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『心を閉ざした未亡人受付嬢は、大型犬系年下冒険者に溺愛される』  作者: 菫


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第3話 努力する年下の一途さ

読んでいただきありがとうございます。

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第3話 努力する年下の一途さ



 ルークは、本気だった。


 最初は誰もが笑っていた。


「受付嬢に振り向いてもらうために強くなる、だと?」


「若いな」


 からかい半分、応援半分。


 だが三か月後、その空気は変わる。


 Eランクだった彼は、Dランクへ。


 さらにCランクへ。


 昇格試験では誰よりも泥だらけになり、誰よりも最後まで立っていた。


 剣筋は荒削りだが、伸びがある。

 無茶はしない。仲間を置いていかない。


 何より、諦めない。


     ◇


「また昇格ですか」


 昇格報告書を見つめながら、レティシアは淡々と言う。


 内心の動揺を悟られないように。


「はい!」


 目を輝かせるルーク。


「受付さんに少しは近づけましたか?」


「何に、ですか」


「理想に」


 真正面からの言葉。


 レティシアは書類に視線を落とす。


「実績は評価します。ですが慢心は禁物です」


「はい!」


 叱責すら嬉しそうに受け取る。


 どうして、そんな顔ができるのか。


     ◇


 ある日、彼は重傷で運び込まれた。


 Bランク昇格直後の危険依頼。


 大型魔物討伐は成功。


 だが仲間を庇い、深手を負った。


「なぜ無茶を」


 思わず声が強くなる。


「無茶じゃないです。守りたかっただけです」


 血の気の引いた顔で、それでも笑う。


 あの日の光景が脳裏をよぎる。


 遺体で帰ってきた夫。


 冷たい手。


 閉じた瞳。


 心臓が強く締めつけられる。


「……次はありません」


 震えそうになる声を押し殺す。


「はい。でも、俺死にませんよ」


 なぜ言い切れるのか。


「約束します。受付さんより先には絶対に」


 冗談めかしているが、目は真剣だった。


     ◇


 その夜、レティシアは眠れなかった。


 ベッドに横になっても、浮かぶのは血に染まった彼の姿。


 無事だと分かっているのに、胸がざわつく。


 ――どうして。


 ただの冒険者。


 それだけの存在のはずなのに。


 翌朝、彼が元気な顔でギルドに現れた瞬間。


 胸の奥がほどけた。


「おはようございます!」


 いつも通りの笑顔。


 思わず、口元が緩みそうになる。


 慌てて表情を整える。


「安静にと言ったはずです」


「じっとしてると落ち着かなくて」


 大型犬みたいだ、と誰かが言っていた。


 本当に、その通りだ。


     ◇


「レティシア」


 低い声に振り向く。


 父――ギルド長だ。


「あいつ、本気だぞ」


「何の話でしょう」


「分かっているくせに」


 父は苦笑する。


「強くなる理由が一人の女とはな。だが、悪くない」


「……若いだけです」


「若いから本気なんだ」


 図星だった。


「失うのが怖いか?」


 息が詰まる。


 何も言えない。


「お前はもう十分泣いた。幸せになることまで拒む必要はない」


 優しい声が、余計に痛い。


     ◇


 半年後。


 ギルドホールがざわついていた。


「まさかだろ……」


「最年少記録だぞ」


 カウンターに差し出された認定証。


 そこにははっきりと刻まれている。


 Bランク。


「……本当に、なったんですね」


 声が、わずかに震える。


「はい」


 ルークは真っ直ぐ彼女を見る。


 以前より背が高く見える。


 顔つきも、少し大人びた。


「約束、覚えてますか」


 胸が高鳴る。


「Aランクになったら――」


 一歩、近づく。


 周囲が息を呑む。


「俺と付き合ってください」


 真剣な瞳。


 逃げ道を作らない、まっすぐな告白。


 嬉しい。


 胸が熱い。


 誇らしい。


 でも。


 言葉が、出ない。


「……まだ、Aランクではありません」


 それが精一杯だった。


 一瞬だけ、彼の目に寂しさがよぎる。


 だがすぐに笑う。


「じゃあ、なります」


 即答。


「必ず」


 その背中を、見つめる。


 強くなった。


 確実に。


 彼はもう、守られるだけの少年ではない。


 なのに。


 胸を締めつけるのは、別の感情だった。


 もし。


 もし、彼が。


 あの日のように――。


 思考が止まる。


 気づいてしまう。


 怖いのだ。


 彼が死ぬことが。


 彼を失うことが。


 もう二度と、あんな思いはしたくない。


 だから、踏み出せない。


 でも。


 心の奥で、はっきりと自覚する。


 ――もう、彼を失いたくない。


 それは愛と呼ぶには、まだ臆病で。


 それでも確かに、芽生えていた。


 凍りついたはずの心が、静かに溶け始めている。


 彼がAランクになる日を、

 自分が一番待っていることに気づきながら。

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