Act.36『ステータスと情報収集と安否確認』
侵攻の翌日は動く気にならない。
前は筋肉痛で強制休みになっていたが、筋肉痛がだいぶ軽くなった今でも、どうにも動けず窓辺でクッションを枕にゴロ寝している。
ちなみに私は直射日光が当たらない所に寝転がっているが、一緒にゴロ寝している雪柳は陽だまりでのんびりくつろいでいる。
陽射しをあびた白い毛並みが淡く光っているように見えて、とても綺麗だ。
休養も大事。
クアッ、とあくびした雪柳につられ、私もふぁ~、と大あくび。
テレビもつけず、一日のんびり休んだ。
***
翌日、朝食後。
お茶を飲みながら、まずは放置していた戦闘狂な飛行型傀儡達をアイテムボックスへ収納する。
昨日からずっと、時々ドロップアイテムとEの取得アナウンスが流れていたが、今日はあんまり流れなくなったので、もういいだろうと判断した。
次はステータスのチェック。
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プレイヤー名 : Rx
ランク : 4
武器:第7段階 タイプ『ライフル/黒』
防具:第7段階 タイプ『敏捷・ステルス優先/黒』
◆武器スキル
●『ライフル』レベル10
→『鷹の目』レベル10
→『追尾』レベル2
→『跳弾』レベル5
◆防具スキル
●『消音』レベル10
→『隠蔽』レベル10
→『静寂迷彩』レベル5
●『高速移動』レベル6
◆装備品
・瞬足のイヤーカフ(速度アップ (大))
・探知透過のペンダント(モンスターの索敵とプレイヤーの探索系スキルに発見される確率の低下 (中))
・忍の腕輪(『隠密』消費精神力60%軽減)
・剛腕の指輪(攻撃力アップ (大))
・万華鏡のアンクレット(被ダメージ反射 (発動確率・中))
◆特殊スキル
●『冥道視眼』レベル4
●『氷魔法』レベル5
→『アイスアロー』レベル4
→『アイスウォール』レベル5
→『アイスフィールド』レベル4
●『緑魔法Ⅱ』レベル4
→『チェーンシードアローⅡ』レベル4
→『ドレインフラワーⅡ』レベル4
→『グラスフィールドⅡ』レベル2
→『ガーデン・オブ・ジ・エンド』
●『水魔法Ⅱ』レベル1
→『ウォーターカッターⅡ』レベル1
→『ウォーターシールドⅡ』レベル1
→『ウォーターフィールドⅡ』レベル1
→『テラー・フロム・ザ・シー』
◆補助スキル
●『隠密』レベル10
→『心眼』レベル10
→『遁行』レベル10
→『鑑定』
→『隠蔽』レベル10
→『分身作成』レベル1
→『隠蔽対象指定』レベル5
→『透過』レベル3
●『跳躍』レベル10
→『二段跳躍』レベル9
→『天駆』レベル6
→『滞空延長』レベル8
●『スキル探知』レベル5
●『危険察知』レベル4
●『裁縫』レベル9
→『傀儡作成』レベル9
→『仮想人格憑依』レベル6
→『傀儡管理』レベル5
→『巨大化』レベル8
→『縮小』レベル1
→『能力付加』レベル6
→『護符作成』レベル1
→『アイテムドロップ率アップ』レベル9
●『調理』レベル9
→『特殊効果付与』レベル8
→『アイテムドロップ率アップ』レベル9
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おお、『遁行』がレベル10に上がっている!
特殊スキル『縮地』の取得条件、達成だ。
(「ナビ。『縮地』取得する」)
「〈はい、Rx。スキル『遁行』レベル10、達成を確認。取得可能な特殊スキルです。50,000Eの支払いで取得が完了します。支払いますか?〉」
目の前にテキストボックスが浮かび、「はい」と「いいえ」のボタンが表示される。
私は「はい」を押した。
「〈50,000Eが支払われました。特殊スキル『縮地』取得、完了です〉」
(「おお~。ありがと、ナビ」)
もう一度ステータス画面を開くと、新スキル『縮地』は特殊スキルの欄に入っていた。
短距離、視界の範囲内に瞬間移動できる『縮地』。
実際に使ってみないと、どれくらい役に立つかは分からないが、面白そうなスキルだ。
次のダンジョン探索が楽しみになった。
あとは久しぶりに加工屋でアクセサリーを見て、ランクアップで増えた商品や新たに取得したアイテムから作れるようになったものをチェック。
ダンジョンへ行くたびに放っているアイテム収集役の傀儡グループが拾ってきたレアアイテムも地味に溜まっていて、意外と多種類のアクセサリーが作れるようなので、迷いつつ決めていく。
結果。
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◆装備品
・空色羽兎のイヤーカフ(跳躍高度アップ (大))
・迷彩のペンダント(モンスターの索敵とプレイヤーの探索系スキルに発見される確率の低下 (大))
・妖精の腕輪(『隠密』と『隠蔽』消費精神力80%軽減)
・破砕の指輪(攻撃力アップ (特大))
・鏡迷宮のアンクレット(被ダメージ反射 (発動確率・大))
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最近、移動に『天駆』を使うことが増えたので、速度アップを跳躍高度アップに変更。
あとはそれぞれ上位互換バージョンの物を作って装備を変えたのだが、破砕の指輪を作るのにドラゴン素材をだいぶ持っていかれたので、『傀儡作成』で使える素材が少なくなってしまった。
ダンジョンでもドラゴンが出てくれたら、素材狩りができるのに……
アイテムボックスを見て、残ったレアアイテムの数にため息がこぼれたが、まあ、それはさておき。
空中に浮かぶ画面を閉じ、テレビのニュースとインターネットで情報収集をする。
「ご覧のように橋が完全に崩落しており、復旧にはかなりの日数が必要になるとみられ―――」
「第三次侵攻における推定被害額は―――」
「政府は各自治体にゲートから離れた場所へ避難所を作るよう指示していましたが、今回そこへ移動する途中で襲われるケースが相次ぎ―――」
「今回は第二次侵攻よりも飛行可能なタイプが多数出現した、との報告があり、今後は空を飛ぶ敵に対して攻撃できるプレイヤーとチェスマンがより多く求められるものと―――」
「ライフラインを断たれ、孤立した集落への救助隊が先ほど現地に到着し、これより村民の移動が―――」
チャンネルを変えるたびに違う問題が報道されている。
問題山積み感がすごい……
ネットの方でもあちこちで救助要請を出している人がいるが、今回は特に、被害状況に偏りがあることを指摘する声が多かった。
政府は登録プレイヤーとチェスマン達を“適切に”分散して担当ゲートを決め、防衛を依頼していると主張しているらしいが。
どうやら政府の考える“適切に”とは、首都圏や人口密集地、発電所などのライフラインに関わる拠点施設などへ重点的に登録プレイヤーを配置する、という意味であるらしい。
当然、その他のゲートはどうしたって手薄になる。
結果。
政府が重点的に登録プレイヤーを配置したゲートは、比較的被害が少なく終結を迎えた。
しかし担当プレイヤー達だけでは対応しきれず戦線崩壊して大被害が発生したゲートと、担当プレイヤーに加えて強い未登録プレイヤーが加勢したことでほぼ無傷で侵攻を凌ぎきったゲートなどの、地域格差があちこちで出たのだ。
未登録プレイヤーがどれくらいいるのかは知らないが、この問題に関しては早急な対応策が必要だろうな、と思う。
不満を持った国民は有効な対応策を出せない政府に矛先を向けるだろうし、未登録プレイヤーの戦力を活用できないでいる現状はもったいない。
私も未登録プレイヤーだけど、雪柳と一緒に暮らすこのマンションへの被害は絶対に阻止したいので、我が家の近くのゲートを優先して対応している。
だけど、今回のように傀儡を放つだけで戦力が足りたゲートもあり、それらは傀儡に任せて他のゲートへ移動した。
だから戦力不足だった植物園前ゲートの防衛に加勢できた。
こういう未登録プレイヤーもいるので、私はあまり自宅から遠く離れる気はないが、有効活用してもらいたい、とは思う。
じゃあより有効活用するためにも登録しろ、って言われたら逃げるけど。
……他の未登録プレイヤーもそんな感じだったら、有効活用とか、無理かもしれないなぁ。
「まあ、人間、やれることしかできないもんね」
うんうん、と頷いていたら、テレビの民放ニュースで「正体不明の何かがモンスターを倒した」と話す人が映った。
ん゛ッ、と思わず固まる。
しかもインタビュアーはその人の話を聞いた後、「同じような証言が他にも寄せられています」と言い出した。
どうやらネットでも「何も無いところでいきなりモンスターが襲われたみたいに暴れて、それからすぐに砕け散った」という書き込みが複数あるらしい。
んんん……、たぶんそれ……、うちの子ですね……
悪いことをしたわけではないのだが、微妙に目が泳ぐ。
『隠蔽対象指定』付きで放ったことで安心していて、傀儡が見つからなくても、傀儡に倒されるモンスターを不特定多数に目撃される可能性があることをうっかり忘れていた。
何も無いところでいきなりモンスターが倒されたら、そりゃあ怪現象だよね……
ネットに書き込んじゃってもしょうがないかー……
それにしても、なんだか目撃者が多い気がするんだけど、みんなモンスターが見えるくらい近くにいたの? 危なくない?
今回ゲートで仕留めきれずに逃げられたモンスターが、それだけ多かったってことなのかなぁ。
でもまあ、傀儡から作成元の私にまで辿り着くことはできないはずだ。
放った傀儡は全部無事に回収できているから、他のプレイヤーに捕まって調べられているということも無いし。
うちの子たちは獲物を探してだいぶ遠征したようで、目撃証言はかなり広範囲に散らばっていて、おそらくそこから私を特定するのも無理だろう。
今回、浅葱駅前ゲートでの防衛戦を見た人たちは、もしかしてあのステルス系スナイパーのプレイヤーの仕業では、と思うかもしれないけど、今のところそこからうちに辿り着いている人もいないし。
うん。余計なことしないで放置しておけば、大丈夫、かな……?
ううむ、とうなっていると、不意にスマホがブルブル震えだした。
私のスマホに着信とは、珍しい。
詐欺か? 売り込みか? と迷惑電話を疑ったが、表示された番号はこのマンションの管理会社のもの。
「はい、もしもし」
テレビを消して電話に出れば、だいぶ久しぶりに名前を呼ばれて本人確認され、「はい」と応じれば安否確認のための電話だと説明される。
自治体からの要請でやっているんだそうだ。
第三次侵攻の後で安否確認?
やるの遅くない?
と思ったが、余計なことは言わず、相手の質問に答える。
そして、ライフラインに問題ないことと、怪我や病気などしていないこと、食品や日用消耗品の買い出しに行けていることを確認され、大丈夫です、と繰り返していたら話は終わって電話が切れた。
避難所へ行く予定はあるか、というのも聞かれたので、自治体としてはこれから増える避難者の数を把握したいのかもしれない。
引きこもりの猫飼いに、避難所へ行く、という選択肢は辛いものがある。
とりあえずこのマンションと周辺くらいは被害が出ないよう、できるだけ頑張ろう、と思った。




