名前が続く。
「本当によろしいのか?」
セントハルクの領地であるドレーダル街で、敵を迎え撃つため、臨時軍務基地としてセントハルク邸が選ばれた。この決定にセントハルクが断ることはなく、現在会議が行われていた。
セントハルクを中心にして、右に軍関係者が、左にはアク率いる、元シルバーウルフ幹部ハッサン、グラウス、ダン、そしてアクの護衛を務める七人の乙女が座る。さらに末席に一際大きな人影がいるが、誰もそのことに触れないようにアクが伝えている。
「かまいません」
現在、阿久井 重ことアクは、セントハルクが考えた三方向挟撃の案を実行してもいいと伝えていた。三方向挟撃はサントンやハックは反対したが、実にいい案だとアクは思う。
「ですが、王は他の方法を考えよと仰せだったが?」
「では、お聞きします。そんな都合のいい案がありますか?」
逆に聞き返されてセントハルクの方が困惑する。セントハルクは戦場でのアクを知らない。戦場でのアクを知っている、アク側に参列している面々は、セントハルクが困っていることを愉快な気持ちで見ることができた。
「確かに私も考えました。相手を生かしつつ殲滅するのは至難の業です。しかし、やらねばならない、それが王命です」
「そんなことは関係ありません。要は相手に付け入る隙を与えなければいい」
自信たっぷりに話すアクに、セントハルクはますますわからなくなる。この男は何を言っているのだ、王命に逆らえと言うのか?そんなことはできない。
「完膚なきまでに、セントセルス軍を叩きます」
それはセントハルクが最初に王に言った言葉だった。まさかこの男が私と同じ考えだとは思わなかった。
「確かにそれが一番手っ取り早いが、いいのか?今後の遺恨を残すことになるぞ」
「戦争をしているんです。どんな形でも遺恨は残るでしょう。むしろ残らないほうがおかしい。それが戦争です。どんな結末でも他国の兵同士がぶつかれば遺恨を残します。現に他国が攻めてきている今、我がバンガロウ王国は浮足立ち、民は怯えて暮らしています。これを遺恨と言わずしてなんと言います」
アクの演説を聞いて、ドイルやバルドベルトは何度も頷く。だがセントハルクはクソが付くほど真面目な男である、融通が利かないともいう。
「私は王命に従います。極力敵を殺さず殲滅します」
アクはセントハルクの反応に、内心ニヤリと笑いを堪えていた。
「そうですか、残念です」
アクは本当に残念という感じで首を振る。ハッサンとグラウスは、アクの態度によくやるとなと苦笑する。
「ではセントハルク様はどうされるおつもりですか」
「隊を二つに分ける。それぞれシーサイド、リバーサイドに隊を集中して二方向から敵を撃退する」
四千人の兵隊をさらに分ける作戦は無謀にも感じる。
「それではバンガロウが危険では?」
「寄せ集めですが、一千の兵を残して敵を陸から攻撃します。指揮は私が執る」
「こちらを三方向に分けると言うんですね」
「そうだ。何かほかに案でも?」
「いえ。しかし、修正をお願いします」
「修正?」
「はい。右翼にセントハルク様とバルドベルト。左翼にドイルとハッサン及びダンを付けてください。中央は私が守ります」
「お主が街を守り切れると?」
今度はセントハルクがアクにけしかける。
「ええ。むしろそうでなくては守れません」
アクは強い目でセントハルクの顔を見つめ返す。
「私はあなたを見誤っていたようだ。あなたも戦士なのだな」
セントハルクが、アクの目を見て納得する。
「わかりました、中央はあなたにお任せします」
ドレーダル海戦が始まろうとしていた。
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