わたしの話 04
わたしは再生していた動画を止めた。その勢いで、スマホをひっくり返す。
理解の追いつかない頭とは裏腹に、心臓はバクバクと激しく動いている。
きっと見間違い。そうに決まっている。
そう思うのに、わたしはスマホをもう一度見れないでいる。
動画では、画面両端にキャラクターがそれぞれいて、会話をするかのように事件の詳細を伝えていた。その二人の背景は、事件のイメージに近い画像なんかが張られていたのだが、似顔絵情報の話になると、その画像が出てきて。
複数枚あったうちの一つに、とても、見覚えがあったのだ。
「違う、違うよ……」
わたしはつぶやきながら、ゆっくりと、スマホをひっくり返した。何かの見間違いだと信じたくて。
しかし、やっぱり、わたしの勘違いでも、なんでもない。
動画に表示されている似顔絵の一枚が、非常に母に似ていたのだ。よく見れば細部に違いはあるものの、この絵と母を見れば、十人中、九人は同じ人だというくらい、似ていた。警察の似顔絵って、こんなに似ているんだと、初めて思ったくらいにはそっくりだ。
母が誘拐犯かもしれない、なんてことを否定したくて事件の情報を集め始めたのに、気が付けば、もしかして、と思うことばかりが目につく。
薬ヶ島神社だってそう。
薬ヶ島市は母の出身地。薬ヶ島神社には行ったことがないけれど、流石にどんな場所かくらいは知っている。「神社には行ったら駄目」と母方の祖母に言われていたから神社自体には行っていないけれど、薬ヶ島祭で出展された、神社からちょっと遠い場所にある屋台に遊びに行ったこともある。
ホームページで見た神社の見た目と、住所は、それと同じものだった。
十四歳の子が九歳の頃と全く同じ、とは考えにくいけれど、十分にご飯を食べさせてもらえなければ、いくら成長期の子供とはいえ、ちゃんと育たないだろう。
母が犯人で、車に乗せて連れ去って、母の実家がある土地で軟禁している。
絶対にありえないと思うのに、つなぎ合わせた情報から、そんな考えが頭をちらついてしまう。
「……で、でも、ほら、動機がないじゃん」
思わず口から出た言葉は、自分でも動揺が分かるくらいに情けなくかすれていた。そして同時に、昔、姉とミステリー系のアニメを見ていたときに、「動機がないからやってないって言いだす奴、大抵犯人だよね」と笑いながら話したことを、なぜか、思い出していた。
今、思い出すようなことじゃないのに。
だって、母が犯人なわけ、ないから。
「――……」
わたしはスマホを閉じ、充電コードにつなげ、寝る支度を始める。明日の準備、トイレ、アラームのセット、ドアノブが下がり切らないように本棚を扉の前に置く。
それらを終え、明日は普通の家に戻っていますように、と心の中で願いながら、わたしは布団を頭からかぶった。




