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Act.7『はじめてのモンスター肉』



 初めての『傀儡作成』で一気にこれにハマった私は、翌日もぬいぐるみ作りを続けた。


 手縫いだから時間はかかるが、扱いやすい布地だし、元から好きな作業なのでただひたすらに楽しい。

 そして一日とかからず二体のウサギのぬいぐるみを作ると、二体目の赤ウサギに「二号」、三体目の青ウサギに「三号」と名付けた。


 『仮想人格憑依』で設定した性格は、赤ウサギの二号が「勇猛」で、青ウサギの三号が「臆病」。


 と、ここで『傀儡作成』がレベル2にあがっていたので、調子に乗ってもう一体、「従順」な黒ウサギの「四号」を作った。

 すると四号だけ「耐久 2/2」になっていたので、この数字は『傀儡作成』のレベルと同じらしいと判明。

 まあ、その意味はまだ分からないのだが。


 そうして私が布遊びをしている間に、世間ではどこからか新システム『チェスマン契約』の内容が知られるようになり、世論が「第二次侵攻への備えとしても、チェスマン契約をしたプレイヤーにダンジョンの探索を許可すべきではないか」という流れになっていた。

 ゲート周辺はいまだに瓦礫の山状態だが、幾つかの場所では片付けの作業も始まっているらしく、被害が比較的軽かったゲートの使用について話が出てきたのだ。


 個人的には (「なんでプレイヤーがダンジョンに行くのを“許可”されにゃならんのだ」)という気持ちになったけど。


 まあ、理屈は分かる。

 すでに「国家防衛戦力」として認識されつつあるプレイヤーの動向は、政府や国民の意志によってコントロールするべきものだ、と思われているのだろう。


 国に管理されるプレイヤーの皆さんへ「ガンバッテー」の気持ちを送りつつ、私はこれからもひっそり単騎(ソロ)でいこうと思った。



 ***



 『傀儡作成』のレベルが一つ上がったので、今度は道具屋でフライパンと調味料を買い、スキル『調理』とその派生スキル『特殊効果付与』についてちょっと集中的に調べてみることにした。

 作り置きおかずを食べ尽くしたので、何か作らないとすぐ食べられる物が無い、ともいう事情もあるが。


 まずはエプロンをつけて一人暮らしには不似合いな大型の冷蔵庫の前に立ち、冷凍室と野菜室から食材を取り出す。


 私は必要があれば外出できるタイプの引きこもりだ。

 が、人との接触を極力最小限に抑えたいので、必ずセルフレジを使う。それに買い物自体の必要回数を減らしたいから、業務用スーパーで冷凍食材を一度に大量買いしたり、仕入れが上手い八百屋で美味しい野菜を箱買いしたりしている。

 災害への備えにもなるし、とは思っていたが、まさかのモンスター出現でこれが役立つとはさすがに予想外だった。


 ともかく食材はあるし、日用消耗品も安売りの時に買いだめしてあるし、うちの地域はライフラインには問題なく、ガスも電気も水も使えるので、いつものように『調理』を開始。


 慣れたレシピの作り置きおかずを数種類作り、タッパーに入れて出来立てをそのままアイテムボックスに収納。

 使った道具を洗って片付けると、次はアイテムボックスから道具屋で買ったフライパンと調味料、第一次侵攻の後の残党狩りでドロップアイテムとして手に入れたモンスターの肉を取り出した。


「見た目は普通に美味しそうなかたまり肉……。『鑑定』で調べても変なところはないし、『心眼』で視てもとくに異常はない……。けどこれ、ホントに食べれるのかなぁ……?」


 ネットで調べても、モンスター肉を食べた人の話は見当たらなかったので、本気で未知の世界である。

 でもまあ、単騎(ソロ)でやっていくと決めた以上、自力でどうにかするしかないことがあるのは当然のことだ。

 とにかく何か作ってみることにする。


 とりあえず『レッドボアの肉・上』を薄切りにして、塩コショウをふってフライパンで焼いて。

 完成品を『鑑定』。


 ―――――――――――――


 アイテム名 : レッドボアの焼き肉

 カテゴリー : 食品

 レアリティ : B


 基礎効果 : 精神力回復 (中) 疲労回復 (中)


 特殊効果 : 攻撃力アップ (小)


 ―――――――――――――


 おお、初めて見る効果が付いてる。

 これはいけるのでは? と、パクリと一口。


 もぐもぐもぐもぐ……


「……なにこれウマッ!」


 さんざん躊躇していたモンスター肉は、思わず叫んでしまうくらい美味しかった。


 牛豚鶏とは違う味だが、ちょうどいい具合に脂の乗った肉は口の中でとろける美味さ。

 食べた後、身体に異常もないし、こうなればもう手を止める理由などない。


 すぐさま道具屋で鍋も買い、二つのコンロで焼き料理と煮込み料理を同時に作っていく。

 モンスター肉と道具屋で買った調味料を使った料理は「攻撃力アップ」の他、「防御力アップ」や「俊敏性アップ」、「アイテムドロップ率アップ」や「疲労回復継続」などの特殊効果が付いたので、サンドイッチにしてアルミホイルで包んだり、しばらく使っていなかったお弁当箱に詰めたりして、アイテムボックスに入れた。


 プレイヤー装備になると生理現象が一時停止するので、食べるのは装備前だ。

 装備後だと食べても消化されず、特殊効果を得られないので意味がない。


 これでダンジョンへ行く前にすぐ食べられる食事 (特殊効果付き)が用意できたので、思いがけない収穫にホクホク笑顔になってしまう。

 ついでに水筒を三本出して、お茶と紅茶とカフェオレを入れておいた (水筒が三本もすぐ出せたのは、昔使っていたのが一本と、何かのキャンペーンで貰ったのが二本あったからだ)。


 そして『調理』と『特殊効果付与』も、器があるだけ作りまくっているうちにレベルが一つずつ上がっていた。

 まだレベルが低いせいかもしれないが、サクサク上がっていくのは嬉しいものだと思う。


 ***


 翌日。


 モンスター肉のお弁当を朝食にしてステータスに「攻撃力アップ」と「俊敏性アップ」と「疲労回復継続」を付与し、アイテムボックスに傀儡四体を詰め込んだ私は、そろそろ行くか、と腰を上げ。

 プレイヤー装備でスキル『隠密』を発動させ、外に出る。


「行ってきます、雪姉さん」


 念のため、雪柳のご飯皿にはいつもより多めのカリカリを盛っておいた。



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― 新着の感想 ―
[良い点] アグレッシブな引きこもりだな、て思ったけど学生時代からずーっと引きこもっていた生粋の引きこもりではなくて、両親の死から始まったここ最近の引きこもりだった。と1人で納得。 他作品とかで生粋…
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