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Act.38『落雷対策とダンジョン攻略の後』



 スキル『傀儡作成』を発動させ、雷耐性付きの『良質な布』でイヌのぬいぐるみ作りをしている時、ふと思った。


 ―――――― 雷の音が聞こえても止まらず突っ走って、落雷までの間に危険な場所から抜け出してみるのはどうだろう?


 可能性、ある気がする。


 現実のものだとどうか分からないが、あの落雷はダンジョン内の、フィールドからの攻撃だ。

 プレイヤーに準備時間を与えるためか、予兆の音が聴こえてから実際に雷が落ちるまで、そこそこ時間があった。

 今の私なら『天駆』で障害物の無い上空を全力疾走すれば、一気にかなりの距離を移動できるはず。

 ついでに前に加工屋を見た時、たしか速度アップを補助してくれる、ちょっと変わった効果のアクセサリーがあった気がするから、それを付けてみたらいけるんじゃないだろうか。


 ぬいぐるみ作りを中断し、加工屋の画面を開く。

 見つけたのは『蒼風のペンダント』で、効果は「移動抵抗軽減 (大)」。


 今装備しているペンダントは、モンスターや他のプレイヤーに見つかりにくくするためのものだから、変更してもとくに問題ないだろう。

 私のスキル、『隠密』も『隠蔽』もレベル10だし、地上攻撃部隊迎撃戦の時に出てくる飛行系モンスター以外、今のところ見つかったことないし。


 作るために必要な素材も、幸運なことに飛行系モンスターの羽が数種類で、これにはまだ残りがあった。

 核や爪、牙や鱗を傀儡に入れることが多かったから、羽はあまり使っていなかったのだ。


 というわけで、『迷彩のペンダント』を『蒼風のペンダント』に変更。


 効果は明日の探索で試してみることにして、『傀儡作成』を再開する。

 アイテム収集役は戦闘を想定していないので、地上型と飛行型の2グループを、雷耐性付きの傀儡にできるよう、せっせと縫っていく。


 『良質』シリーズは作るスピードを上げてくれるので、こういう時、とても助かる。

 そうしてその日は『傀儡作成』で終わった。



 ***



 翌日。


 モンスター肉の朝食をとって、ダンジョンに入る。

 いつも通り地上型傀儡と飛行型傀儡、アイテム収集役の3グループを放ち、自分は『跳躍』で空に上がって『天駆』で先へ進む。


「お、わっ?!」


 そう、いつも通りにやった、はずなのだが。

 ほとんど空気抵抗を感じず、驚くほどのハイスピードで勝手に体が前に進む。


 これが『蒼風のペンダント』の効果、「移動抵抗軽減 (大)」の威力か。


 慌てて足の力を緩め、スピードを落とす。

 全力を出すのは落雷の予兆を察知してからでいい。

 それまではスピードを緩めておかないと、モンスターを倒しながら追いかけてくる地上型傀儡達を置き去りにしてしまう。


 それからしばらく、見つけたモンスターを狙撃や『跳弾』で狩りながら進む。

 するとその数分後くらいに、上空からゴロゴロゴロ……、と不穏な音。


 その瞬間、思い切り足に力を入れて全力疾走を開始する。

 当然、地上型傀儡は置き去りになったが、今は落雷から逃げることが最優先だ。


 瞬く間に草原の上、空中を一気に駆け抜けてゆく。

 頭上から響いてきていた不穏な音が、徐々に背後になり、遠ざかり。


「ふぁ……ッ!」


 落雷。

 背後からビリビリと衝撃が伝わってきたが、遠く離れたおかげか、地上で布を被って丸まっていた時より体が受けるショックは少なかった。


「勝った……!」


 思わずグッと拳を握った。

 初めてダンジョンを踏破した時より、達成感と満足感がある気がする。

 それに、布を被って丸まってるより、全力疾走で逃げるほうが自分らしい。


 ただの思いつきだったけど、やってみるもんだなぁ。


 頑張って走り過ぎたので、『天駆』で空を逆走して、置き去りにした地上型傀儡のグループに合流する。

 ちなみに雷はまた木に落ちたらしく、燃えて炭化したそれから黒い煙が細く立ち上っているのが見えた。



 ***



 ダンジョンでは落雷から全力疾走で逃げつつ探索を進め、家では雷耐性付きの『良質な布』で地上型と飛行型の傀儡を量産して、数日。


 『仮想人格憑依』がレベル7に上がった。

 新しく選べるようになった性格は二つ。


 一つは「天然」。

 自分では命令を聞いているつもりだが、気づけばまったく違うことをしている。放置しておくと、珍しいアイテムを拾ってくることがある。


 もう一つは「気配り上手」。

 命令を遂行しながら周囲の状況を観察し、受ける損害はより少なく、敵へのダメージはより大きくなるよう立ち回る。


 「天然」はアイテム収集役に使えるし、「気配り上手」は攻撃グループに入れておきたい性格だ。

 いくつか作った傀儡に設定した。


 あと、『傀儡管理』と『巨大化』、『能力付加』もレベルアップ。


 レベル6になった『傀儡管理』は、傀儡の耐久値が残り1になった時、アラームが鳴るよう個々に設定できるようになった。

 が、今のところどうしても失いたくない傀儡はないので、設定はしない。

 そのうち貴重なアイテムを入れて能力値の高い傀儡ができたら、使ってみようと思う。


 レベル9になった『巨体化』は、もはやゾウ並みの大きさだ。

 飛行型傀儡やアイテム収集役はもう少し小さいほうがいいのに、と渋面になったが、個別の操作盤を見てみると、いつからあったのか、サイズ調整の項目が増えていた。

 おかげでサイズを小さくできるようになったので、飛行型とアイテム収集役の傀儡のサイズをライオンくらいまで下げておいた。



 ***



 6月中旬。


 午前中のダンジョン探索を終えて帰宅し、お風呂に入って昼食をとっていると。


「〈全プレイヤーへ通達。侵略者(インベーダー)による地上攻撃部隊の接近を探知しました〉」


 緑色のルームランプになったナビが言った。


 お、来たか、と今回は冷静に思う。

 今のところ侵攻と地上攻撃部隊迎撃戦が交互に起きているので、誰もがこれを予測できていただろう。


「〈探知した『ア**レイ***』により、現在敵出現予測地点に結界を構築中。これより五分後、ランダムにプレイヤーの転送を行う〉」


 昼食の残りをかきこんでモグモグと口を動かし、お茶を飲んで流し込む。

 雪柳はまだカリカリを食べているところだったので、別の皿に大盛りにしたカリカリをちょっと離れた場所に置いておく。


「〈現在構築中の結界は、現実に存在するものを完璧に複製した異空間であり―――〉」


 前と同じく「地上攻撃部隊を殲滅しねーとお前ら家に帰さねーから」的なことを言うナビの淡々とした声をハイハイと聞き流し、準備を整えて部屋の隅に敷いたビニールシートの上でスタンバイ。

 プレイヤー装備になると全身黒ずくめでライフルを持った不審者と化す私を気にもせず、平然とカリカリを食べ続けている雪柳はすごい猫だなぁと思う。


「〈時間です、Rx(レクス)〉」


 青いルームランプに戻っていたナビが言い、私はスキル『隠密』を発動させた。


「〈カウント開始。5、4、3、2、1、……0。転送完了〉」


 ナビがカウントを終えた時、私は暗い街のどこかに立っていた。

 ナビに頼んで目を暗視モードにしてもらうと、ようやく古びた建物の横にいることが分かる。

 『跳躍』と『天駆』でその建物の屋上にのぼると、テレビやネットで見たことのある景色を眺めながら聞いた。


(「ナビ、現在地の地名を教えて」)

「〈はい、Rx。現在地は国名『イギリス』、都市名『ロンドン』です〉」


 もう迎撃戦の時に国名を聞く気は無かったのだが、さすがに映画やニュースで何度も見た風景の中に自分が立っていると思うと気になってしまい、つい質問。

 ナビの返答に納得しつつ、驚く。


 ふぇ~、ここ、やっぱりロンドンなのかぁ~。


 私が立つ宮殿の向こうに、大きな川が流れているのが見える。

 おそらく現在地はウエストミンスター宮殿の屋上で、ビッグベンの足元。

 流れる川はテムズ川だろう。


 この景色テレビで見たことある~。

 しかもこれからここがモンスターとの戦場になるとか、ファンタジー映画の開幕ですやん。

 エキストラの一人になった気分だなぁ。


「〈敵部隊の出現は、プレイヤー転送から一分後と推測されています〉」


 ぽやっとした気分はナビの一言であっさり終わった。

 ああ、今度は何体のモンスターに追いかけられるんだろう……


 街のあちこちで迎撃態勢を整えているプレイヤーとチェスマン達を見おろしながらライフルを構え、いつでも動けるよう準備する。


「〈敵部隊、出現します。カウント開始。5、4、3、2、1、0〉」


 カウントが終わるのと同時に街のあちこちに黒い霧、湧きポイントが発生し、その奥からモンスターが飛び出してくる。


「〈敵部隊、出現。第三回地上攻撃部隊迎撃戦が開始されました〉」



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― 新着の感想 ―
[一言] バカ加速できるようになってるから逃げ足余裕な気がする
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