序曲
幕開け
――その日、民衆は歓喜に沸いた。
ある者は泣き、ある者は笑い、あるものは空に向かい言葉にならぬ叫びを放った。
もうこの先二度と憂える必要はない。
永きに渡る絶望は今日終わりを告げ、未来の解放が約束された。今この瞬間から人々は天を仰ぎ生を謳歌することを許されたのだった。
私の告げた託宣に身を震わし、涙を流して神を称える人々を見下ろして微笑む。抱き合い、ただそれ以外の全てを忘れてしまったかのように歓びを瞳から溢れさせながら。いつまでも鳴り止まない歓声はやがてこの広場から国中に、そして残りの大陸中に広がるだろう。
おめでとう。
心の内で呟く。皆が一様に幸福の渦に飲まれていく様がそこにあった。
祝福しよう。民たちよ。そして間に合った奇跡に、賛辞を贈る。
首都にあって最も高き背後の尖塔を振り仰いだ。人の歴史と同じく遥かな昔より佇み続ける塔は抜けるように白く、どんな材質で出来たものか僅かも衰えを見せない美しさで私を、民を、国を、そして大地をも睥睨する。……あるいはいずれ迎える主への期待に打ち震えてでもいるのかもしれない。
遠からずその頂には「炎」が灯るだろう。
世界の創世の際に失われたという、命を生み滅ぼす力が気の遠くなる時間を経てようやくこの地へ、戻るのだ――
そうして、塔よりも奥、街の周囲を囲う壁よりも彼方に映る影を見る。
沈黙をもって座すその姿は地平を覆うほどに広大で、昇りゆく日を遮り光を削っている。
ゆっくりと陽光が縁取り全貌を照らし出した時、そこに現れたものは、
大地を噛み砕かんと口を開いた巨大な、あまりにも巨大な生物の顎だった。
タイトルの読みはあれでトゥーランドットです。
わかりにくい。