ようこそ、秘密基地(社会保障完備)
驚くほどに、地下基地の内部は宇宙船宇宙船していた。
NASAくらい。いや、JAXAの二十倍くらい。……行ったことないけど。
でも、この青い金属製の壁面とか、天井を這う無数の配管とか、埋め込まれた電球とか──まさにそれだった。
「お待ちしておりましたーっ!」
「ようこそ、我らの秘密基地へ! さあ、こっちへ来るんだ、黄色!」
黄色って呼ぶの、やめてくれませんか……。
そんなことよりもだ。
栄養ドリンクのCMに出てそうなお兄さんと、チビっ子番組の歌のお姉さんみたいな二人が、基地の司令室っぽい場所で僕を出迎えた。
二人とも、ピッチピチの制服を着て、笑顔はキラッキラだ。
「どうかね、家路くん? ここが作戦コンソール室だ。秘密基地の心臓部と言っていい。悪の組織と戦うために、この町中のデータがここに集まっておる」
モニターの群れ、ボタンの山、そしてタッチパネル。
うわ、なんか本物っぽい。
「ははは、黄色、びっくりしただろ? まさか学園の地下に、こんなもんがあるとは思ってなかっただろ?」
「ふふふ、この表情のために、私たちもここで働いていたのかもしれませんね。……嬉しいですわ」
なんか、大人たちが大はしゃぎしている。
ちょ、待て。
まったく話についていけないんだけど。
でも……心のどこかで僕は、度肝を抜かれていた。
あの猫好きオヤジが、マジなのか、ただの道楽なのかはさておき。
この施設は、本当に学園の地下にあった。しかも、モニターには町の地図や映像。警察・消防・タクシー無線まで網羅している。
──圧巻だった。
「あ、えーと、ここは……?」
さすがに空気を読んだのか、保健のお姉さんが咳払いする。
なぜか、彼女がそこにいるのは自然に感じられた。もはや麻痺してる。
「おっつ、すまんすまん。家路くん、ここは君たちのための秘密基地だ。
君たち、戦隊ヒーローの前線基地となる場所だよ。紹介しよう。サポート隊員のAさんにBくんだ。君が満を持して戦えるよう、全力で支えてくれる」
「よろしくな!」
「初めましてっ!」
力強い握手と、キラッキラの笑顔。まぶしっ。
いや、そうじゃなくて!
「当然、AさんもBくんも匿名だ。ま、正社員で社会保障もばっちりとはいえ、秘密基地隊員なんて胡散臭い職業だろ?」
「ははっ、校長も鋭いですね!」
「ここみたいなホワイトな職場、なかなか無いですよ~。……怪しいけど」
……すげえ、アウェー感。
親戚の集まりに放り込まれた時の空気。あの感じ。
え、どうすればいいの? スマホも無いんですけど。
「ところでBくん、変わりはないかね?」
「はい。町のHi反応は四つ、新しく誕生した黄色ちゃんも含めて。そして、学長の計画通り──最後の一つも近づいてます」
「こっちもね、本来なら変化なしって言いたいところだけど、昨日と比べて悪サインが急増してる。……黄色の登場に呼応して、何かが動いたかもしれない。校長、要注意ですぜ」
「なるほど……。早急に戦隊を結成せねばならんな。ヒーロー一人ではまだ心許ない。五人揃ってこそ、真価が発揮される。
──よし、家路くん、休憩室へ来たまえ! Bくん、彼に例の飲み物とアイスを持ってきてくれ」
ちょ、違うんだけど。
僕が聞きたいのはそこじゃない。
……まあ、いいか。とりあえず忘れられてなかったし。
これが目的だったし。たぶん。