輪廻街、序章。
気がついたら、僕はここにいた。ここは、どこ?立ち上がって辺りを見回してみる。見たことがない景色、見たことがない建物。少なくとも、自分が生まれ育った場所ではないことはわかる。どうしてこんなところにいたんだったか、と思い出そうとしてもなかなか思い出せない。しばらく景観を眺めながら歩いていると、1人、倒れている人を見つけた。
「…ねぇ、君。大丈夫?」
「ここは…どこだ?お前は…?」
「僕はピカソ。僕も、さっき気がついたらここにいて、まだ状況がよくわかっていなくて…」
「そうなのか。…俺はガリレオ。」
どこかで聞いたことがある名前だな、と思った。その時、ふと思い出したのだ。…僕たちは、一度死んだのだと。ということは、ここは死後の世界、なのか。そのことを伝えると、ガリレオは納得したような顔をして笑った。
「不思議な感覚だな…まるでまた生を受けたかのようだ。」
「…!!確かに、そうだ…!ガリレオくんはすごいね、そんなことに気がつくなんて…!」
ガリレオくんは少し照れてしまったようで、僕から目をそらした。そんな様子が少し可愛いと思ってしまう。2人でここを散策してみることにすると、無人の建物を見つけた。今、何も持っていない僕達は、とりあえずここを拠点とすることにした。その建物は結構綺麗な建物で、まるでできたばかりのようだった。中には、キャンバスと、絵の具、パレット、望遠鏡、変わった形の置物?があった。
「あっ…!これ、懐かしいな…!!」
「…何それ?すごく綺麗だけど…置物?」
「俺が生きていた時に作った温度計だ。どうしてここに…?」
「なんでだろ…?この部屋には僕が使っていたものもあるみたいだし…ちょっと気味が悪いよ…」
そう思っていると、ガチャリ、と扉が開く音がした。振り返ると、そこには1人の少女が立っていた。もしかして、ここは人の家…?!そう思って急いで立ち退こうとすると、その少女は笑って言った。
「…大丈夫よ、ここはあなた達のために作られた場所だから!」
「…え?」
「…お前、何者だ?」
ガリレオくんが僕の前に立って、少女を睨みながら言う。少女はそれに少し驚いた顔をして、話し始めた。
「私はあなた達にこの街の紹介をする為に来たの。…紹介が遅れたわね、私はエミリーよ。あなた達は?」
「僕はピカソ。」
「…ガリレオだ。さっきはすまなかった…」
エミリーさんは優しく笑うと、ここについて詳しく教えてくれた。どうやら、ここは僕達が来ることを知った人達が、僕達の為に作ってくれた建物らしい。エミリーさんは、ここに僕達に関連があるものの搬入などをしてくれていたらしい。なんと運が良いことか。僕達はここを作ってくれた人達の好意に甘えることにした。
「…それじゃあ、準備が整い次第出発しましょう。私は外で待っているから。」
「うん、わかった。ありがとう、エミリーさん。」
しばらく部屋の中を眺めて、なんとなくどこに何があるのかを把握した後、エミリーが待っているであろう外へ向かった。けれど、そこにエミリーの姿はなかった。どこへ行ってしまったのだろうか、とガリレオくんと一緒に探すことにすると、エミリーさんが少し離れた所から手を振りながら、こっちにやって来た。
「ごめんなさい、さっきすごく素敵な詩が思い浮かんだものだから、紙を取りに行っていたの。」
「エミリーは詩を書くのか。すごいな。」
「そう。私、生前は詩家だったの。あんまり上手く行かなかったんだけどね…」
「そうなんだ…僕は、生前は画家だったんだ。まぁ、みんなにはよくわからないって言われちゃったんだけど…。」
「俺もだ。お前の言うことは間違ってるって言ってた。」
そんな話をしながら、街の中心部へ向かった。中心部には、色々なお店が立ち並んでいた。食べ物を売る店や、雑貨屋、手芸店など様々だった。入ってみたいと思うようなお店がたくさんあって、ウィンドウショッピングをするだけでも1時間ではきっと足りない。そんなことを考えていると2人は大分前にいて、僕は慌てて追いかけた。そんな時、僕は誰かとぶつかってしまった。
「わっ、ごめんなさい!前見てなくて…!」
「いやいや、俺も全く前を見ておらず…」
「すみません…、あ、怪我とかも、大丈夫ですか?!」「何も問題はない。…君も大丈夫かい?君、名前は?」
「僕はピカソです。」
そう言うと、ぶつかってしまった人は驚いた顔をして、僕の肩を掴んだ。
「お前、ピカソか!!俺はアメデオだ、覚えているか?!」
「ア、アメデオくん?!久しぶりだね、もう会えないと思ってた…!!」
アメデオは、生前から僕と関わりがあった人だ。彼は随分変わった絵を描いていたから、初めて絵を見た時はとても驚いたのを覚えている。…僕が絵を見せた時も、彼は随分驚いていたけれど、みんなによくわからない、と言われた絵でも、褒めてくれた。それから僕達は良い関係を築けていたのだけれど、アメデオが死んでしまってからは会えていなかった。
「(また会えるなんて…嬉しいな。)」
そんなことを思っていると、ガリレオくんに呼ばれた。アメデオに別れを告げて、僕はまた2人を追いかけた。
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