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復讐の意志と因縁の過去

 しんしんと降り積もる雪の中、二人のアイザーの部下は意識の無いギルシュを荷台で運んでいた。


「なあ? 川に落とすのはやりすぎじゃねえか? 一応アイザー様の兄上で元ノーランド家の跡継ぎのお方だぜ?」

「お前は馬鹿か。アイザー様はギルシュ様のおかげで不幸な幼少期を過ごしてきたんだ。アイザー様の気持ちを考えれば当然のことだろう」

「……他言はできねえけど、そもそもガイウス様が二人も正室を取らなければ、こんなことは起こらなかったのかも知れないな」

「そんなこと言っても仕方ないだろ。ほら、川が見えたぞ」

 二人が話している間に、ここらの地域ではとても有名(流れが速いことで)な大河、『ユーフラ川』に到着した。

「よし、ここでいいよな」

「そうだな」

 二人が荷台からギルシュを持ち上げようすると、突如意識が無いはずのギルシュの眼が開いた。

「な、意識があったんですか!?」

「今目覚めたばっかりだ……」

 ギルシュは体を起こそうとするも、彼の体は言うことを聞かない。

 そんな彼を見て、部下達は互いに耳打ちする。

「(おいどうする? 最早ギルシュ様は動くこともできない。ここで放っておいても同じじゃないか?)」

「(確かにそうだな。これ以上ここにいても、俺達まで凍え死ぬだけだ)」

 耳打ちをする部下達に、ジークは尋ねた。

「貴様らは…… 俺を殺す気か?」

「アイザー様は貴方を川に落とせと仰せられました。しかし、一応ガイウス様の血を引いている貴方を川に落とすのは忍びありません。どこかの民家でかくまって貰って下さい」

 部下の一人はギルシュが動けないにも関わらず他人事のように言う。

「では、私達はこれで失礼します」

「ふざけるな…… 俺はノーランド家当主だぞ…… その俺を見殺しにするのか?」

 二人の部下は互いに顔を見合わせると、ギルシュを鼻で笑った。

「もう、誰も貴方のことなど当主だとは思っていませんよ。ノーランド家当主は貴方の弟君のアイザー様です。貴方も分かっていることでしょう?」

「ついでに、さっきのアイザー様の言葉がご理解できなかったのなら言っておきますけど、貴方の母君や直属の部下達は私達が皆殺しにしました。最早、貴方の味方はどこにもいません。」

 そう言い残して、二人は逃げるように去っていった。

「ふざけるな…… 俺は、俺は父上に認められて、ノーランド家を継いだんだ! なのに、なのに貴様らが、アイザーが俺の全てを奪った!」

 動かない体から振り絞るようにギルシュは声を張り上げた。

「俺は死なない! アイザー、俺の全てを奪った貴様を絶対に許さない!! 貴様はこの俺が、絶対に殺してやる!!」

 しかし、そんな彼の叫びをかき消すかのように吹雪が彼を襲った。

 体表に熱を纏うことで体温を奪われることは防げたものの、勿論、それで何かが変わるわけでも無かった。

 

 しばらくして、彼の意識は完全に失われた。





 その頃、アイザーは同年代くらいのお下げ頭の少女の使用人と話していた。

「アン。邪魔だったジジイはぽっくり死んで、ギルシュの野郎もそろそろ俺から受けた傷で死んでいるはずだ。ついに、ついに俺は念願のノーランド家の当主になった!」

「アイザー様。私はギルシュ様を追放する、いやお命を奪う必要は無かったと思います」

 アンの言葉に、アイザーは目を細めた。

「アン? お前は変な物でも食ったのか?」

「いえ、私はいつでも正常です。そこのところを良く理解してください」

「相変わらず、お前は堂々と物を言うな」

「どうも」

 愛想のない返事を返すアン。

「お前も知っているはずだが、俺は親父に疎まれていた。そして親父に好かれていたギルシュが憎かった」

「………」

「そして、あいつの母親、俺の継母は俺の母上を毒殺した。唯一俺を見てくれた母上をな」

「………」

「なのにあの親父は何もしなかった! 俺に同情すらせずに、追い討ちをかける様にギルシュを愛し続けた! だから殺してやったんだよ! 俺の母上を殺したあの女とギルシュの側近をな! クソ親父め! ざまあ見やがれ! これが手前がギルシュを愛して俺を疎んだ結果だ!」

「全く、それならギルシュ様は何も悪くは無いじゃないですか。アイザー様の嫉妬ですよ」

 アンは溜息混じりに呟いた。

「そうか、お前は何も知らねえんだよな」

「知らない?」

「俺の母上を殺すように自分の母親に促したのは、あの野郎なんだよ」







「……ん……?」

 

 ギルシュが目覚めたのは、木造の建物の中であった。

「良かった…… もう目を覚まさないかと思った……」

 輝かしい肩まで伸ばした金髪が特徴の玉のような美少女がほっとしたように呟く。

「俺は…… 雪の中で倒れていたはずだ…… お前達がここに連れてきたのか?」

「うん、数時間前くらいに雪の中で倒れている君を見つけたの。後少し見つけるのが遅かったら危なかったよ」

「そうか。感謝する」

 ジークはそっけなく言うと、体を起こそうとする。

「っ……!」

 その瞬間、彼の体に激痛が走った。

「駄目だよまだ起きちゃ! 二、三週間は安静にしていないと」

 少女が注意すると、ギルシュは再び横になる。


「どうやらエリアの拾ってきた少年は命に別状はないようだな」

 エリアとのやり取りを見ていたのか、奥からポニーテールの長身でスタイル抜群の女性がやって来た。

「ティーナさん」

「ようエリア、よかったな少年が大丈夫そうで」

「ええ、私の応急措置が役に立って嬉しいです」

 エリアはティーナに向かってにっこりと微笑んだ。

「可愛い! お前のその天使のような笑顔がとてつもなく可愛い! あたしはお前と結婚したい!」

「私は普通に男の人が好きなのでお断りです」

「えー? これでもモテる要素はあると思うんだけどなー?」

 そう言って首を傾げた後、ティーナはギルシュの方を見た。

「こんちは、あたしはティーナってんだ。こっちは仲間のエリア。アンタのまだ傷は治ってないから、ここでゆっくりと養生してけよ?」

 ティーナの心配を振り払うかのようにジークは尋ねる。

「おい女共、ここはどこだ?」

 彼の質問にティーナは軽く溜息をつきながら答えた。


「ここは『悪魔デーモンクロー』だよ。有名な殺人ギルドさ」






 


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