わたしの話 12
部長はスマホをいじりながら、わたしに「連絡先、教えてもらっていい?」と聞いてくる。
「とりあえず、気になるサイトはブックマークしてあるから、いくつかリンクを送るよ。切り抜きとかは家にあるから、そっちも見たいなら僕の家に来てもらうことになるけど……。あ、僕らが帰る頃には母親がいるだろうから、変に警戒しなくてもいいよ」
途端に饒舌になる部長に押されながらも、わたしはメッセージアプリのIDを先輩に教える。すぐにわたしの元へ、いくつかのリンクが送られてきた。これは後で教室についたら読もう。
あのチラシを信じるなら、事件が起きたのは16時から19時の間の可能性が高い。でも、情報はあればあるほどいいと思う。わたしが母の荷物を漁らなくても、母が犯人でないと思えればいいのだから。
わたしの目的は、事件の解明ではなく、母が犯人かもしれないという不安をなくすこと。
真犯人自体を見つけるのはあくまで手段の一つだし、母の私物を探るのもそう。情報集めだけで完結して納得できれば、それが一番いい。他人のものを好き勝手調べるのは、少し勇気がいる。
「なつがき……ああ、なるほど。君、そう言えばそんな名前だったね。それでこの事件なのか」
わたしのメッセージアプリのアカウント名を見て、部長は一人納得していた。わたしのアカウント名は苗字にしてあるので、すぐに察しがついたのだろう。
つい昨日この事件を知ったわたしが、ナツガキという名前に簡単にたどり着いたのだ。ずっと調べていた先輩なら、もっと、ナツガキさんについて知っているに違いない。
「その、たまたまネットニュースで見て。……先輩は、ナツガキさんっていると思いますか?」
「君が、なつがき、でしょ?」
そういうことじゃないんだけどな……。
思ったことが顔に出ていたのか、「冗談だよ」と笑われた。
「夏垣という苗字は実在するからね。いるかいないかで言えば、いる、になるんだろうけど……君が聞きたいのは、そう言うことじゃないんだろう?」
わたしはうなずく。犯人が本当にナツガキという人物なのか。それとも――実際に、オカルトとしての『ナツガキさん』がいるのか。
現実的に考えろ、と思う自分がいる反面で、家の惨状が、どうにも頭をよぎってしまう。
「僕個人の意見としては、いる可能性がある、と思っているよ。ナツガキさん、という妖怪や幽霊がいる、というのはあまり現実的ではないけど、それにしては不審な点が多いからね。……もし、そのサイトを読んでも、もっと気になるなら連絡して? 僕の家にあるものも見せてあげる」
「分かりました。……ありがとうございます」
わたしは部長にお礼を言ってから、部室を出る。
早く教室に戻って、今送られたサイトを確認してみよう。




