12. ゼロの共鳴
世界が、ねじれた。
残光の編集者の残響が爆ぜた瞬間、灯の視界は一瞬だけ赤いノイズに染まる。
胸の奥がきしむ。感情の奥に“何か”が入り込もうとしている。頭の中に、男の声が直接響いた。
《編集開始……対象:白石灯。ゼロ値の解体を開始する。》
「灯!! 私のそばにいて!」ルカの叫び。黒い残響が灯を包む。ルカの能力――残響捕食。敵の感情波を喰らい、弱らせる力。
しかし、残光の編集者はルカを嘲るように首を傾けた。
「捕食種……だが、お前の残響は弱い。白石灯を守るには足りない。」
「黙れ……!」ルカの黒い残響が、敵の赤い残響と激しくぶつかる。空間が波打ち、壁のホログラムが破裂した。
灯は頭の中でひらめく。“ゼロは反射する”。御影の言葉が蘇る。自分の“感情ゼロ”は、攻撃をそのまま反響させる力になるのでは――?
「灯!! 今のもう一回!! あなたは“ゼロの共鳴”ができる!!」ルカが腕を掴み、叫ぶ。
灯は深呼吸し、胸の奥にわずかに生まれた暖かさ、ルカの存在を思い浮かべた。赤い侵蝕が逆流し、全身から透明の波が放たれる。赤い残響が押し返され、空間が震えた。
「……ゼロの共鳴。本当に存在したのか。」ルカの声が震えながらも歓喜に満ちていた。
灯は全力で残響を解き放つ。赤い侵蝕は弾け飛び、空気が透明になる。残光の編集者は一歩下がり、仮面が揺れた。
「なるほど、“ゼロ”は面白い。今日は——ここまでだ。」
だが灯はすぐに踏み出した。「逃がすか!!」
赤い光は都市全体から消え去り、広告ホログラムが書き換わり、残光の編集者の姿は消滅した。街は静寂に包まれる。
灯は膝をつき、肩で息をする。ルカが背中に手を置き、その手は震えていた。
「うん……灯がいなかったら、死んでた。」
「ルカ。……ありがとう。」
小さく微笑むルカ。黒い残響が柔らかく揺れ、その温度が灯の胸に確かに残った。
世界はまだ完全に元通りではない。残響都市の脅威は消えていない。しかし、灯とルカのゼロの共鳴によって、二人は確かな力を手に入れた。心理戦の幕は閉じたが、都市の物語はまだ続く。
静寂が街を包む中、灯とルカは互いの存在を確かめ合った。だが、空気の奥深くに微かな振動が残る。赤くはないが、都市の残響はまだ微かにうねり、静かに新たな波を生み出していた。
「これ……完全に終わったわけじゃないのね」ルカがつぶやく。壁面のホログラムがゆっくり揺れ、遠くの空中広告に微かな残響が反射する。灯はゼロ能力で観測する。侵蝕波の影響ではない、未知の残響が都市の奥底でうごめいている。
「都市全体が……次の試練を仕込んでいる」灯は静かに言った。彼の瞳に微かな決意が光る。ゼロ反響の力を手にした今、二人にはまだ見えない“真の敵”と戦う覚悟が芽生えた。
ルカは黒い残響を小さく揺らしながら微笑む。「次は……私たちが主導権を握る番ね。」
そして遠く、都市の空に浮かぶ未完成のホログラムが、静かに点滅を始める。残光編集者の存在が消えた後も、都市は決して無防備ではない。新たな“編集者”の影、未知の残響の波動――それらが次の心理戦の幕開けを告げていた。
二人の影が街の光の中に伸びる。静寂の奥に潜む残響都市の真実、そして次なる心理戦の物語。シーズン2、ゼロとルカの挑戦が始まる――。




