Act.37『転移先登録とダンジョン攻略再開』
今、ナビに登録できる転送先は六ヶ所。
そして、私が登録しているのは五ヶ所。
まず、現在攻略中のダンジョンの中 (菫市の大型ディスカウントストア前ゲートから入ったダンジョン)。
加えて以下、
藍市のツインタワー前ゲート
紅梅市の市民公園モニュメント前ゲート
菫市の大型ディスカウントストア前ゲート
常盤市の植物園前ゲート
の、近くにある建物の屋上。
迂闊にも自宅から一番近い浅葱駅前ゲートの登録を上書きで消してしまっていたので、第二次侵攻の時も今回も、自宅から行くことになったのだ。
道中、打ち漏らしを始末できたので、結果的にはそれはそれで良かったのだが、とりあえず次の侵攻に備えて登録しておくことにする。
まあ、次にナビが緑のルームランプになったら、第三回地上攻撃部隊迎撃戦の強制徴兵を告げられるんだろうな、とは思うけど……
というわけで、第三次侵攻から三日後。
私は自宅から『遁行』と『天駆』で浅葱駅前ゲートの近くの建物の屋上に着地すると、そこを転送先としてナビに登録。
それから『転送』で攻略中のダンジョンに移動し、探索を再開した。
***
(「そういえば、ナビ。ダンジョンの中で他のプレイヤーと遭遇したこと無いんだけど、何か理由ってあるの?」)
3グループの傀儡を放ってモンスターを狩りながら、草原の上を『天駆』で駆け抜ける合間に、ふと気になってナビに聞く。
返事は期待していなかったが。
「〈同時にゲートへ入ったプレイヤーはダンジョン内にある同じ地点に転送されますが、別々に入ったプレイヤーはそれぞれ異なる地点に転送されます。このため、ダンジョン内での他プレイヤーとの遭遇は、確率の低いものとなっています〉」
これは答えてくれるんだ……?
相変わらず、親切なのか不親切なのか、よくわかんない仕様だなぁ。
ふぅん、と頷き、見つけたモンスターを『滞空延長』で空から狙撃。
まだ序盤だからか、急所を撃ち抜かれたモンスターはあっさりと色を失い砕け散る。
それからしばらく無言で駆け続けていると、上空からゴロゴロゴロ……、と聞き覚えのある不穏な音が聞こえた。
まさか、と思いつつ、すぐさま草原に降り立ち、姿勢を低くしながら頭上に『ウォーターシールドⅡ』を展開。
念のため三枚重ねにして、周りに集まってきた地上型傀儡達には散開の命令を出す。
空を見上げれば曇天の中、時おりひび割れのごとくジグザグに走る光が閃き、低く不穏な音が続き。
次の瞬間、それが少し離れた場所にあった木を直撃した。
目の前が真っ白になる閃光と、耳をつんざく轟音。
反射的にその場で丸くなって強張らせた体にビリビリと振動が伝わり、そのすべてが鋭敏になっている五感を攻撃する。
「ッ、ぐ……!」
間近で落雷に遭遇するのは初めてだが、思った以上に衝撃がキツイ。
プレイヤーとして身体能力が向上し、感覚が鋭くなっているせいかもしれないが、とにかく目と耳と体の感覚がおかしい。
耳をふさげば防げるようなレベルのものではないと、落雷の轟音と振動で叩かれた内臓からくる体の不協和音が告げている。
(「ナビ、『結界』展開して」)
了承の返事とともに即座に展開された『結界』の中、草原に倒れこむように脱力し、荒くなった呼吸を整えながら感覚が落ち着くのを待つ。
最初から『結界』に避難しておけば良かったのか? でも『結界』は一日の使用回数9回しかなかったよな、などと考えつつ、パチパチと瞬きを繰り返しているうちに視界がゆっくりと元の状態に戻ってくることに安堵する。
「あー……、ビックリしたー……」
しばらくして感覚が戻ると、ゴロンと仰向けに寝転がってつぶやく。
(「ナビ。このダンジョンって今みたいに雷が落ちるやつ、よくあるの?」)
「〈その情報は当機のデータベースには存在しません〉」
ナビは安定のナビだった。
「知ってた……」
思わず声に出してぼやき、体を起こす。
「うーん。これたぶん、ダンジョンの特性なんだろうな。フィールドからの感覚器官への攻撃? 運営もうちょっと緩めに調整しといてくれよ……。あれはさすがに威力強過ぎ……。それにしても、あんまりしょっちゅうこれがあると、さすがにしんどいんだけど。でも落雷があるってことは、たぶん雷魔法が取得できるダンジョンだろうし。雷系の攻撃魔法、できれば欲しいんだよなぁ~」
安全と欲望の間で迷う。
が、欲望はいつだって強いもので。
「ようは雷さえどうにかできればいいわけだし、何か、使えそうなスキルかアイテムないかな……」
ううむ、と考え込みながらステータス画面を開く。
と、補助スキルの欄に『硬化』レベル1という、初めて見るスキルがあった。
「なんだこれ……? 攻撃を捨て、完全に防御に徹することで自動発動する? ……あっ! さっき丸まって固まってたやつか! ……ええ? それだけの動作で新スキル取得って、マジで……?」
納得しつつも、なんだそりゃ、と思う。
しかも防御できるダメージ量はレベルによるようで、使えるかどうか微妙だし。
これ、ステルス系スナイパーの私が取得してもなぁ……
首を傾げつつ、画面を道具屋に変える。
「そういえば『良質』シリーズの布に、属性耐性が付いてるやつがあったはず」
今までは『良質』シリーズの、何の効果も付いていない一番安い布で傀儡を量産していたが、必要になったら属性付きの布で『傀儡作成』をしようと思っていたのだ。
これからこのダンジョンを攻略していくためには、雷耐性付きの布で作った傀儡が必要になるかもしれない。
「あ、あった。雷耐性付きの『良質な布』。……んんん。私はこれ被って伏せておくぐらいしかないのか?」
さすがにもうちょっと、何か欲しいところである。
とりあえず雷耐性付きの『良質な布』を買い、今度は加工屋を見てみた。
「あっ、雷耐性付きのアクセサリーある~! けど、ドラゴン素材が無いから作れない~!」
くうううぅぅ……!
涙を飲んでうなるが、何度かドロップして手に入れた雷属性のドラゴン素材を、無造作に傀儡に突っ込んで使ってしまったのは自分だ。
エリクサー使っちゃうタイプはこういう時にものすごく後悔するのである。
「……ま、しょうがないか。無い物は無いんだし。まずは落雷がどれくらいの頻度で起きるのか、調べることから始めよう」
幸い、諦めの早いタイプなので、サクッと意識を切り替えて立ち上がる。
ナビに『結界』を解除させ、1時間後にアラームをセットして、『跳躍』で空に上がると『天駆』で再び進み始めた。
その後、1時間で発生した落雷は3回。
私はその度に草原に降りて雷耐性付きの『良質な布』を被り、三枚重ねにした『ウォーターシールドⅡ』の下で瞼をぎゅっと閉じ、両手で耳を塞いだ。
雷はすべて少し離れた場所にあった木に落ち、新スキル『硬化』のおかげか布の効果か、初回ほど酷い状態にはならなかったので、どうにかなるかもしれない。
それでもしばらくの間、感覚がおかしくなるし、体が内側から揺れているような感じがして気分が悪くなるので、正直わりとしんどい。
どうしたものかなぁ、と考えながら、ひとまず帰宅して『傀儡作成』をすることにした。