5. 初めての心理戦
地下ドームの奥深く、灯とルカは静かに息を整えていた。しかし、静寂は長くは続かない。目の前のホログラムが歪み、配管の振動が微妙に変化する。残光編集者の手先が姿を現し、心理戦が始まった瞬間だ。
「動くな……残響を読め」灯は冷静に声をかける。ゼロ能力は、相手の心理波や残響波を観察する際に最大の武器となる。ルカは捕食能力を活かし、赤い侵蝕波を吸収しつつ、敵の心理を揺さぶる。
手先は都市の残響を逆手に取り、心理的罠を仕掛けてくる。ホログラムの揺れ、迷路内の微かな振動、そして侵蝕波の増幅。灯とルカは一つ一つの情報を分析し、反射や吸収で対抗する。都市全体が見守る戦場のように、残響が戦況に介入している。
「心理戦は……感情を読むことだけじゃない」御影の声が頭の中に響く。メンターの教えを思い出しながら、灯は一瞬で敵の行動パターンを分析する。ルカは自身の捕食能力の制約を考慮し、最も効率的なタイミングで波を吸収。二人の連携が、都市の残響を利用した戦術へと昇華していく。
一瞬の静止、そして攻防の連鎖。心理戦は肉体戦とは異なる緊張感を伴う。赤い侵蝕波の中で、二人の能力が融合し、残響迷路全体が敵にとって圧迫感となる。手先は翻弄され、動きが鈍る。
「これが……ゼロの力」灯の心に確信が芽生える。ルカもまた、自分の能力が戦略的価値を持つことを理解し、心理戦への自信を深める。初めての心理戦は成功した。都市の残響を利用し、敵の行動を制御することが可能だと証明された瞬間だった。
地下ドームの奥で静寂が戻り、二人は互いに視線を交わす。心理戦の第一歩は、ここで確実に刻まれたのだ。だが、都市全体にはまだ多くの試練が待ち受けている――赤い侵蝕波の先に、さらに深い迷宮と心理戦が控えていることを、二人はまだ知らなかった。




