表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
101/213

閑話 その他の勇者達26

今日からいくつか閑話を挟みます。


どうぞお楽しみいただければと思います。

 目の前に広がる二万の軍勢を、オロチの上から見下ろす白雪シラユキ シズクはその先を見ていた。


 ルールイス王国は世界第二位の国土と人口を持つ。魔王によって、五分の一が消滅はしたが、今も多くの人口を有している。さらに他の国を凌ぐ魔法技術が発展している国としても知られ、集大成として勇者召喚を成功させている。


 カブラギ皇国は魔法にはあまり秀でていないが、独自の戦闘技術である忍術を得意として、厳しい修行の末、身に着けられるため戦闘を行う者は一騎当千の実力を持つと言われている。数はルールイス王国の十分の一しかいないが、水の勇者の魔法により、補助されて強化、自動回復されている。


「いよいよですね」


 絶貴が雫の横に立つ。


「ええ。あの人の仇を討てる」

「仇ですか?」

「あの人も、こんな世界に呼ばれなければ死ぬことはなかった。この世界に召喚したルールイス王国は決して許さない」


 雫が開戦を知らせるためオロチに魔法を使わせる。六色の光の虹が、ルールイス王国の兵達に降り注ぐ。


「魔法隊前へ」


 オロチから放たれた光の虹が、ルールイス王国魔法隊によって防がれる。光が弾けると同時にルールイス王国軍が一斉に動く。


「「「ウォォッォォォォォーーーー」」」


 五千人もの人間が。大草原をかけて地響きが巻き起こる。対するカブラギ皇国は百ほどのシノビだけで草原をかける。一人が五十人を相手することになるが、カブラギの忍び達は一人として臆する者はいない。


 先陣を切るは玄夢ゲンム率いる部隊である。玄夢が得意とする水の魔法を使った幻想の世界が作り出される。五千人のルールイス王国軍は大草原の中で幻想の世界に迷い込む。行けども行けどもゴールの見えない迷路、玄夢が作り出した幻想世界は広大な大草原を埋め尽くす強大な迷路となった。


「いきなり本気だな」


 絶貴は久しぶりに玄夢の本気を見る。


「あなた達は私の行動を止めないの?」

「何を今さら。我々はあなたのため、そして姫様のために動きます」

「そう、では全力でお願いします」


 絶貴はそう言った雫の顔を見た。雫の顔には、ほとんど表情が無かった。しかし、横顔がまるで泣いているように見えたのは気のせいではないだろう。絶貴は改めて雫に言葉をかけることはなく、自分の持ち場に帰ることにした。


「絶貴様、本当に戦争になってしまいましたね」


 絶貴が総大将の席に戻ると、絶貴の小姓を務める蒼塁アオルが声をかける。


「そうだな。水の勇者様の願いだ。我々は古くからの盟約により、水の勇者様を助けるだけだ」

「本当にそれでよろしいのですか、このまま数で戦えば確実に我が国は勝てないのですよ」

「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない」

「どういう意味です?」

「我々の目的は水の勇者様の望みを叶えて差し上げることだ」

「だからそれでは我々は滅んでしまうのでは?」

「あの方は優しい方でな。確かに今は愛する者を奪われて何も見えなくなっておられる。しかしあの方は優しいだけでなく強い方でもある」

「優しくて強い?」

「ああ。本質を見誤らない方なのだ」


 絶貴は復讐に駆られる雫のことを信じている。


「私にはわかりません。初めてあったときの勇者様は何もできなさそうなひ弱な女性でした。次にあった勇者様は、確かに化け物のオロチを従えて現れたときは本当の勇者様に見えました。しかし、土の勇者の死を聞いた途端、部屋に籠りきりになり、出てきたと思えば戦争です。私には勇者様の優しさも強さもわかりません」

「蒼塁、お前は我の後を継ぐ者だと思っている。だからこそお前の目で見た真実を見極めよ。この戦争の結末を」


 絶貴はそれ以上は何も語らなかった。蒼塁も絶貴が言った言葉を聞いて考えに耽ることにした。


「色々な思いがあるな」


 天幕に入った絶貴は、水差しから水を汲み口に含む。


「この戦争の結末か、俺自身は何を見るのだろうな?」


 天幕の中からずっとオロチの上で戦場を見つめている雫を見る。儚く脆かった少女は復讐者となり、国を動かす。


「今宵は玄夢の力が尽きるまでは戦いは終わらないだろう」


 絶貴は用意されたベッドに寝そべり休息を取る。悲しみに満ちた戦場を見ていると気が滅入る。戦場を見下ろす雫は何も感じない。心が死んだように只々戦場を眺めるだけなのだ。


「オロチ、大丈夫?」

「はい。雫様もよければ私が表皮で作ったテントの中でお休みください」


 オロチは自分の表皮で作ったテントの中に雫を誘導する。


「いいえ。私はこの戦争の立役者。見届ける責任があります」

「倒れないようにお願いしますね」

「ありがとう。もう私にとって必要な人は、この世にいないのだから、どちらでもいいのだけれどね」


 雫の言葉にオロチは何も返さなかった。自身の主人はとても強い、自身が認めたお方なのだ。ただ今は守ってあげたいと思う。こんな気持ちが自分にもあるのだと驚きながら雫と共にこれから始まる戦場を見続ける。

いつも読んで頂きありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ