わたしの話 06
いつもより早い時間帯の電車内は、随分と空いていた。もとより、都会で見るような満員電車とは無縁の田舎路線ではあったけれど、輪にかけて人が少ない。
普段、学校に行くときは席に座れたり座れなかったりを繰り返していたが、今日はわたしが座っても、座席は有り余っている。
そんな電車に揺られて十数分。
『まもなく、混海、混海です。お出口は左側です』というアナウンスを聞き、わたしは、ふと、電車内の左側の扉を見てしまった。
混海駅。よくその名前を聞いているはずなのに、わたしは一度もこの駅で降りたことがない。というか、そもそも、乗り降りする乗客すら、あまり見ない。
「――……」
わたしは少し迷って、スマホで時間を確認してから、混海駅に降りた。朝早く家を出たおかげで、少し寄り道しても問題なくいつも通りの時間に着くことができる。
両手の人数にも満たないような、ほんのわずかな人が乗り降りして、電車は発信していく。
人がほとんどいないホーム。平日のこの時間帯でも、利用客がこれだけしかいない駅ならば、夕方の帰宅時間でもそこまで人がごった返すことはないだろう。ましてや、三千や五千の目撃情報を得られるような場所には見えない。
そもそも、都会のど真ん中で起きた事件だって、三千もの目撃情報って集まるものなのだろうか。
仮にいたずらだったとして、どうしてこの事件にそこまで集中して嘘の目撃情報が集まったんだろう。
「商店街は……あっちか」
スマホの地図アプリで確認しながら、わたしはホームを後にする。
初めての駅ではあったけれど、規模が小さい駅なので、特に迷うことはなく改札を出る。
改札を出ると、待合用のベンチや、駅の時刻表等がある、駅舎に直結している。田舎特有の、小さな駅。
母がこの駅に来る理由は、全く思い当たらない。パートとして勤めているはずのドラッグストアは反対後面だし、基本的にアウトドア派の母が買い物や遊びに来るような場所とも思えない。何もなさそうなところだし。
問題の商店街を少しだけ見て、すぐに学校へ向かおう。なんだか気になって、時間もあるからと下りたけれど、ここを確認したところで、事件の情報が得られるとはあまり思えない。事件から五年も経っているのだから。
まあ、場所を知っていた方が当時何があったのか想像が付きやすくなったり、情報を集めるときに理解しやすくなったりはすると思うけど……。
そんな風に考えながら駅を出ようとしたけれど、待合用のベンチの背面にある壁に貼られた掲示物に気になるものがあって、わたしはつい、足を止めてしまった。




