わたしの話 15
家に帰ると、わたしは鞄を自分の部屋に置き、足音を殺して、母の部屋へと向かう。母の部屋、と言っても、元々物置部屋だったところだ。本来、母が自分の部屋、と使っていた部屋は、わたしが小学生の頃、姉との相部屋が嫌になって、「一人の部屋が欲しい」と相談したところ、わたしのものとなった。
そのとき、かなり家の荷物を減らし、母の私物は物置部屋へと移動した。
二階の突き当りにある、その部屋の前に立ち、わたしは音を立てないよう、ゆっくり、ゆっくりと扉を開ける。
たいして広くないその部屋は、母がおかしくなってからは使われていないのか、少しばかり、埃っぽい。窓もないから、換気のしようもない。
扉を開けたときと同じように、細心の注意を払いながら、わたしは扉を閉める。
部屋の中は、一見して物が散乱しているようには見えない。本棚と服が入っているのであろう、引き出し型の衣装ケースが三つ重なり、簡単なテーブルと椅子。テーブルの上にはペン立て、化粧道具と折り畳みの手鏡が開かれたまま立てられている。
一番期待できるのは……レシートか。
わたしは本棚にフックでかけられたトートバッグの中を漁る。あっという間に赤茶色の財布を見つけることができた。母の財布だ。
親の財布を勝手に開く、というのは非常に緊張する。わたしが欲しいのはレシートなのだが、今、この瞬間を何も知らない人が見たら、お金を抜き取ろうとしている風にしか見えないだろう。
母の財布の中を漁ると、数枚のレシートが出てきた。ほとんどが、最近のもの。当然と言えば当然か。いくら母があまり財布の中身を整理しない人とはいえ、流石に五年前のレシートが入っているわけがない。一枚くらいは、と少し期待をしていたのは事実だけど。
カード入れのところを探してみても、当然、欲しいものは何もない。会員証と免許証、ポイントカードなど、一般的に財布に入っているものしか出てこない。
「……?」
小銭入れの部分から、小さなお守りが出てくる。どこかで見たことがあるような……。
もう少しで思い出せそうだったけれど、わたしは記憶を漁るのを諦める。今はとにかく、五年前の情報が欲しいのだから。
財布をトートバッグに戻す。
日記がないだろうか、と本棚を見てみると、家計簿らしき薄いノートが収納されている。家計簿なんてつけていたのか。
しかも、ありがたいことに五年前の家計簿がある。わたしはぺらぺらとページをめくり、五年前の九月の部分を探した。




