第2話 40人の英雄候補異世界に旅立つ
「異世界への転移者には女神の加護を授ける決まりになっていてね、君たちの好きな属性の女神を選ぶと良いよ。」
全能神そう言うと同時に様々な色の粒子が複数の人の形をなしていく。
なるほど女神というだけあって全員が見目麗しく、それぞれが惹きつけられる存在感を放っている。
まばゆい光達が収まると全能神が揚々とした声色で話し始めた。
「この娘たちは僕が作った各属性を司る女神たちさ、特にお勧めはこの5柱!この娘たちの加護は特に強力でね、他の転移者からの指名率も抜群に高いんだ!どの娘を選んでも転移早々どこの勢力からも引っ張りだこ間違いなしだ!」
全能神の言葉が終わるとその場に居並ぶ女神たちの中でもとりわけ大きな存在感を持つ美女たちが恭しく頭を下げる。
「オレは火を司る業火の女神、”剣舞の踊り子”カリン様だ。オレの加護は当然火!火属性に威力で勝てる属性は無いぜ!すべてを焼き尽くす太陽の様な最高の火力を持つ火魔法の適正と、圧倒的な力を授けてやる!」
真紅の長い髪を揺らしながら弾ける笑顔を見せるカリン。
「アタシは雷を司る迅雷の女神トルエノ、”神速の武神”とも呼ばれてる。雷は疾い、スピードは光にも負けない、アンタたちに雷魔法の適正と誰にも追いつけない疾さをあげる。」
黄色に近い金に雷雲を思わせる黒いラインの入った短髪のトエルノは抑揚の少ない声色で語りかけている。
「氷雪の女神スティーリア…属性は氷…他に言う事は特にない…。」
「もう、お姉ちゃん!すみません!氷雪の女神スティーリアの妹で清流の女神リヴィエールです。こうみえても私が主祭神のリヴィエール教は人間界では最大教派なんですよ!”神秘の癒し手”として苦しむ人々のために日々祈りを捧げています。司っている水属性は治癒魔法や水魔法の適正も上がるのでいろいろな局面でご活躍頂けますよ!ちなみにお姉ちゃんは”偉才の賢者”と呼ばれていて、加護は魔力値の上昇と火属性に並ぶ高威力な氷魔法の適正が上がるんです。」
興味が無いといった様子で早々に視線を逸らした透き通るような白い肌に切れ長の瞳のスティーリアと、スティーリアによく似つつも幼さを残すリヴィエール。妹の方は姉のフォローをするように慣れているようでペコペコと頭を下げている。
「はじめまして転移者の皆様。わたくしは光を司る光輝の女神オレオールと申します。”奇跡の聖女”と呼ばれることもあります。光属性は全ての属性の頂点に立つと自負しております。わたくしの加護をお選びくださるなら邪悪な存在を滅する光属性の適正とすべての能力を強化して差し上げましょう。」
純白のドレスを纏うオレオールは洗練された立ち振舞でスカートの端を摘んでお辞儀をする。
全能神が勧めるだけあり5柱とも美女揃いの女神と比べても一際個性的で見惚れる程の美女たちだった。
※
その後5柱以外の女神たちの紹介も終わり、後は選ぶだけとなると全能神が興奮した様子で話しかけてきた。
「どうだい?受ける加護決まったかな?せっかくなら異世界無双とかしたいでょ?それなら僕がお勧めした女神たちから選んだ方がいいよ!何せ指名率トップだけあって初期ステータスへのボーナスも他の女神より多いんだ!最初っから強くてニューゲームできるようなもんだよ!」
全能神の言葉にざわめく生徒たち、異世界の大多数の人間たちより圧倒的に優れた存在になれると分かり不安よりも期待が大きくなっているようだった。
「質問してもいいでしょうか?」
新堂が全能神に尋ねる。
「何だい?新堂君。何でも聞いてくれ給えよ。」
「先ほど仰っていた初期ステータスへのボーナスを詳しく教えて頂けますか?」
その言葉に参賀はぎょっとした。女神たちが現れる前は帰ることを懇願していた新堂が異世界への転移に積極的になっている。
「いいよー新堂君。やる気になってきたみたいだねー。初期ステータスは諸君の筋力や敏捷性、頑強さ、魔力量といったパラメーターの事さ。これは生まれ持った才能や身体能力によって個々人に差がある。例えば新堂君は魔力量や敏捷性、瀬良君は筋力と頑強さの初期値が他の人よりかなり高いみたいだねー。基本的に変えることのできない初期値をボーナスポイントをプラスして嵩増しできるんだ転移者特権凄いでしょ!低いステータスを補うもよし!もとから高いステータスをさらに高めて特化させるもよし!想像力次第で自分を好きにキャラクリエイトできるんだ!」
「その数値を確認する方法はありますか?」
新堂の声が熱を持っているように感じるのは気のせいではないだろう。
「あるよー!自分のスマホで確認やポイントの割り振りもできる様にしてあげたから見てみてね。ついでに今諸君が持っている所持品が劣化消耗しないようにしてあげるね。これでスマホのバッテリーがなくなる心配はないし、制服もボロボロにならなくなったよ。スキルやジョブ、ストレージなんかもスマホで管理できるようにしておいてあげるねー。」
全能神が知らせる新しい情報に今度は目を輝かせた瀬良が食いついた。
「何だよそれ、ジョブって職業選べるのかよ。」
「うん。さっき女神たちが自己紹介の時言ってたでしょー?”剣舞の踊り子”とか”奇跡の聖女”とか、女神ごとに魔法属性ボーナスと職業適性ボーナスが違うからよく考えて選んでねー。」
全能神の説明が終わる頃には神殿にいる生徒たちは異世界への転移に乗り気になっていた。
「それじゃあ、早速好きな女神を選んで加護の契約をしてね!」
※
2時間もすると学生たちはそれぞれ女神たちから加護を受け取りスマホでステータスやスキルを確認している。その様子を見ているとやはり全能神が勧めた5柱を選んだ者がほとんどだった。
そうして興奮冷めやらぬ様子の学生たちに新堂が最初と同じように声をかける。
「みんな聞いてくれ、僕たちは女神様から加護を貰い力を得たとはいえ戦闘経験のない素人だ。ここでバラバラに異世界に転移しては対処できない問題も多いだろう。そこでだ、僕ら40人を5人ずつ分かれて8つのチームを組もうと思う。」
「おいおい新堂、俺は英雄になる男だぜ、チームで集まって戦うなんてそんなダセェことしたくねぇよ!」
自分のステータスによほど自信があるのか瀬良が新堂に食って掛かる。
「落ち着けよ瀬良、僕らはほんの数時間前までただの高校生だったんだぞ?僕や瀬良はステータスが他の皆より高かったからいいけどそうじゃない人だっているんだ。英雄ならクラスメートを守ってやってくれよ。」
瀬良の自尊心を擽りつつ諭すように言う新堂。クラスメートを守ってやるという優越感からか瀬良も満更ではなさそうだ。
「ちっ、しゃあねぇな。よし!俺と組みたい奴はいるか?この瀬良様が守ってやるぜ!」
うまく瀬良を丸め込んだ新堂が参賀に声をかける。
「貴方はどうなさいますか?クラスメートには5人8チームと言いましたが、貴方も僕のチームに入られますか?」
一人あぶれた参賀を気遣うと同時に、この集団の中で明らかに異質な存在を他のクラスメートに任せず、自分の目の届く範囲で監視したいという意図もあるのだろう。
(本当によくできた子だ。)
感心しながら参賀は新堂に答えた。
「心配してくれてありがとう。でも今から行く世界は何が起こるか分からない未知の世界だ。そんな中、チームに私のような異物があっては和を乱してしまうことになるだろう。大丈夫、私は大人だ自分一人で何とかしてみせるよ。」
提案を断わられた新堂は、どこかホッとしたように「そうですか・・・」と呟きそれ以上何も言わなかった。やはり見ず知らずの人間を監視しながらチームを率いるのは厳しいだろう。
※
しばらくしてチーム分けが終わると新堂が全能神に声をかけた。
「全能神様、準備が整いました。いつでも大丈夫です。」
新堂が言い終わると同時に祭壇の床に8つの魔法陣が浮かび上がり眩い光を放った。
「おっけー!それじゃあチーム毎に好きな魔方陣に乗って出発してね!到着先はそれぞれ違うけど何処もそんなに危険じゃないところに繋がってるから安心してね!」
8チームに分かれた学生たちはそれぞれ魔方陣に足を踏み入れていった。
「じゃあな新堂!ヘマするんじゃねぇぞ!」
「ああ、瀬良もみんなの事よろしく頼むよ。」
こうして神殿には参賀一人が残った。