わたしの話 11
学校に着き、そのまま体育館に向かうという深津希と別れ、わたしは部室のある中央校舎へと行く。理科室とか音楽室とか、特別教室が集められた中央校舎には、学校がある日にもかかわらず、ひと気があまりない。まあ、この時間帯は朝練のある運動部の生徒くらいしかいないだろうから、当然と言えば当然だけど。
新聞部の部室は三階のコンピュータ教室の隣にある。この時間だから室内の電気はついていないみたいだけれど、扉の小窓から中に人がいることが分かった。癖のある黒髪で丸眼鏡の男子生徒。やっぱり、部長がいる。
向こうもこちらに気が付いたみたいで、わたしが部室の扉を開けるよりも先に、部長が扉を中から開けた。
「あれ、珍しいね。うちの部員だったよね? 何か用? 忘れ物とか?」
一応わたしが新聞部の部員であることは分かったみたいだけれど、名前まではハッキリ思い出せていないようだった。まあ、そこまで関係が深いわけでもないし、校内の新聞部発行の新聞を張り替えるとき以外は部室に寄らないので無理もない。
「いえ、少し、坪内先輩に用があって……」
「僕? ああ、長くなるなら部室入る?」
そう言って、部長は扉の前からどいた。そこまで長くなるかは分からないけれど、あまり人に聞かれたい話でもないので、わたしはおとなしく部室に入る。人がいないのはそうなんだけど、万が一、ってこともあるかもしれないから。
「えっと……今、時間大丈夫ですか?」
「んー、まあ、大丈夫と言えば大丈夫かな。放課後までに原稿を仮仕上げしたかったけど、別に今日中に作らなきゃいけないものでもないから」
部長は机の上に広がった紙を片付けながら言う。多分、あれが今月発行される分の原稿の一部なんだろう。
少し世間話でもした方がいいのかな、とちょっと思ったけれど、部長とそこまで仲がいいわけじゃないから話題が見つからないし、さっさと終わらせて原稿を書くのに戻ってもらった方がいいだろうから、わたしは「先輩って、まだ事件の切り抜きとか集めてますか?」と単刀直入に尋ねた。
「集めてるよー。何、なにか気になる事件でもあった?」
「そんなところです。……ええと、混海駅前の、女の子が誘拐されたやつ、知ってますか? 最近時効になっちゃった……」
「ああ、あれね! あれはちょっとオカルトチックで、おもしろ……って言っちゃいけないんだった。興味深い事件だったから、今でも調べてる。それが気になるの?」
部長の声は少し弾んでいる。だいぶデリカシーがないが、面白いと思っているものを共有できそうな人間がやってきたから、少しテンションが上がったのだろう。
でも、興奮したままに色々話してくれた方がわたしとしてもたくさんの情報を得られるだろうし、ちょっとだけ、ありがたい。




