Act.46『新ダンジョンと初めて見るアナウンス』
7月下旬。
ダンジョン踏破から二日ほど休みを入れ、次のダンジョンに向かう。
五つ目に行くダンジョンは、常盤市の植物園前ゲートから入るところだ。
いつものように部屋の隅にビニールシートを敷いて、プレイヤー装備に変更すると、『隠密』を発動させてからナビの『転送』で移動する。
破壊されたままの植物園の中にある建物。
その屋上からゲートを見おろし、近くにプレイヤーもチェスマンもいないことを確認する。
ゲートの警備はレベルマックスの『隠密』と『隠蔽』で抜けるので、思っていたより簡単に扉を開けてダンジョンに入ることができた。
毎回起きる背後での騒ぎを聞き流し、私はダンジョンに入るのと同時に流れたアナウンスを読むことに集中する。
――― 『翡翠の紋章』認識
――― 分類:緑、第1層のクリアを認証
――― 対象プレイヤーを第2層へ転送
初めて見るアナウンスだし、ダンジョンにカテゴリーがあることも、第1層、第2層という違いがあることも知らなかった。
しかし、思い当たることがある。
即死魔法が効いた中ボスだ。
おそらく第1層というのは初心者用ダンジョンで、あの中ボスは後にザコ敵化する系のモンスターだったんだろう。
だから即死魔法が効いたんだな、と納得した。
そして第2層ということは、当然、初心者から次のステップに入ったプレイヤー用のダンジョンということになる。
そこまで考えて、一応、ナビに質問してみた。
(「ナビ。ダンジョンの第1層、第2層っていうのは何?」)
「〈その情報は当機のデータベースには存在しません〉」
ナビはいつだって安定のナビ。
アナウンスも一通り流れた後は何もなし。
「……攻略本、欲しいなぁ」
期待はしていなかったし、予想通りなのだが、思わず遠い目になってつぶやいてしまった。
まあ、しょうがない。
無い物は無いのだ。
今回のダンジョンは水晶洞窟。
様々なグラデーションの緑でできた水晶柱が、一本道の左右に林立し、天井からもポツポツ生えている。
水晶柱が淡く光っているので明かりに問題はないのだが、開けたダンジョンを連続して探索していたせいか、空間の狭さが気になる。
飛行型の傀儡には、ここはいささか狭そうだ。
地上型とアイテム収集役、哨戒役の飛行型の傀儡達をアイテムボックスから取り出し、それぞれに命令を出して放つ。
ダンジョンの第2層、という場所に来たのは初めてだ。
ひとまず徒歩で進み、様子を見ることにする。
そうしてナビの1時間アラームまでダンジョン探索をして分かったことは、二つ。
一つは第1層よりモンスターが強いこと。
もう一つは、第2層にはトラップがあること。
モンスターの強さが上がっていることは予想の範囲内だったが、トラップには少し驚いた。
ごく単純な落とし穴にハマったり、ネバネバしたもので足を取られたり、頭上から水晶柱が槍のように降ってきたのを回避しきれず、直撃は避けたものの傷つく傀儡が続出した。
傀儡があって良かった、と心から思った。
ダンジョンの探索は楽しいが、トラップにハマるのは嫌だ。
今のところ即死系トラップは無いが、これから先、トラップも難易度が上がっていくだろう。
落とし穴の底に無数の鋭い棘が、とかよく見るやつだけど、自分で体験したいとは思わない。
10分間の休憩中。
ナビの『結界』の中、ハンモックチェアに座って感覚を閉じ、休ませながら息をつく。
モンスターの強さが上がったこともあって、傀儡達の耐久値もじりじりと削られている。
しばらくは無理せず徒歩で進んで、私も積極的にモンスター狩りをしていこう。
***
ナビのサポート機能である特殊スキル取得に、『トラップ探知』が増えた。
第2層に入ったことで増えたのか、私の傀儡がトラップにかかったことで出てきたのか。
出現条件は不明だが、取得条件は簡単だ。
『心眼』レベル3と『危険察知』レベル3で、あとはEを支払えば取得。
トラップは『心眼』では分からなかったので、即取得した。
***
8月上旬。
第四回地上攻撃部隊迎撃戦が発生。
今回出現した特殊モンスターは、おそろしく防御力の高い移動砲台、といった感じの岩石カエル。
ピョンピョン飛んで移動し、建物の壁などにペタリと張り付いては、パカッと口を開いてレーザービームみたいな一直線の貫通攻撃をしてくる。
単体でも面倒なのに、さらに厄介なのがこの岩石カエル、飛行系モンスターの背に乗って空中砲台と化すところ。
前回から出てくるようになったコウモリモンスターによってパワーアップしたドラゴンにこの岩石カエルが乗ると、物凄く大変な敵になる。
しかし岩石カエルも無敵というわけではなく、『緑魔法』が効果抜群。
なので私の行動は、蜘蛛モンスターを『ファイアーボール』で焼き払い、コウモリモンスターをライフル狙撃で撃ち砕き、岩石カエルに『ドレインフラワーⅡ』を放つ。
という三つを中心に、あとは臨機応変に対応、という感じになった。
パワーアップ版モンスターが厄介なので、コウモリモンスターを最優先で狩り。
死角からの貫通レーザービームで巻き込み事故されるのが怖いので、岩石カエルも見つけ次第『ドレインフラワーⅡ』を放つ。
こうなると蜘蛛モンスターなんて、地上型モンスターの足場になる巣を張ったらあとは固まっているだけなんだから、可愛いものだと思えてくる。
そんなこんなで厄介な特殊モンスターを狩り続け、一つの結界内のモンスターを殲滅したら次の結界へ強制転送される。
何回も、何回も、何回も。
さすがに今回、多くない……?
げっそりしつつも、どうにか片付けたところでようやく終了。
いつものようにフラフラの状態でプレイヤー装備を解除して、倒れこむようにベッドに沈んだ。
……はずだった。