Act.41『エキス抽出と調合』
午前中にダンジョン探索。
午後は料理&お菓子作り。
休日を挟んで三日ほどそれを続けると、ようやくスキル『調理』がレベル10になった。
特殊スキルの取得条件、達成だ。
(「ナビ、特殊スキル取得する。エキス抽出と調合」)
「〈はい、Rx。スキル『調理』レベル10、達成を確認。『エキス抽出』、『エキス調合』、ともに取得可能な特殊スキルです。100,000Eの支払いで取得が完了します。支払いますか?〉」
目の前にテキストボックスが浮かび、「はい」と「いいえ」のボタンが表示される。
私は「はい」を押した。
「〈100,000Eが支払われました。特殊スキル『エキス抽出』『エキス調合』取得、完了です〉」
(「やった~。ようやくゲットだ。ありがと、ナビ」)
二つの新スキルは、ステータス画面の一番下、補助スキル欄の『調理』の下に表示された。
そして、新スキルの取得により道具屋に新商品が入荷されました、という案内がポップアップした。
ステータス画面から道具屋に移動し、新商品をチェック。
エキス抽出に使うビーカーや試験管、調合に使うフラスコやスポイトや攪拌用のガラス棒 (そのまんま攪拌棒という名前らしい)、完成したオリジナルポーションを入れておくための小瓶 (透明のと色付きガラスのがあり、サイズは大中小、形状は数種類)。
それと、『エキス調合の手引き』。
「これは最初に読んどいたほうがよさそうだな」
まずは『エキス調合の手引き』を購入。
薄っぺらいパンフレットみたいなそれをアイテムボックスから取り出し、ペラペラとめくってみる。
内容はシンプルで、本当に基礎の基礎を教えてくれる手引書だ。
以下、基本的なことがイラスト付きで解説されている。
・素材からエキスを抽出する時は、きれいな空のビーカーに入れる。
・エキスを抽出された素材は、消費されたものとして消える。
・基本的に混ぜるエキスは2種類か、3種類までを推奨する。
・同量を混ぜることを推奨する。
・属性によって相性の良い悪いが存在する。
・調合が成功するとエキスが光って、オリジナルのポーションが完成。
・失敗した場合はエキスを混ぜたものが消える。
・使用法はポーションと同じく、飲むか、体にかける。
・エキスも使用は可能だが、ポーションより効果の持続時間が短い。
以上。
安くて薄っぺらいわりに、重要なことをシンプルに分かりやすく教えてくれる、ありがたい手引書だった。
おかげで必要そうな物が分かったので、一揃い購入する。
ビーカーを12個。
試験管を12個。
フラスコを5個。
スポイトを12本。
攪拌棒を5本。
0.001gから計量できるデジタルスケール。
透明なコルク栓付きの小瓶を12個。
完成したポーションを小瓶に入れるための漏斗を1個。
試験管の木製スタンドと完成品の小瓶に貼るラベルシールも買って、準備は完了。
さっそく空のビーカーを用意して、特殊効果の付いた素材、モンスター肉をアイテムボックスから取り出し、スキル『エキス抽出』を発動させる。
「おお~」
モンスター肉はスキル『エキス抽出』発動によって淡く光り、ビーカーの上でクルクルと回りながら小さくなっていき、ポタポタと色のついた水のようなものを滴らせて、しばらくすると消えてしまった。
後に残ったのはビーカーの中に溜まった、赤い水だ。
とりあえずそれを『鑑定』してみる。
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アイテム名 : レッドボアのエキス
カテゴリー : 素材
レアリティ : B
基礎効果 : ―――
特殊効果 : 攻撃力アップ (中)
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どうやら特殊効果だけが抽出されたようで、素材にした『レッドボアの肉・上』に付いていた基礎効果が消えていた。
ここからどうやってオリジナルポーションを作っていくのか、考えるだけで面白い。
そうして他の素材からもエキスを抽出していると、12個買ったビーカーがあっという間にエキスで埋まり、空のビーカーが無くなった。
色とりどりのビーカーを並べて、今度は調合してみようと、スポイトを手に取る。
まずはデジタルスケールにフラスコを置き、スポイトで少量のエキスを入れて計量。
次に別のスポイトで2種類目のエキスを同量入れてから、軽く振ってみる。
攻撃力アップ効果のある赤い色水と、速度アップ効果のある白っぽい色水が混ざり、きれいなピンク色になってキラキラと淡く光った。
「お、成功か?」
光の消えた試験管の中身を『鑑定』する。
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アイテム名 : 攻撃・速度アップのポーション
カテゴリー : ポーション
レアリティ : B
基礎効果 : ―――
特殊効果 : 攻撃力アップ (中) 速度アップ (中)
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「よし、できてる!」
色的に良さそうな組み合わせで試したのが良かったのか、2種類のエキスが無事ポーションになっていた。
試しに体にかけてからステータス画面を開くと、ちゃんと二つの特殊効果が付いていた。
効果は数分しか続かないようだが、少量だったから当然だろう。
ポーションは体にかけた瞬間、蒸発するみたいに消えるので、服や周りのものが濡れたりもせず、便利だ。
飲まずとも効果があるのなら、かける使い方をしていきたい。
それからその日はビーカーとスポイト、フラスコと小瓶を買い足し、ひたすらオリジナルポーション作りに没頭した。
ポーションを作る、というより、より綺麗な色水を作るにはどうすればいいか、と考えてやってみる方が成功率が高かったので、途中からはほぼ「綺麗な色水作り」だったが。
それでもそのやり方で最高4種類のエキスを調合してポーションにすることに成功したりして、とても楽しかった。
***
しばらくキッチンに立たなくてもいいくらい料理とお菓子を作り溜めたので、アイテムボックスからその出来立てを取り出して食べては、ダンジョン探索に出かける。
エキス抽出・調合も順調で、着々と増える小瓶をダンジョンで使い、効果や持続時間を調べている。
そうして分かったのは、オリジナルポーションの持続時間は体にかける量によって長短が変わり、一定値以上は重ねがけしても無効になる、ということだ。
せっかく作ったオリジナルポーションがもったいないので、重ねがけはしないことにした。
こうなるともう、モンスターが素材にしか見えない。
元々『傀儡作成』でモンスター素材を使いはじめた頃からその傾向はあったが、エキス抽出・調合で加速し、もはや頭の中では「モンスター」と「素材」がイコールでガッチリと結ばれている。
なので草原ダンジョンで十数回サンダーウルフを狩り、白い霧に遭遇した時、真っ先にこう思った。
――― ボス素材きた!
ついでにこれも思った。
――― 魔法書きた!
そうして緊張感の欠片もなく、足取り軽く。
すべての傀儡をアイテムボックスに戻した私は、意気揚々とラスボス戦に向かった。