Act.42『ダンジョン踏破と新魔法』
草原ダンジョンのラスボスは、キマイラだった。
雷撃の他に尻尾のヘビの牙で毒攻撃もできるようだったが、こちらはステルス系スナイパー。
しかも『身体能力制限解除』をしたので、空中を自由自在に駆けまわって最後まで接近を許さず、ほぼ一方的な狙撃と魔法攻撃で仕留めた。
――― ドロップアイテム『キマイラの尾ヘビ毒袋』取得
――― ドロップアイテム『キマイラの嘴』取得
――― ドロップアイテム『キマイラの羽』取得
――― ドロップアイテム『魔法書「雷魔法・中級編」』取得
――― 7800E取得
流れていくアナウンスを眺め、ふわふわ落ちてくる稲妻型をした紫色の宝石を手のひらで受け止めた。
――― ダンジョン『アメジストの雷原』踏破の証『アメジストの紋章』取得
踏破してはじめて知るダンジョン名。
そして腹パカするナビ……
収納スペースをご利用ください、と言われるがまま、頷いて同じ形の凹みに紫色の宝石を嵌め込む。
慣れたといえば慣れたのだが、いつもの丸っこいルームランプみたいな形に馴染んでいるので、パカッと腹を開いた姿はナビじゃないみたいで落ち着かないのだ。
紋章を収納スペースに入れてやれば閉じるから、まあいいんだけど。
***
魔法書を使ってから、帰宅。
お風呂に入って昼食をとり、お茶を飲んで一服しながらステータスをチェック。
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プレイヤー名 : Rx
ランク : 4
武器:第8段階 タイプ『ライフル/黒』
防具:第8段階 タイプ『敏捷・ステルス優先/黒』
◆武器スキル
●『ライフル』レベル10
→『鷹の目』レベル10
→『追尾』レベル3
→『跳弾』レベル6
◆防具スキル
●『消音』レベル10
→『隠蔽』レベル10
→『静寂迷彩』レベル6
●『高速移動』レベル7
◆装備品
・空色羽兎のイヤーカフ(跳躍高度アップ (大))
・蒼風のペンダント(移動抵抗軽減 (大))
・妖精の腕輪(『隠密』と『隠蔽』消費精神力80%軽減)
・破砕の指輪(攻撃力アップ (特大))
・鏡迷宮のアンクレット(被ダメージ反射 (発動確率・大))
◆特殊スキル
●『冥道視眼』レベル5
●『縮地』レベル2
●『氷魔法』レベル5
→『アイスアロー』レベル4
→『アイスウォール』レベル5
→『アイスフィールド』レベル4
●『緑魔法Ⅱ』レベル4
→『チェーンシードアローⅡ』レベル4
→『ドレインフラワーⅡ』レベル4
→『グラスフィールドⅡ』レベル2
→『ガーデン・オブ・ジ・エンド』
●『水魔法Ⅱ』レベル1
→『ウォーターカッターⅡ』レベル1
→『ウォーターシールドⅡ』レベル1
→『ウォーターフィールドⅡ』レベル1
→『テラー・フロム・ザ・シー』
●『雷魔法Ⅱ』レベル1
→『サンダーアローⅡ』レベル1
→『サンダーチェインⅡ』レベル1
→『サンダーレインⅡ』レベル1
→『ダンス・イン・ザ・スカイ』
◆補助スキル
●『隠密』レベル10
→『心眼』レベル10
→『遁行』レベル10
→『鑑定』
→『隠蔽』レベル10
→『分身作成』レベル1
→『隠蔽対象指定』レベル6
→『透過』レベル3
●『跳躍』レベル10
→『二段跳躍』レベル9
→『天駆』レベル7
→『滞空延長』レベル9
●『硬化』レベル1
●『スキル探知』レベル6
●『危険察知』レベル4
●『裁縫』レベル9
→『傀儡作成』レベル9
→『仮想人格憑依』レベル7
→『傀儡管理』レベル6
→『巨大化』レベル9
→『縮小』レベル1
→『能力付加』レベル7
→『護符作成』レベル1
→『アイテムドロップ率アップ』レベル9
●『調理』レベル10
→『特殊効果付与』レベル9
→『アイテムドロップ率アップ』レベル10
●『エキス抽出』レベル3
●『エキス調合』レベル3
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魔法書で『雷魔法Ⅱ』になって、取得した新魔法は『ダンス・イン・ザ・スカイ』。
優雅な名前とは裏腹に、使用者の周囲にランダムで雷を落とし、衝撃で周囲にいるものを空に舞い上がらせて雷撃で滅多打ちにする、というえげつない魔法だった。
空の上で踊ってるみたいに見えるくらい、舞い上がらせたものを雷撃で滅多打ちにするから、『ダンス・イン・ザ・スカイ』なのだ。
「いやこれマジでえげつないな……?」
あと使用者の周囲でこれが起こるってことは、使う時は耳を塞いだ方がよさそうだ。
すごい轟音が発生しそう……
使用者の鼓膜にダメージがこない仕様であるよう、祈るばかりである。
***
これで踏破したダンジョンは三つ。
浅葱駅前ゲート『翡翠の虚根』。
藍市のツインタワー前ゲート『アクアマリンの千路』。
菫市の大型ディスカウントストア前ゲート『アメジストの雷原』。
ナビの転送先として登録してあるゲートで、まだ攻略していないダンジョンはあと二つ。
紅梅市の市民公園モニュメント前ゲート。
常盤市の植物園前ゲート。
どちらでもかまわないので、ひとまず紅梅市の市民公園モニュメント前ゲートのダンジョンへ行ってみようと決めた。
6月下旬。
三回の侵攻で焼け野原となった公園にちらほらと生える、草の緑に目を細め、『転送』で近くの建物の屋上に来た私はダンジョンに入る機会を待つ。
美しいステンドグラスのような扉の両横には、武装した自衛隊員。
近くに同じく武装した警察官と、簡易テントの中に作業服姿の政府職員。
それだけならさっさと動くのだが、今回はプレイヤーとチェスマン達が簡易テントで政府職員と何やら話し込んでいて、その横で姿を消したままゲートを開けるのはちょっと躊躇する。
以前ナビに聞いたことが本当なら、もし彼らに気付かれ、追われて一緒にダンジョンに入ってしまったら、同じ場所に転送されてしまう。
ソロプレイヤーとしては避けたい事態だ。
プレイヤー達がいなくなるまでその場でじっと待ち、数分後、彼らがナビゲーターの『転送』で姿を消すと、一気に動いた。
『跳躍』と『二段跳躍』で距離を詰めてから『縮地』で扉の前に立ち、思ったより固い感触の扉に手のひらを当ててグッと押す。
扉は軋む音なくなめらかな動きで開き、その隙間にするりと体を通した。
四つ目のダンジョンの土を踏んだ私の背後、閉まっていく扉の向こうで騒がしい声がしたが、返事をする気はないのでスルー。
それよりも周囲の様子を注意深く観察する。
現在地は、全体的に黒ずんだ石と岩と砂でできた山の中腹。
遠くで噴火する火山から流れ出る溶岩の、鮮やかな朱金のマグマ。
地面から響いて体の奥を震わせる、噴火の衝撃。
あちこちから立ちのぼる黒煙と、焦げくさい匂いと、独特の異臭。
「火山特有のガスの匂い、なのかな……?」
プレイヤー装備の状態で、火山地帯に発生する有毒ガスの影響を受けるのだろうか。
分からなかったのでステータス画面を開いてみたが、毒状態にはなっていなかった。
「……うーん。とりあえず、今は大丈夫、っぽい?」
しかし長く吸っていたい空気ではないし、埃っぽい空気が含む細かな塵も気になる。
そこで、ナビに言って装備に防塵ゴーグルと防塵マスクを追加した。
目を保護するゴーグルは思ったより大きいが、それでもかなり視界が狭くなる。
けれど『心眼』が見えなくなった部分もカバーしてくれるので、さほど気にならなかった。
防塵マスクは口元まで覆うネックガードの中にゴツいマスクが現れて、埃っぽくて異臭のする空気がだいぶマシになる。
装備を二つ追加することで、目も痛くならないし、息をするのも楽になった。
ちゃんと対策すれば大丈夫そうだな、とホッとする。
ステータスもチェックしてみたら、防具スキルに『防塵』と『防毒』レベル1が追加されていた。
『防塵』はレベルが無いから、塵を防ぐことに関しては信用して良さそうだ。
『防毒』についてはレベル1だから、あまり期待しすぎるのは危険だろう。
体調の異常には気を付けておいた方が良さそうだ。
とりあえずこのダンジョンを攻略するための装備はこれで決定。
あと一つは。
「中ボス倒したら炎魔法がゲットできそうなダンジョンだけど、布とワタでできた傀儡は相性悪そうだなぁ。燃やされてしまう……」
たしか雷耐性付きの布と同じように、『良質』シリーズに炎耐性付きの布が売られていたはずだ。
帰ったらそれを買って、またぬいぐるみを量産しよう。
一通り決めたら、現在地をナビに登録し、地上型と飛行型、アイテム収集役の傀儡3グループを取り出して放つ。
私は『跳躍』で空に上がり、草原ダンジョンと同じく『天駆』で火山地帯を駆け抜けてゆく。
ここのモンスターは地上から弾丸並みのスピードで石を投げてきたり、炎の球を放って攻撃してくる。
移動速度は緩めにして、こちらからも狙撃や『跳弾』で応戦して仕留めていった。




