わたしの話 02
学校帰りに友達とファミレスに寄ったからいらない、と適当に嘘をつき、わたしは何とかあの地獄のような夕飯からなんとか逃れることができた。父はあの料理を全て食べたのだろうか。想像したくもない。
風呂を済ませ、机に座る。宿題をしないといけないけれど、全くやる気が起きない。いや、やる気がない、というよりは、他のことに気を取られてしまい、宿題のことを考えること自体ができない。
え、わたし、この家で高校卒業するまで生活しないといけないの? あと一年半はあるよ?
今日はたまたまあの料理を回避できたかもしれないけど、あれが続くのは無理。
わたしが作る? 全く料理ができないわけじゃないから、それもアリかもしれない。高校を卒業したら一人暮らしがしたいから、少し早いけど家事の練習がしたい、とかなんとかいって、料理当番をゲットすることはできると思う。けど、父の性格からして、週末とかは「父さんが今日は作るよ」とか言い出す。絶対。そうしたらもう、回避できない。
父にとって、今の状態は、いつもの家と変わらない状況なのだ。なら、多分、父の行動もそう変わらない気がする。
高校生って、一人暮らし、できないよね? 不可能ではないだろうけど、物件を借りるにしたって、保護者である親の同意が必要だ。
友人の家を渡り歩くというのもなんだかな……。一日、二日、くらいならなんとかなるかもしれないが、あと一年半もあるのだから、絶対に無理。友達が一人もいなくなってしまう。
そうだ、児童相談所とかは? でも、あれって高校生も大丈夫なんだっけ? 義務教育まで?
わたしは児童相談所が対応してくれる年齢を調べるために、スマホを開く。流石にこの状況なら、なんとかなる、はず。
今の家の状況を他人に知られるのは嫌だった。でも、それよりも、この家で生活することに嫌悪感がある。なにより、このままでは、わたしもおかしくなってしまうかもしれない。
検索アプリを開いたところで、ふと、気になる記事が表示されていた。
「『烏取県混海駅前通り女児誘拐事件、公訴時効を迎える』……? 烏取県ってここじゃん?」
まさにわたしが住んでいる県の事件だった。こんな事件、あったっけ……?
誘拐の時効って何年なんだろう。殺人の時効がなくなったのは知ってるけど、他は全く分からない。時効の期間が分かれば、逆算して、何年前の事件かも分かるだろう。
わたしはそう思い、その記事のリンクをタップする。
「え――」
すると、なんの偶然だろうか。
その事件の時効が決まった日、それは母が四足歩行を始め、おかしくなった日と全く同じだったのだ。




