第7話 おじさん異世界で初めての”使い魔”を得る
「少しいいですか?」
参賀の問いかけに興行主バリーは怪訝そうな視線を向ける。
「ああ、貴方ですね、私の商品を連れ戻してくださったのは。私は”バリー・マドロット”、興行師を生業にしております。御名前を伺ってもよろしいですか?」
丁寧な口調で挨拶をするバリー。底の見えない笑顔に思わず参賀の背筋が寒くなる。
「申し遅れました。私は参賀蓮十郎、職業は魔物使いとなっていますね。」
魔物使いという言葉にアデラが驚いた様子で参賀を見ている。その視線にはどこか憎々しげなものが混じっていた。
「サンガさんですか、それでどのようなお話ですかな?ああ、謝礼でしたら勿論支払わせて頂きます。後程使いの者を遣りますので、そちらからお受け取りください。」
バリーは興行のやり直しを急いでいる様子だった。アデラの試合で余程儲かるのだろう。
「いえ、謝礼金は結構です。その代わりと言ってはなんですが、私もアデラさんの試合を間近で見てみたいのですが席を用意して頂いてもよろしいですか?」
バリーはその要求に驚きながらも口角を歪めて笑みを作った。アデラは信じられないと言った表情で参賀を見ている。
「ええ、宜しいですとも。特等席をご用意いたしますよ。」
そう言ってアデラを連れて行こうとするバリーの前にティリオが立ちはだかった。
「何ですかな?お嬢さん。私も忙しい身でして、そこを退いていただけますか?」
一瞬表情を強張らせたバリーだったが、すぐに笑顔でティリオに言った。
「あ、アデラさんは、つ、連れて行かせません。」
「ああ、すみません。実はアデラさんは発見された際かなりの重傷を負っていまして、彼女が治療を行っていたんです。表面上は治癒したように見えるのですが、まだ治療の途中でして、最後まで面倒を見たいのでしょう。」
ティリオの言葉に僅かなイラつきを見せたバリー、その様子を見て参賀はティリオを背に庇うように2人の間に割り込んだ。
「そうでしたか、捕獲だけではなく治療までして頂いているとは。それで、アデラの治療はいつごろ終わりそうですかな?終わり次第興行をやり直さねばならないものでして。」
怪我の具合を心配しているような口振りだが、実際はアデラの体調などどうでも良いのだろう。デミオーガにはどう足掻いてももアデラは勝てず無残殺される。そんなカードを組む人間が負ける側の体調を気遣うはずもなく、体裁としての言葉なのだろう。
「そうですね、明日の昼には完治すると思います。やはり選手は万全の状態であった方が試合も盛り上がりますからね!」
その答えに、しばらく思案していたバリーだったが納得した様で手をポンと打った。
「分かりました。それでは明日の正午に迎えを寄越します。但し、完治したアデラがまた逃亡しない様に宿屋に見張りを立てさせて頂きますね。」
そう言ってバリーは数人の手下を残してリンクス亭を出て行った。
※
「どういうつもりだ、アタシが死ぬところがそんなに見たいか?」
アデラの軽蔑と怒りを含む視線を受けて、参賀は一息ついてから話し始めた。
「見張りもいるでしょうから小声で私の考えを伝えます。」
ドアを指さして声を潜めてアデラの顔を見つめる参賀。その真剣な表情に何かを感じ取ったのかアデラは大人しく参賀の言うことに耳を傾けた。
「まず最初に、アデラさんの気分を害してすみませんでした。ああでもしないとアデラさんの試合に関わることが出来なかったので。」
参賀が芝居を打った理由は二つ、アデラの試合会場に出入りする事と、これから行う事の為に時間を稼ぐ事。
「確認ですが、アデラさんとデミオーガの実力差はどの程度のものなんですか?」
「答え辛い事を聞いてくれるな、そうだな、デミオーガは全てのステータスがアタシの倍はある。限られた試合場の上で真正面からではどう足掻いても勝てないだろう。」
アデラは悔しそうに唇を噛み締める。参賀はスマホの画面でティリオの加護のうち、使い魔にしたモンスターへのステータス補正を確認していた。
「アデラさんは爬虫種で合ってますよね?」
「ああ、その通りだ。」
スマホの画面には〈爬虫種ステータス補正 ×⒈8倍〉と表示されており、2人のステータス差を埋める光明が見えた。
「アデラさんに提案が「断る。」
参賀が言い切るのを待たず断るアデラ。
「お前の使い魔になれと言うんだろ?冗談じゃない、誰が好き好んで従者になるか!」
アデラはフン!と鼻を鳴らしてそっぽを向いた。
「しかし、明日の試合でアデラさんが勝つには魔物使いのジョブ補正がないと・・・。」
「それで勝ててもアタシは一生お前の奴隷じゃないか!それでは勝っても意味がない!」
アデラが大声で拒絶する。幸い外の見張りには怪しまれなかった様だ。
「大体私は魔物使いが嫌いだ!自分は安全な所で、使い魔にした者たちを戦わせる。それも使い魔の寿命を削って無理やり力を引き出して、だ!」
机に拳を振り下ろして怒りを露わにする姿に、参賀は全能神が言っていたこの世界の魔物使いたちの考え方を思い出した。
「モンスターは補充すればいい、か。なるほどアデラさんの怒りも尤もだ。」
参賀はアデラに向き直ると真摯な気持ち伝えた。
「アデラさん。私の使い魔になるのは試合の間だけだ。試合が終われば契約は解除する、約束だ。だから私に貴女を助けさせてくれ。」
その提案に驚くアデラ、蒼い瞳が真意を探るように参賀を見つめる。
「約束だぞ。」
参賀がアデラの言葉に頷くとスマホの画面に文字が浮かび上がった。
<使い魔契約を結びますか?>
<はい> <いいえ>
迷わず〈はい〉をタップすると参賀の頭の中に承諾を表す様な電子音がした。
こうして魔物使い参賀とリザードマンの女剣士アデラは自由の身をを手に入れる為、明日の試合へと挑むのだった。
話の中に出てきた〈爬虫種ステータス補正 ×⒈8倍〉というのはティリオの女神の加護によるジョブ補正です。4話で参賀さんが選んだ魔物使い自体のジョブスキルとは違うので、ややこしくて申し訳ありません。
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