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第3話 おじさん災厄の魔女の加護を貰う

「さて、残ったのは君だけだね!えーと、”参賀 蓮十郎”(さんが れんじゅうろう)君、蓮十郎なんて昔っぽい名前だねー。君はまだ加護も選んでないけどどうする?」


 学生たちの旅立ちを見送った全能神がくるりと振り返る。実は参賀には学生たちが女神の加護を選んでいる時に気付いた事があった。


「全能神様、あの神殿の隅にある靄のようなものは何ですか?」


 神殿の片隅に今にも消え入りそうな淡い光の靄、他の光と違って女神の姿になることもなく頼りなさげに僅かに揺れるその存在から彼は目が離せないでいた。


「ああ、あれ?あれも女神なんだけどね、今まで一度も選ばれたことのない失敗作なんだ。女神のバリエーションを増やそうとして色々作ってたら出来ちゃった感じかなー。あれのことはいいから君も加護を選んじゃってよ!やっぱりこの5柱?今回もほとんどこの娘たちが選ばれてたからねー!」


 全心底どうでもよさそうに靄を一瞥すると加護の選択を迫る全能神。しかし全能神の言葉が耳に入ら無いように靄を見つめ続ける参賀。


「あの女神と話してもいいですか?」


 気が付くと彼は全能神に尋ねていた。自分の提案を拒否された全能神は少し驚きながらも諫めるように言った。


「いやー、あれは止めといた方がいいよー。女神って転移者から選ばれるほど格が上がって初期ボーナスとかの恩恵も大きくなるんだ。あれは1度も選ばれたこと無いから弱くて女神の姿にもなれないんだよ。初期ボーナスも微々たるものだし、ていうかもう消えそうだし。」


 全能神の言う通り、こうしている間にも消えてしまいそうなほど揺らめきも小さくなってきている。


「あの女神と話させてください。お願いします。」


 強い決意を込めて参賀は全能神に深く頭を下げた。その姿を見て全能神は渋々ながらも靄が女神の姿を取れるように少量の力を渡した。

 靄が女神の形に集まっていく。そこにいたのは全能神よりもさらに幼い容姿をした今にも倒れてしまいそうなほど弱った黒衣の少女だった。


「わ、私は災厄の女神ティリオ、の、呪いの属性を司る”毒と瘴気の魔女”。」


 己をそう称した少女はひどく悲しい目をしていた。参賀はこの目を知っていた。


「本当に私の加護を受けますか?汚れた技能しか持たない呪われた魔女の加護を。」


 自分を必要としてくれる存在がいない者の目だ。


(この目は放っておけない。)


参賀は片膝をつくと小枝のように細った手を握ってこう言った。


「ティリオ様。私に貴女の加護を授けてください。」


 災厄の女神は信じられないものを見るような目で目の前の男を見つめていた。


「いい・・・んですか?私・・・なんかの・・・加護で・・・。」


 今言われた言葉を理解することを頭が拒んでいる様だ。それだけ求められなかった期間が長かったのだろう。


「はい、貴方の加護が欲しいんです。」


 全能神により作り出されて以来誰にも言われなかった言葉。他の女神たちが加護を乞われるのを見続け、いつか自分もと願い続けるも手に入らなかった言葉。かすかに揺らめく靄になってまで欲し続けた言葉を貰った女神の感情が溢れた。


「はい・・・はい・・・!貴方に私の加護を授けます・・・!」


 参賀の言葉に驚いたのは全能神や他の女神たちも同様だった。


「ちょっと、ちょっと!本当にいいの!?それは属性と職能の加護はあるけどステータスの恩恵はほぼないんだよ!」


 全能神は本気で焦っている様だが彼の気持ちは変わらない。参賀は全能神に向けて再度強く答えた。


「はい、私は災厄の女神様の加護を授かります。」


「本当に知らないよー。後で後悔しても遅いんだからね!」


 強い決意が伝わったのか、複雑な顔をしながらも承諾する全能神。するとその時ティリオの体から光が溢れ出した。


「きゃっ!」


「ティリオ様!」


 突然のことに困惑するティリオと参賀、その様子を見て全能神は可笑しそうに笑っていた。


「だいじょーぶ、だいじょーぶ。参賀君に選ばれたからその娘の格が上がったんだよ。まあ、レベル0から1に上がったくらいのことだけどね。」


 全能神がそう言う間にティリオの体の光が落ち着いていき、先ほどまで不健康そのものだった顔色が少し良くなっていた。


「良かった、ティリオ様大丈夫ですか?」


 顔を覗き込むようにして尋ねると、ティリオはワタワタと両腕を振って顔を離した。


(見た目が幼いとはいえ相手は女神だ、いくら心配だったからといって急に顔を覗き込むのは配慮が足りなかったか。)


己の不躾さを反省する参賀にティリオは応える。


「だだだ大丈夫です!貴方のおかげで私も自力で女神の姿になれました。本当にありがとうございます。」


 緊張しながらも花のような笑顔を向けるティリオについ頬が緩む参賀。


「参賀君いいかい?その娘は今回初めて転移者に選ばれた超よわよわ女神なんだ。君も今からソロで異世界に行かなきゃいけないしさ。」


 全能神は、わざとらしく「こまったなー。」という風に天を仰ぐと参賀たちに向かってビシッと指をさしてきた。


「そ・こ・で・だ。今回は、特例中の特例として災厄の女神を参賀君の異世界転移に同行させることにするよ!というか、あんまりにもヨワヨワすぎて同行してないと加護や補正が効かないんだよね。」


 その言葉に神殿にいた女神たちがざわついた。しかし、女神たちのそんな様子など気にも留めずに問いかける全能神。


「ねえ、参賀君はそれでいいかな?さすがに僕もこのまま君を放り出すのは悪いと思ってるんだよー。」


 ふざけた口調とは裏腹に目が本気だ。この提案を断らせる気が無いのだろう。


「ティリオ様、お手数をかけて申し訳ありません。私の転移に御同行願えますか?」


 参賀は精一杯の誠意を込めてティリオ様に頭を下げる。当のティリオは流れるように進んでいく話についてこれずに視線を彷徨わせていたが、その言葉に慌てて口を開いた。


「そんな!お手数だなんて!元はと言えば私が弱いのがいけないんですから頭を上げてください!」


 慌てて参賀の頭よりも低く自身の頭を下げようとするティリオ。


「それではティリオ様「ティリオでいいです!様だなんて私そんなに偉くありません!喋り方もそんなに畏まらないでください。」


 参賀の言葉を遮るように自分を呼び捨てにするよう懇願するティリオ。その真剣な眼差しを正面から受け止めて参賀は、


「それじゃあティリオ、これからよろしく頼む。」


「はい!よろしくお願いします蓮十郎さん!」


 ティリオの手を握ったのだった。



とりあえず参賀さんが災厄の女神ティリオちゃんから加護を貰うところまで書けました。

本当はここまでが1話の予定だったのですが色々書きたいことが膨らんでいって3話に分けることになりました。ひとまず導入の部分までは読んで頂きたくて同日に3話投稿してしまいました。

次話からやっと参賀さんが異世界に行ってお話が始まりますので何卒お付き合い頂けるようお願い申し上げます。


もしこの小説が”面白い””続きが読みたい”と思って頂けましたら☆☆☆☆☆を★★★★★に変えて応援してくださると幸いです。

それではこれからもおっさんゾンビMをよろしくお願いします。


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