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Act.6『新システムと傀儡作り』



「〈全プレイヤーへ通達。新システム『(チェスマン)契約』が実装されました〉」


 いきなり緑色のルームランプになったナビは、それを言い終えると青色に戻った。

 私は驚いて洗濯物をたたむ途中で一時停止していたが、とりあえずテレビを消してナビに聞く。


「ナビ、今のはプレイヤー全員への一斉通知?」

「〈はい、Rx(レクス)〉」

「誰からの通知?」

「〈その情報は当機のデータベースには存在しません〉」


 いつもの返事だ。

 他のことを聞く。


「今実装されたとかいう、新システムの説明よろしく」

「〈はい、Rx。新システム『チェスマン契約』について、詳細を説明します〉」


 洗濯物をたたみながら説明を聞いたところ、新システム『チェスマン契約』は、非プレイヤーをこの災禍に対抗する戦力とするためのものだった。


 プレイヤーは一人につき、『ポーン』8名、『ナイト』2名、『ビショップ』2名、『ルーク』2名、『クイーン』1名、『キング』1名の、合計16名の非プレイヤーと契約することで、彼らを自分の『チェスマン』にすることができる。

 契約してチェスマンとなった非プレイヤーは、駒ごとに異なる特殊能力を得て、プレイヤーの指示に従って戦う。


 プレイヤーとチェスマンは遠く離れると契約が一時凍結され、チェスマンは駒として得た特殊能力を失う。

 が、プレイヤーの近くに戻れば凍結は解除され、能力も戻る。


 契約は双方の合意によるものでなければならず、解約もまた双方がその権利を持つ。

 プレイヤーとチェスマンの間に同士討ちが起きることはなく、プレイヤーとチェスマンの間で行われた攻撃は無効化される。


 チェスマンの攻撃によって倒されたモンスターのドロップアイテムは、すべて契約主であるプレイヤーの所有物となる。

 チェスマンはモンスター討伐でEを取得することができ、ステータス画面とアイテムボックス、道具屋を利用することができる (道具屋で販売されるアイテム数は契約したプレイヤーのランクによって変動する)。

 プレイヤーとチェスマン双方の同意があれば、取得したEもプレイヤーのものとすることが可能。


 ざっくりまとめると、こんな感じのシステムだ。


「……なんだろう、これ。うん。うーん……?」


 説明終了までに洗濯物はたたみ終わり、薄暗くなってきたのでカーテンを閉じて明かりをつけた部屋で、ぼんやりと首を傾げる。

 数秒そうしていたが、私が考え込んでもどうしようもないな、と判断した。


「なんか悪用しようと思えばいくらでもできちゃう、プレイヤーの人格が試されそうなシステムだな、って感じだけど。そもそも“プレイヤーじゃない人と契約する”っていう時点で、引きこもりの私には関係ない話だった」


 あー、なんか無駄に頭使った気がするー。

 雪姉さん、夕ご飯今から用意するから、ちょっと待っててねぇ。


 洗濯物を片付けるとキッチンに立ち、まず雪柳のご飯を用意してから自分の食事の支度に取りかかる。

 とはいっても、作り置きしてあるロールキャベツと、皮をむいて一口サイズに切って冷凍してあるジャガイモ、ニンジン、タマネギを一人用サイズの土鍋に放り込み、水とコンソメの素を入れて煮込むだけ。

 ちょっと時間がかかるので、やや弱めの中火にしてコタツに戻る。


「ナビ、タイマー30分よろしく」

「〈はい、Rx。アラーム設定、30分。カウントを開始しました〉」


 スキル『傀儡作成』を発動させ、傀儡(ぬいぐるみ)作りの続きに戻る。

 頭と胴体、前脚二つと尻尾はできているので、あとは後脚二つを作って、バラバラのパーツを一つに縫い合わせるだけ……


 二本目の後脚を縫っている途中でアラーム。


 手を止めて『傀儡作成』のスキルを止め、コタツの上を片付けてキッチンに向かう。

 土鍋の中ではロールキャベツと野菜がいい具合に煮えていた。


 火を消し、トレーに鍋敷きを敷いて土鍋を置き、マグカップに水を入れてレンジでチン。

 温まったマグカップの中の白湯にお茶のパックを放り込み、スプーンと箸を取ってぜんぶ一緒にトレーにのせると、コタツに戻って夕ご飯。


「あ、一応『鑑定』してみるか。冷凍してたやつ煮ただけで『調理』にカウントされるのか不明だけど」


 そう思いつつ『鑑定』してみたら、特殊効果に「精神力回復 (小)」「疲労回復 (小)」がついていた。

 これ以外の特殊効果がついてるところ見たことないんだが、これはそのうち成長するんだろうか。


 まあ、ご飯はご飯だし、回数こなせばレベルもそのうち上がるだろう。

 気にせず食べることにして、習慣でテレビをつける。


「日本各地のプレイヤーが、ナビゲーターからの一斉通知を―――」

「内容については現在詳細を確認中で―――」

「政府からのコメントはいまだ出されておらず―――」


 どのチャンネルも緊急特番でニュースになっていたが、唯一、民放で動物とのふれあい番組をやっていたのでそこで手を止め、動物園で一日飼育員をやることになった芸能人の賑やかな声を聞きながら夕ご飯を食べた。



 ***



 夕食後、テレビを消して食器を片付け、スキルを発動させてぬいぐるみ作りを再開。

 もうほとんどパーツは出来上がっていたから、最後の一つである二本目の後脚を作ると、まず頭を胴体に縫いつける。

 次にボタンを留め具にして前脚と後脚を胴体に繋ぎ、最後に胴体のお尻に丸い尻尾をつけて、完成!


「できたぁ~」


 ふい~、と息をつきながら寝転がり、手足を伸ばして、うう~ん、とうなる。

 最近は料理にハマっていたからぬいぐるみを作るのは久しぶりだったけど、意外とスムーズに出来上がったので良かった。


 さて、それでは次の『仮想人格憑依』にいこう。


 出来上がったぬいぐるみを見つめながらスキル『仮想人格憑依』を発動させると、選択画面が出た。

 ステータス画面みたいな、空中に浮かぶ半透明のボードに文字が表示される。


「え、なに……? 性格を選択してください?」


 選べる性格は三つ。


 一つ目の「従順」はプレイヤーの指示に従い、命令を受けるまでほぼ何もしない。


 二つ目の「勇猛」はダンジョンの中で放つと自分から敵を探して襲いかかりに行くが、プレイヤーとの距離が離れると戻ってくる。そしてまた敵を探しにいく。


 最後の「臆病」はプレイヤーの傍から離れず、モンスターの群れの中に放り込まれると全力で逃げ回り、可能であればプレイヤーの元へ戻ってくる。が、プレイヤーがダメージを受けるとブチ切れて反撃、敵を猛攻撃する。


「ああ、性格の選択って行動指針の決定なのね……。うーん。初めて作ったやつだし、この三つの中から選ぶなら「従順」かなぁ」


 傀儡にどれくらいの命令が通るのか、どれくらい動けるのか、試したいことは色々あるので、性格は「従順」を選択。

 すると一瞬、黒いウサギのぬいぐるみが光り、刺繍糸の緑の眼がパチパチとまばたきをして、鼻先がヒクヒク動いた。


「う、わぁ……」


 『イクリプス』が起きてから色んな非日常に遭遇したけれど、これはさすがに「語彙力ゼロか?」みたいな感嘆の声しか出てこなかった。

 だってしょうがない。


 私が作ったぬいぐるみが動いてる!

 私が作ったぬいぐるみの眼がまばたきしてる!

 私が作ったぬいぐるみが歩いたぞ!?


 という感動でいっぱいなので。

 言葉が出てこないのはしょうがない。


 が、命令されないから何もできず、性格「従順」の黒ウサギはその場でウロウロするばかりだったので、しばらくして感動が落ち着くと、ようやく頭が働きだした。


「ん? なんか画面出てる? ……ふむ、個体識別名称を登録してください、か」


 ファッションセンスのみならず、ネーミングセンスも無いと自認している私は、シンプルに「一号」と名付けた。

 動いているところを見ると本物の動物みたいだが、物は物。

 スキルで仮想の人格を植え付けたとはいえ、道具なのだから妙に凝ったりせず、分かりやすいのが一番である。


「えーと、この個体識別名称から動作のオン・オフができるようになってるのか。よし、じゃあオフ」


 ステータス画面の『傀儡作成』から派生した新スキル『傀儡管理』をタップすると、一号のスイッチを操作できる画面が出たので、オフにしてみる (この画面には他にも「耐久 1/1」という表示があったが、これが何なのかは不明)。

 すると黒ウサギはピタリと動作を止め、ただのぬいぐるみに戻った。


「おお~。簡単! お手軽! 面白い!」


 テンションが高くなっているので、ちょっとしたことではしゃいでしまう。

 そんな私に、迷惑そうな顔をした雪柳がコタツの中からのっそりと出てきて、「なぉ~ぉ」と低く鳴いた。


「アッ、ハイ。ごめんなさい。もう騒がないです」


 雪柳は素早く正座して答えた私を一瞥すると、もう興味を無くした様子で身軽にキャットタワーを登っていった。


 ……プレイヤーなんていうものになっても、雪姉さんにはかなわない。


 一気に冷静になった私は、それからお風呂に入って寝るまでの時間を全部ぬいぐるみ作りに費やした。

 いや、だってこれ、楽しい。



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― 新着の感想 ―
モンスターの群れのど真ん中に投げ込まれる臆病な子かわいそう
[気になる点] 非プレイヤー、は必ずしも人間を指すのかどうか。で雪姉さんをキングとしてオトモアイルー化できそう
[一言] 雪姉さんと契約しましょうー、魔法少女になるのです!
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