第4話 おじさん異世界に立つ
「さてさて、参賀君を異世界に送る前にそのヨワヨワ女神のジョブ補正を見ておこうかな。なにせその娘、今回が初めての加護の付与だろ?僕も詳細見たことないんだよね。」
全能神は空中に1メートル四方の画面を投写し、加護の詳細を確認し始めた。
(神なんて云うファンタジーな存在が使うにしては近未来的なんだな。)
と参賀が思っていると、
「あらら、”毒と瘴気の魔女”とか言うくらいだから魔法使いに補正があるのかと思ったら、魔物使いに補正〜?あれかな?”魔女といえば使い魔”的なやつかな?しかも好相性モンスターは虫に爬虫類両生類。お、あとは毒、呪い持ちのモンスターと相性良いっていうのはそれっぽいね~。けど、ざーんねん!参賀君ハズレジョブだー。」
全能神は眉間にシワを寄せて気の毒そうな表情で言った。
「ハズレ?そうなのですか?」
全能神に尋ねると参賀の横でティリオはビクリと身を強張らせた。
「そうなんだよ!他のジョブなら女神の補正が加護を受けた本人に反映されるんだ。剣士なら筋力、魔法使いなら魔力が上がるみたいにね。でも魔物使いは違う、女神の補正が使役するモンスターに適応されちゃうんだ。」
(話を聞いてもハズレと言われる理由がわからない。仲間にしたモンスターが強くなるなら戦力が強化されることに変わりはないのではないのだろうか。)
参賀の疑問を見透かしたように全能神が口を開いた。
「これが他の格が高い女神なら初期ボーナスでいくらでも自身を強化できるから"使役するモンスターと共闘!"なんて事も出来るだろうけど、そこのヨワヨワ女神の初期ボーナスじゃあねぇ…。」
全能神に一瞥されたティリオは気の毒なくらい身を縮めている。
「地道に経験値を積んでステータス上げも出来なくないけど、時間かかるよー?他の転移者たちに差をつけられちゃうよー?」
顔に手を当て大げさに天を仰ぐ全能神に参賀は笑顔で答える。
「それなら大丈夫です。別に急ぐ旅路でもないですし、のんびりやらせてもらいます。」
そう言ってティリオの肩をポンポンと軽く叩く、ティリオは少し安心したようで肩から力が抜けた。
「そうかい?参賀君がそう言うならいいけど…。じゃあ最後にジョブスキルは好きなの選んでいいよ。他の転移者達はランダムなんだけど、このままだとあんまりにもだし、これくらいはね!」
そう言って全能神がが向けた画面には魔物使いのジョブスキルが羅列されていた。
「まあお勧めなのは”モンスターの基礎能力向上”かな?ちょっと、モンスターには負担掛かっちゃって寿命とか短くなっちゃうんだけど参賀君が戦えない以上モンスターは少しでも強くしておきたいしね!まあモンスターは、新しく補充すればいいでしょ?」
「仲間にしたモンスターに副作用があるのは少し・・・。」
参賀の言葉が意外だったのか全能神は驚いた様子で、
「何を言ってるんだい!?モンスターはまた補充すればいいけど君たちはそうはいかないんだよ!この考え方は今から送る異世界の魔物使い達が最初に教わることさ。」
魔物使いにとってモンスターはあくまで手駒というのが基本的な認識らしい。
(私的には受け入れがたい考え方だが、ここでどうこう言っても始まらないか…。)
「そうですか、それでは・・・、ん?これは・・・。」
参賀が画面に目を走らせていると興味深いスキルを見つけたようだ。
「これにします。このスキルに決めました。」
「えー?それー?そのスキルは止めといた方がいいと思うよー。参賀君もシンドくなるやつだし・・。」
選んだスキルを見て苦い表情をする全能神、確かにスキル説明欄を見れば使用者にもリスクのある内容だった。
「お願いします。」
それでも参賀はこのスキルが欲しかった。
「君って意外と頑固なんだね、僕のお勧めも全部断っちゃうしさー!」
全能神は頬を膨らませて責めるが、気を悪くしたわけではなさそうだ。
「まあ、いいよ。よし!これで参賀君の出発の準備もできたね!他の転移者より色々大変だと思うけど頑張ってねー!」
その言葉が終わると同時に参賀とティリオの体が光に包まれた。女神たちも光へと戻り霧散し、1柱神殿に残った全能神は心底愉快そうな笑みを浮かべて、
「ほんとーに、今回のゲームは面白くなりそう。」
そう呟いたのだった。
※
参賀が最初に感じたのはむせ返るほどの緑の匂いだった。光に眩む視界が落ち着くと先程までの神殿とは違い周囲を背の高い樹木に囲まれた森にいた。
「ここはもう異世界なんだよな・・・。」
そう誰に言うでもなく呟く、すると参賀の背後から返事が返ってきた。
「はい、ここはおそらくグリーネリア王国東部にあるマーロムの森だと思います。」
ティリオが近くの木に触れながら参賀を見ていた。
「グリーネリア王国にマーロムの森か・・・。当然だけど全く聞いたことがない地名だな。」
「そ、そうですよね!ごめんなさい!蓮十郎さん・・・。」
気分を害したと思ったのか、ティリオはハッとした表情を浮かべワタワタと頭を下げた。人との会話に慣れていないその様子に参賀はなるべく穏やかな口調で返事をした。
「いや、謝ることはないさ。むしろこの辺りの地理に明るくない私に色々教えてくれると助かる。」
「は、はい!分かりました!ま、任せてください!」
誰かに頼られたのが嬉しかったのか、ティリオはやる気に満ちた表情で胸の前で拳を握っている。そんなティリオの姿を微笑ましく眺めていた参賀だったが、その時彼の耳に聞き慣れない音が飛び込んできた。それは金属のぶつかる音、戦闘を知らせる剣戟の音だった。
「た、大変です!何かが近くで戦闘を行っています!」
ティリオは真剣な表情で見つめている。参賀の決定を待っている様だ。
(正直ティリオを危険な場所に連れて行くのは、しかしこれから生きていく為に、この世界の戦闘は観察しておきたい。)
「ティリオはここで待っ「私も行きます!」
(この様子だと無理に置いて行ってもついて来そうだ。)
少し悩んだ後参賀は、
「私のそばを離れないように、約束してくれ。」
一息吐いて、そうティリオの目を見て言った。
「・・・!はい!」
2人は剣戟の音のする方へ駆け出した。