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第6話  リザードマン絶望する

「貴様ら、興行主に雇われた追手か!?アタシはもうあそこには戻らん!貴様ら人間の娯楽のために殺されてたまるか!」


 興行主とやらに余程ひどい目に合わされたのが、リザードマンの必死さから伝わる。


「落ち着いてください。私達は誰からも雇われていません。貴女に会ったのも偶然です。」


 一言喋るたびに刃が喉の薄皮を裂き鋭い痛みが走ったが、この状況を打破するために参賀は話し続けた。


「信じられるか!アタシは!ア・・・タシは・・・。」


 女剣士の体がグラリと揺れると、そのまま参賀の方に倒れこんだ。


「おっと。」


 参賀が剣先の動線を喉から外し、女戦士の体を抱きとめると軽鎧の下、碧色の鱗は所々破れ全身の傷口からはかなりの量の出血があることが分かった。


「っ!ティリオ!治癒魔法を頼む!」


 ティリオはすぐに駆け寄り、抱きとめられたままの女戦士に治癒魔法をかけた。


「命の雫よ、この者を癒せ。」


 ポゥっと蛍火のような光がティリオの手のひらに灯り、明るさを増していく。光が女戦士に移ると全身を包み込み傷を癒やしていった。


「私の力では傷を塞ぐのがやっとです。早くどこか安全な場所で休ませないと…。近くに町があったはずです、そこに向かいましょう!」


 参賀は女戦士を抱き上げティリオと共に街へと急いだ。



               ※



 マーロウの森の近く"リドリアの街"にある宿屋リンクス亭。その客室のベッドで目が覚めた。


「ここは…、うぐっ!」


 眩む頭を押さえるとあれだけあった出血や傷がなくなっているのに気付く。


「目が覚めましたか?」


「!」


 声の方を目をやるとそこには湯気のたつスープが入った皿を持った人間の男が立っていた。


「貴様!私に何を!」


 何をしたと言いかけて男の持つスープの匂いに腹が鳴る。よく考えれば3日前から何も食べていなかった。


「食べてください。傷は塞がっていますが体力は回復していないので。」


 そう言って手渡されたスープの皿をしばらく見つめていたが、空腹には勝てず口をつけた。


「蓮十郎さん、リザードマンさん起きましたか?」


 空きっ腹にスープを流し込んでいると黒髪に黒い服、黒いローブを纏った少女がドアから顔を覗かせた。


「あ、良かった。目が覚められたんですね。私の治癒魔法がちゃんと効いて良かったです。」


 嬉しそうに笑う少女、どうやらこの少女がアタシのあの大怪我を治してくれたらしい。


「さて、貴女は我々の事を誤解しているようなので少しお話をさせてもらっていいですか?」


 アタシがスープを飲み終わったのを見計らって人間の男が話しかけてきた。


               ※


 近くの椅子に腰掛け、参賀が女剣士に話しかける。多少警戒は解けたようで、前のように襲いかかりはしなかった。


「私たちは貴女の言う興行主とは関係ありません。少し前にこの辺りにやって来た旅人です。」


 剣を突き付けられた時と同じ言葉を繰り返す参賀、少し落ち着いて冷静に考えられるようになった女剣士はその言葉を頭ごなしに否定することはなかった。


「分かった信じよう。そして危ないところを助けて貰い感謝する。アタシはリザードマンの”アデラ”」


 先ほどまでのどこか警戒するような雰囲気はなくなり、頭を下げるアデラ。


「誤解が解けたようで何よりです。ところでアデラさんはなぜあのようなところで?我々を追手と勘違いされていたみたいですが。」


 参賀が追手という言葉を口にした途端、勢いよく顔を上げるアデラ。


「そ、そうだ!ここはどこだ?街の名は!?」


 現在地を気にするアデラに、ここがリドリアの町のリンクス亭という宿屋であることを伝えると激しく狼狽した。


「リドリアだと!よりにもよって、この街に戻って来てしまったのか!」


 街の名前を聞き、明らかに顔色が悪くなっている。参賀が事情を聴こうとしたその時、複数人がドカドカとやってくる足音が廊下から聞こえてきた。


「あいつらだ・・・。」


 アデラの瞳からは光が消え、その表情は絶望で満たされていた。


「ここか!ワシの剣奴がいるのは!!」


 扉を乱暴に開けて入ってきたのは、恰幅の良いカイゼル髭を生やした男性。その周りを若い男たちが追従している。全員が武装していて荒事用の手下といったところだろう。


「アデラ!貴様!よくも大事な興行前に逃げ出してくれたな!おかげでワシが上役に大目玉を喰らったんだぞ!」


 今にも殴り掛からんばかりの勢いで怒鳴りつける男の剣幕に参賀の後ろでティリオが小さく悲鳴を上げる。


「もうし・・・わけありません・・・。」


 感情の消えた表情で興行師に頭を下げるアデラ。


「申し訳ないで済むか!来い!すぐコロッセオに戻って延期したカードで試合させるからな!」


 興行師がアデラの腕を掴み無理やり連れて行こうとする。


「い、嫌だ!コロッセオには戻りたくない!アタシはまだ死にたくない!」


 アデラは必死に抵抗するが、まだ体力の戻っていない体では興行師の手を振り解けないでいた。参賀が見過ごせず間に割って入ろうとしたその時、入り口から男の声がした。


「まあ、落ち着きなさい。」


 決して大きくはなかったが威圧感のある声に興行師の動きが止まる。


「バリー様!へへぇ!」


 そこには仕立ての良いスーツに身を包む初老の男性が立っていた。


「バリー様・・・。」


 アデラも緊張している様だ、それだけこのバリーという男が恐ろしいのだろう。バリーはアデラの前に立つと落ち着いた様子で問い掛けた。


「アデラ、なぜ逃げたりしたのです?あなたの借金は次の試合で完済できるというのに。あと1試合勝てば晴れて自由の身だったんですよ?」


 バリーは口調こそ穏やかだが、その声に感情はない。


「で、ですが、バリー様。”デミオーガ”の相手なんて無理です・・・!死んでしまいます!」


 アデラは歯をカチカチと鳴らしながらバリーに訴える。しかしそんな必死の訴えも意に介さないようにバリーは言った。


「アデラの最後の試合にふさわしい相手を見繕ったまでです。相手については興行主に任せるという契約でしたよね?今戻って戦って頂けるなら今回逃げたことは大目に見ましょう。さあ、行きますよ。」


 冷たい笑顔でそう言い放つバリーに参賀は身震いした。


(こいつは他者の命を何とも思っていない。)


 このままではアデラには悲惨な未来しか待っていないだろうと考えた参賀は意を決して口を開いた。


今回も読んで頂きありがとうございます。せっかく逃げた出したと思ったら運悪く元の街に戻って来てしまったアデラさん。彼女の未来はどうなってしまうのか。


ちなみに宿の代金などはデミゴブリンの砕けた魔瘴石を換金して支払っています。この世界では魔瘴石は魔力ソースとして通貨の代用品として扱われています。


もしこの小説が”面白い””続きが読みたい”と思って頂けましたら☆☆☆☆☆を★★★★★に変えて応援してくださると幸いです。


それではこれからもおっさんゾンビMをよろしくお願いします。



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