わたしの話 18
――カタリ。
もう一度、今度は鍵が箱に当たらないようにして、箱を振る。軽い、それでも確かに箱の中に何かがあって、振ると箱に当たる音がする。
箱のサイズからして、そんなに大きなものは入らない。そして、音的に、そこまで硬いものが入っているようにも思えない。
硬貨では絶対にない。紙でもないだろう。仮に紙だったとしても、折り紙とか、もう少し厚みのある感じだ。
硬貨よりも柔らかく、紙よりかは立体的。
――カタリ。
何度か振って、中身を想像する。
プラスチックにしては音が響かない。消しゴムとかの文房具にしては音が柔らかい。プレゼントで贈ったときのリボンとか、まとめて入れてあるとか――……布製品?
その予想にたどり着いたとき。
猛烈に、嫌な予感がした。
その瞬間、わたしはこの箱の中身を確認しないといけない衝動に駆られる。
――三桁の数字。総当たりするなら……千くらい?
わたしは試しに、数字を一つずつずらしてみる。……流石に当たらない。ぞろ目もついでに試してみるが駄目だ。
これで開かないでくれと思いながら、事件の起きた日に数字を合わせるが鍵はかかったまま。
少し安堵しながら、思いつくそれっぽい数字を入れてみる。
わたしの誕生日、母の誕生日――外れない。父の誕生日は十一月三十日なので、三桁のロックには使えない。
にぎりの誕生日――これも違う。
残った姉の誕生日も正解じゃなければ、総当たりする羽目になるが――……開い、た。
鍵の番号は、姉の誕生日だった。七月十三日で七、一、三。
ふたを開ける手が震える。見たくないのに、知りたくないのに、わたしは、この箱の中身を確認しなければならない。
「あ――……」
嫌な予感は、的中した。
箱の中には、ヘアゴムだけが入っていた。
今朝、見たことがあるばかりの、ヘアゴム。
優羽ちゃんの母親がが押し付けてきたチラシについている、ヘアゴム。染みが模様になったように見える、白いリボンのあるヘアゴム。
世界に一つしかないという、それ。
くたびれたそれは、随分と縫い目がガタガタで、既製品のようには見えない。
母が、こんなものを、隠していたなんて。
確定じゃないか。
「あ、ああ……っ」
言葉にならない声が、わたしの口からこぼれ出る。
これを警察に持っていけば。通報すれば。確固たる証拠になるだろう。母が優羽ちゃんをどこにやったのかは知らないが、事件に深く関わっていることに違いないだろう。
「――やだ」
ぽつり、と、何も考えずに、そんな言葉が口から洩れる。言ってしまったら、もう、駄目だった。
やだ、嫌だよ。わたしが通報したら、お母さん、いなくなっちゃうじゃん。あんなになっても、お母さんは、お母さんだよ。
母が悪いのは分かっている。
優羽ちゃんの母親が、優羽ちゃんが帰ってくることを切望しているのも知っている。
でも――でも。
わたしには、通報できない。
お母さんが、いなくなって欲しくない。
誰か、誰でもいい。
通報を。
わたしの代わりに、通報を。
通報を、お願いします。




