わたしの話 13
「おはー、さっきぶりー」
――ゴトッ!
背後から話しかけられて、わたしは驚いて手を滑らせ、スマホを落としてしまった。
「ごめん、驚かせた?」
話しかけてきたのは深津希だった。そんなに熱中して記事を読んでいたのだろうか。深津希が来たということは、もう朝のショートホームルームが近い。
「よっと……。画面は……割れてないね。てか可愛いじゃん、犬飼ってたの?」
「あ……うん」
わたしより先に深津希が落ちたスマホを拾ってくれる。手を滑らせたときに横にある電源ボタンを押したのか、スマホの画面はロック画面に戻っていた。
「……昔飼ってた犬、だよ。写真を撮った奴だから、あんまり綺麗じゃないんだけど……。豆柴で……わたしが生まれる前から家にいたらしいから、小学生になる前に死んじゃったんだけど、豆柴にしては長生きしたんじゃ、ないかな」
部長から送られてきたURLのサイトを見ていたことに気が付かれなかったわたしは、少しだけ安心して、するすると言葉が出てくる。心臓はまだ、ばくばくとしているけれど、多分動揺していることには気が付かれていない。
「へー、名前は?」
深津希が自分の机の上に鞄を置き、椅子に座って聞いてくる。ちなみに深津希はわたしの斜め前の席。ずず、と椅子を引きずる音が聞こえてくるが、教室内の話し声で半分以上かき消えてしまう。気が付けば、教室には半分以上クラスメイトが集まってきていて、それぞれ友人と雑談をしていた。
「にぎり、っていうの。おにぎりから来てるんだって」
「おにぎり? それだったら普通、白面積の方が多くない?」
「うちのおにぎり、普通の、下の方だけじゃなくて、上の山になってるところにもノリつけるんだ」
「へー。まあ、それなら黒面積多くなるか」
これは母方の家がそうだったらしい。幼稚園時代に、絵本で随分とノリの少ないおにぎりを見て、衝撃を受けたのを覚えている。この年になっても忘れないのだから、幼いなりによっぽどだったのだろう。
好きなおにぎりの具の話をしていると、先生がやってきて、朝のショートホームルームが始まる。流石の深津希も、ちゃんと自分の席に戻った。
わたしは、先生の話を聞いている振りをしながら、机の中にスマホを隠し入れ、こっそりといじる。
もう一度、さっきのまとめサイトを見たかった。
誘拐犯の顔。
目立つほくろ。
犯人の似顔絵に、ほくろが特徴とされていたのは三番目の人物。
母に似た、似顔絵。
見間違いだと思いたくて、もう一度、確認した。
でも、間違いなく、犯人を見たという人物は、似たような位置にほくろがあったと、そう、書き込んでいた。




