表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/10

第1話 おじさん異世界転移に巻き込まれる

 その中年男性"参賀蓮十郎"(さんがれんじゅうろう)は本当に運が悪かった。たまたま用事があって乘った新幹線の席が修学旅行生たちと同じ車両で、その修学旅行生たちがやんごとなき神様とやらに神殿のような不思議な空間に丸ごと呼び出された。学生以外の乗客は彼だけで本来この場にいるべきではない存在だということは誰の目にも明らかだ。その証拠に先ほどから学生たちは彼に(誰だこいつ?)という視線を向けている。


「おい!どこだよここ!!」


「なんで!私たち新幹線に乗ってたのに!?」


 学生たちは突然の出来事に困惑しているようでその不安をかき消すように大声をあげて騒いでいる。


「みんな落ち着くんだ!まずは冷静に、ここにいるのはクラスの全員か?誰かいない人は?」


 一人の男子生徒が一段高くなった祭壇に立ち全員に聞こえるように声をかけた。その声を発した男子生徒を見た他の生徒たちが少し落ち着いたのを見ると、この男子生徒がクラスの中心人物なのだろう。


「よし、クラス全員いるな。怪我をした人もいないみたいだ。」


「なあ新堂しんどう、先生はどこ行ったんだよ、クラス全員いるなら先生もいないとおかしいだろ?」


 クラスの全員の安否を確認し、ほっと胸をなでおろした新堂と呼ばれた生徒にガタイの良い男子生徒が問いかける。


「ああ、先生なら学校に新幹線発車の連絡をするって言ってデッキに出て行ったよ。その直後車内が光って気づいたらここにいたし。他の乗客たちがいないところを見ると多分僕たちの車両の客席にいた人だけここに飛ばされたんじゃないかな?」


 (自分も同じく困惑しているだろうに。)


冷静に状況を分析していく新堂の姿に感心している参賀に新堂が向き直った。


「失礼ですが貴方は?僕たちのクラス以外にここにいるのは貴方だけですし、何かこの状況に心当たりはありませんか?」


 丁寧な口調だが声色や視線に強い警戒心を含んでいる。見知った集団の中に見ず知らずの男性が一人いるとなれば、この状況を作り出した犯人であると疑うのも当然だろう。新堂の言葉に廻りの生徒たちもざわめきだす。


「おいコラおっさん!てめぇが俺たちをこんなところに連れてきやがったのか!今すぐ帰しやがれ!ぶっ殺すぞ!!」


「やめないか瀬良せら!まだこの人が犯人と決まったわけじゃないだろ。」


 瀬良と呼ばれたガタイの良い生徒が凄むのを止める新堂、仮にこの男が犯人だったとしても下手に刺激するのはまずいとの考えからだろう。新堂の頭の回転の速さに驚愕しながらも参賀は誤解を解くために弁明を始めた。


「申し訳ないが、私にも今の状況がよくわからない。私も君たちと同じく突然こんな場所に放り出されて困惑しているんだ。」


 何とも胡散臭い言葉だが、そう思ったのは瀬良も同じだったようだ。


「誰がそんなウソ信じるかよ!他人はてめぇ一人だけ!どう考えても犯人だろうが!」


 客観的に見れば彼が最も怪しいのは明白、参賀がこれ以上の弁明が見つからず言葉に詰まっていると新堂の立っている祭壇の蠟燭に火が灯った。


「何だ!?」


 新堂も驚いて祭壇から飛び降りた。蠟燭の炎はみるみる大きくなり、ついには2メートルほどの火柱となった。その場にいた全員が注目していると、火柱は突然破裂した。その跡には中学生と思われる小柄な少年が立っていた。


「な・・・。」


 新堂が戸惑いながらも口を開きかけた時、その少年は満面の笑みで話し始めた。


「ようこそ諸君!僕の神域へ!諸君は数多いる人類の中から選ばれた英雄候補たちだ!諸君にはこれから異世界に転移してもらう、そこは剣と魔法のファンタジーな世界、胸躍るような冒険の旅が待っている!いやー羨ましいね!」


 少年はけらけらと笑いながら心底楽しそうに拍手をしている。


「おっと、自己紹介がまだだったね。僕の名前は全能神、いわゆる神様ってやつだよ。全知全能の神の力で君たち七里ななさと学園高校2年5組をここに呼び出したんだ!でも、あれー?なーんか一人違う人が混じってるなー。あ、そっか、呼び出すときに高校生40人と近くにいる大人1人って設定してたから巻き込まれちゃったんだねー。でもさー、普通修学旅行生の近くにいる大人って担任の先生じゃんねー?はーあ、40人指定した後に大人一人だけ別に指定するの面倒臭がらないでちゃんと指定すればよかったー。ま、いっか。」


 矢継ぎ早に喋り続ける全能神を名乗る少年に呆気に取られていた学生他一名だったが、いち早く我に返った新堂が口を開く。


「ちょっと待ってください。全能神?異世界に転移?とてもじゃないですが信じられません。」


 流石の新堂も話の内容が荒唐無稽すぎて理解が追い付いていないようだった。新堂の言葉に全能神は面白くてしょうがないといった様子で答える。


「まあ普通はそうだよねー、全知全能の神を目の前にすると理解が追い付かないよねー?でもね諸君は僕の大いなる神パワーでここに呼ばれてるんだよー?実際に自分の体で体験してるんだから信じるしかないんじゃないかなー?」


 全能神の諭すような語り口に新堂は口に手を当てて考え込んでいる。

(確かに41人もの人間を一瞬で全く違う場所に移動させているの事実だ。私たちが一瞬と思い込んでいるだけで催眠ガスなどで眠らせ時間をかけて運んだという可能性も考えられるが、それにしては意識の連続性の隙間が無さすぎる。私たちはこの神殿で目を覚ましたのではなく、気が付いたら立ったままでここにいた。)


参賀は自身の身に起こった整理する。新堂も同じ考えに至ったのだろう、苦々しげに全能神に答えた。


「た・・・しかに、そうですね。これは信じざるを得ないでしょう。貴方は科学では説明のつかない力を行使できる。」


 新堂が自分の力を認めたのを聞いて嬉しそうに笑う全能神。受け入れがたい現実を打ちひしがれながらも新堂はさらに言葉を紡ぐ。


「貴方が神であること、しようとしていることが本当なのは分かりました。ですが僕たちはただの高校生です、戦いなどしたこともない。本物の剣を見たことすらありません。そんな僕たちが異世界に行っても冒険はおろか、その日を生き抜くことすら怪しいです。どうか僕たちを元の場所へ帰してください。」


 新堂の言うことは尤もだ平和な日本で育ち戦争なども画面の向こうでしか見たことのない高校生たちがファンタジーの世界で生き抜くのは困難だろう。それは中年男性の参賀も同じだ。しかし、全能神はそんな新堂の真剣な願いを事も無げに否定した。


「だいじょーぶ、だいじょーぶ。もっちろん諸君を今のまま放り出すようなことはしないさ。」


 全能神はくるりとその場で回ると仰々しく両腕を上に掲げた。


 ―――後に参賀はたった一人の大人としてこの時無理矢理にでも学生(こども)たちを帰れるように全能神を説得するべきだったと後悔することになる・・・。

読者の皆さまへ


この小説を読んで面白い!続きが気になる!


と思われたら、↓の☆☆☆☆☆ボタンを★★★★★に変えて応援していただけますと幸いです!


皆さま”おっさんゾンビM”をどうぞよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ