盗賊になります4
「そこに誰かいるんですか?」
女性の声が聞こえて、アクは魔法の痕跡がないか辺りを見渡す。それから急いで声のする方へ視線を向けた。
「誰だ?」
アクは声に対して質問で返した。
「私が聞いてるんですけど。私はエリス、あなた新入りさんね。こんなところで何してるの?」
エリスと名乗った女性は、高校生ぐらいで18歳ぐらいだろうか?ロングの赤い髪に、幼さを残す顔立ち、綺麗と言うより可愛らしい印象を受ける女性だった。
「エリスさん。はじめまして、今日からシルバーウルフ盗賊団に入ったアクです」
「アクさんですね。はじめまして」
「えっと……エリスさんこそこんなところで何をしてるんですか?」
「アクさんは質問が多いんですね」
「すみません……」
少しムッとした態度でエリスに言われ、明らかに年下の女の子に怒られて肩を落とす。
「まぁいいですけど……」
「エリスさんは……誰ですか?」
「誰って……アクさんあなたこそ誰ですか?」
エリスはアクのわけのわからない質問にますます怒った顔をする。
「質問が悪かったですね。俺は記憶喪失で自分がわからないんです……」
「えっ!記憶喪失?ごめんなさい」
エリスは記憶喪失と聞くなり、怒った顔から戸惑いの顔になり、勢いよく頭を下げた。
「どうしたんですか?」
「記憶喪失って知らなかったの。私は魔力を感じて、人がいたから警戒してしまって」
エリスは警戒からピリピリしていたようだ。
「魔力?」
「この近くから魔力を感じたんです。私、火の魔法使いなんです。だから気になってしまって」
「火の魔法使いなんですか。スゴイですね」
どうやら魔法使いは他の魔力を感知できるらしい。気を付けておかなくちゃ。
「そんなことないです。そんなことより記憶喪失のアクさんがどうしてこんなところにいるんですか?」
「少し一人で考え事をしたくて、クック村を襲撃すると聞いたので、正直戸惑っているんです」
「えっ、またお父さん達、何かしてるんですね……」
「お父さん達?」
「はい。私のお父さんダントって言うんです」
「えっ、ええーー!ダント副団長の娘さん」
「副団長・・・」
俺の発言にエリスは頭を抱える。
「私達は静かに暮らせればそれでいいのに」
エリスは苛立たし気にブツブツと呟いている。
「エリスさん?」
「なんですか?」
質問をしようと名前を呼ぶと、鬼の形相で返された。アクは背中に冷や汗が流れた。
「すみません!」
アクがエリスの態度に勢いよく頭を下げたことで、エリスもやつあたりをしていることに気づいて頭を下げる。
「アクさんが悪いわけじゃないのに、私こそごめんなさい」
「いえ、大丈夫です」
アクは腰が引けてビビッて顔が歪んでしまった。そんなアクの姿がおかしかったのか、エリスが笑い出す。
「ふふふ。アクさん、なんですその顔は。ふふふ」
エリスが笑うと、ますます幼く見えて、でも、その幼さの中に女性らしい可愛らしさが垣間見える。
「どうかしましたか?」
ボーと見つめていたアクを不思議に思ったのか、エリスが首を傾ける。
「いえ、可愛いなって思って・・・」
「えっ、かわっ、えっ」
エリスは不意を突かれたのか、狼狽して顔を赤くする。
「いや、なんでもないです」
年下の女の子に何を言ってるんだ。アクも言った後で顔が熱くなる。
「そんなことより、ダントさん達の事だけど」
無理矢理にでも話題を変えようと、エリスが気にしている話を振る。
「えっ、あっはい……」
エリスも、アクの意図を察して話に乗ってくれる。
「この盗賊団は岐路に立ってるんだと思う。エリスさんが知らないってことは、村の人の何人かは知らないってことかな?」
「多分男の人達で騒いでいるだけだと思います」
「でも少しの女性や子供もいたけど?うーん、確かに危険かもしれないな」
「危険なんですか?」
エリスが父親を心配して、アクの顔を覗き込んでくる。
「はい。村全体で一致団結できていないのなら、危険かもしれません。エリスさん、いくつか質問してもいいですか?」
「いいですけど。アクさん、敬語もなんだか堅苦しいので、普通に話しませんか?」
エリスもエリスなりになんとか心配を誤魔化そうとアクに提案する。
「へっ」
「だから敬語をやめましょう。私のことはエリスと呼んでください」
「えっ、でも……」
「父の事は気にしないで」
「わかりました。よろしく、エリスさん」
「名前も呼び捨てで」
「わかったよ。エリス」
「はい、よくできました。よろしくね、アク」
エリスはそういうと握手を求めてきた。
「それより聞きたいことって何かしら?」
アクがエリスの手を取ると、エリスの方から質問される。
「村ってどんな作りをしているのか、ここみたいに何軒か家が建ってるだけなんだろうか教えてほしい」
「そうね……アクは記憶がないのよね、知らなくても仕方ないわね」
「うん」
本当は記憶喪失は嘘だけど、この世界の知識がないのだから同じようなものだ。記憶喪失だと思ってくれている方が質問するのに都合がいい。
「村って呼ばれてるものは、何軒かの家や馬屋、ギルドや商店を門と壁でグルリと囲っているのよ」
「城郭都市みたいなものか?」
「ジョウカクトシ、何それ?」
「いや、何でもないよ」
「そう?」
エリスは不思議そうな顔をしている。まずいまずい、あんまり変なことを言わないようにしないと。
「じゃこことはだいぶ違うんだね」
「そうね、ここは廃墟を改造しただけだから。何で、そんなこと聞くの?」
「村を襲うのを成功させるためにね」
「何よそれ!!!」
下手に隠すより正直に話した方がいいだろうと思ってアクは考えをそのまま伝えた。エリスはまた怒り出した。
「エリス、落ち着いて」
「落ち着いてなんかいられないわ」
「エリス、まだ質問があるよ」
「アク、後にして」
エリスの腕を掴む。
「ダメだ!!!」
強い口調で言われて、エリスがビクっとなる。
「何よ、どうしてアクが怒るの?」
「怒ってはいないよ、ただ大事なことなんだ」
「大事なこと?」
「ああ、村の人達は襲撃された後、服従するものなの?それとも最後まで抵抗し続ける?」
民衆の思考を知らなければその後の行動を決めきれない。
「そんなの簡単よ。降伏するわ」
「なんで簡単なんだ?」
「あなたこそおかしなことを聞くのね。降伏しなければ村ごと滅ぼされちゃうじゃない。みんな死にたくないもの。支配者が変わるだけで、生活が変わるわけじゃないんだったらそのまま受け入れるわよ」
「そう……なのか」
思案顔になって黙り込んだアクの顔を、今度はエリスがボーと見つめる。先ほどまでの慌てたり、卑屈な感じがして頼りなくてお世辞にもかっこいいとは言えなかった。
しかし、エリスの腕を掴み怒鳴られてから、アクは男らしい顔になっていた。村の若い者達が見せる野蛮な男らしさとは違い。どこか知的さを感じさせるアクの顔は他の男達と違って見えた。
「エリス。お頭達のすることもあながち間違いじゃないかもしれない」
「えっ、でも騒動を起こせば今度は王国の兵が攻めてくるかもしれないのよ。危ないじゃない」
「その前に村を掌握できれば、何とかなるかもしれないぞ」
アクは何か決意した顔になる。
「エリス、ありがとう。お頭達に話してくるよ」
「えっ、ちょっと」
エリスが呆気にとられている間に、アクは走り去って行った。
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