Act.34『ステータスのチェックと次のダンジョン』
ダンジョンからの帰宅後。
いつも通りお風呂に入って昼食をとり、食後にお茶を飲んで休憩してからアイテムボックスを開いた。
まずは『魔法書「水魔法・中級編」』を取り出して使い、『水魔法Ⅱ』を取得。
ステータス画面を開いてチェックする。
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プレイヤー名 : Rx
ランク : 4
武器:第7段階 タイプ『ライフル/黒』
防具:第7段階 タイプ『敏捷・ステルス優先/黒』
◆武器スキル
●『ライフル』レベル10
→『鷹の目』レベル10
→『追尾』レベル2
→『跳弾』レベル5
◆防具スキル
●『消音』レベル10
→『隠蔽』レベル10
→『静寂迷彩』レベル4
●『高速移動』レベル5
◆装備品
・瞬足のイヤーカフ(速度アップ (大))
・探知透過のペンダント(モンスターの索敵とプレイヤーの探索系スキルに発見される確率の低下 (中))
・忍の腕輪(『隠密』消費精神力60%軽減)
・剛腕の指輪(攻撃力アップ (大))
・万華鏡のアンクレット(被ダメージ反射 (発動確率・中))
◆特殊スキル
●『冥道視眼』レベル3
●『氷魔法』レベル5
→『アイスアロー』レベル4
→『アイスウォール』レベル5
→『アイスフィールド』レベル4
●『緑魔法Ⅱ』レベル4
→『チェーンシードアローⅡ』レベル4
→『ドレインフラワーⅡ』レベル4
→『グラスフィールドⅡ』レベル2
→『ガーデン・オブ・ジ・エンド』
●『水魔法Ⅱ』レベル1
→『ウォーターカッターⅡ』レベル1
→『ウォーターシールドⅡ』レベル1
→『ウォーターフィールドⅡ』レベル1
→『テラー・フロム・ザ・シー』
◆補助スキル
●『隠密』レベル10
→『心眼』レベル10
→『遁行』レベル9
→『鑑定』
→『隠蔽』レベル10
→『分身作成』レベル1
→『隠蔽対象指定』レベル4
→『透過』レベル3
●『跳躍』レベル10
→『二段跳躍』レベル9
→『天駆』レベル5
→『滞空延長』レベル7
●『スキル探知』レベル4
●『危険察知』レベル4
●『裁縫』レベル9
→『傀儡作成』レベル9
→『仮想人格憑依』レベル6
→『傀儡管理』レベル5
→『巨大化』レベル8
→『縮小』レベル1
→『能力付加』レベル6
→『護符作成』レベル1
→『アイテムドロップ率アップ』レベル9
●『調理』レベル9
→『特殊効果付与』レベル8
→『アイテムドロップ率アップ』レベル9
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エキス抽出・調合の特殊スキルを取得するのに『調理』のレベルがあと1足りない……!
くぅ……! 妖怪「1足りない」……!
と、いうのは置いておいて、Ⅱが付いた水魔法をチェック。
タップすると出てくる詳細説明を読む。
『ウォーターカッターⅡ』は一度に出せる刃が二枚になったが、ほぼ重なった状態で出るらしいので、単純に威力が倍になっただけらしい。
『ウォーターシールドⅡ』は盾が大きくなり、受け止められるダメージ量がアップ。
これもシンプルに防御範囲と防御力アップのみ。
『ウォーターフィールドⅡ』は、水に沈む範囲は変わらないが、その浮力が50%下がったという。
つまり、浮きにくいモンスターは自重で勝手に沈んでいき……
うん、深く考えるのはやめておこう。
ただプールに落っことすだけの魔法が一気にエグいものになってしまったが、使用者の私は水上に立てるから問題ないし。
さて、新魔法のチェックに進もう。
『テラー・フロム・ザ・シー』は海から大型の水棲モンスターを召喚し、そのモンスターが使用者の指定した標的を攫って海に戻る魔法。
召喚される大型水棲モンスターはランダムで決まり、そのモンスターと標的の能力差や、標的の状態によって攫われた後、海から生還できるか否かが決まる。
しかし生還できたとしても、攫われる時に大型水棲モンスターから受けたダメージが残るので、攫われる前より倒しやすくなる。
「いやこれ即死魔法じゃん。失敗しても敵にダメージは与えられる、わりと使いやすい即死魔法じゃん。中級編でゲットできる新魔法って、みんな即死魔法なの?」
首を傾げるが、答えは分からない。
ちょっと考えて、結論。
「まあ、次のダンジョンで他の魔法の中級編を手に入れれば分かるか」
というわけで、明日は次のダンジョンに行こうと思う。
***
ナビの『転送』先に登録済みで、すぐに行ける未踏破ダンジョンのゲートは二つ。
紅梅市の市民公園モニュメント前ゲート。
菫市の大型ディスカウントストア前ゲート。
たしか紅梅市の方は第二次侵攻をうまく凌いでいたので被害は少なく、菫市の方はディスカウントストアの出入り口が完全に塞がれるほどの被害が出ていたはずだ。
菫市の方の復旧作業がどうなっているのか気になったので、まずは菫市のゲート近くに『転送』してもらう。
藍市のダンジョン『アクアマリンの千路』を踏破した翌日。
プレイヤー装備で『隠密』常時発動の私は、転送された地点から『天駆』でぐるりと周辺を見てまわり、ゲート近くの人気のない建物の屋上に着地。
上から辺りの様子を見る。
……壊されたまんまだなぁ。
ディスカウントストアは営業を停止しているらしく、店員や客の姿はない。
道の瓦礫が撤去されている以外ほとんど放置された状態なのは、第三次侵攻でまた破壊されることが分かっているからだろう。
ディスカウントストア前ゲートには警備役らしき重装備の自衛隊員と警察官が立ち、近くに張られたテントには折り畳み式の机とイス。
そこに座ってノートパソコンに向かい、カタカタとキーボードを叩いている作業服姿の人は政府関係者だろう。
首から名札を下げている。
ちょうどそこに彼らと顔見知りらしきプレイヤーが身軽くジャンプして上空から現れ、ゲート近くに着地した。
軽く手をあげて挨拶したプレイヤーに、一瞬警戒した自衛隊員と警察官がその顔を見て銃器を下げる。
そして大急ぎでテントから飛び出してきた作業服姿の人が、プレイヤーに声をかけた。
遠く離れた場所の会話を聞くスキルは無いし、そもそも彼らの会話の内容に興味もない。
無言で眺めていると、プレイヤーは巡回中に立ち寄っただけのようで、頭を下げる政府関係者にまた軽く手をあげ、ジャンプしてその場から立ち去る。
なんとなく、これはチャンスなのでは? と思っていた私は、そのプレイヤーが立ち去るのと入れ替わりに地面に降り立ち、静かにゲートに向かう。
そしてその場にいる人達が去っていくプレイヤーの背を見送っているうちに、鉄扉を開いてするりとその隙間からダンジョンに入った。
背後では何やら騒ぐ声が聞こえたが、ステルス系プレイヤーが勝手にゲートを開けるぐらい、今となってはニュースにも取り上げられない些事だろう。
テレビ局はもっと別のことを報道をするのに忙しいし、政府は有識者会議との協議の後、未登録のプレイヤーに対し、未登録であることを理由に罰則を課すことはしない、と宣言している (他のことはいまだ協議中らしいが)。
そんなわけで、自動的に閉まっていく鉄扉の向こうの喧騒が消え、三つ目のダンジョンに入った私は、まず周囲の景色を見た。
今にも雨が降りだしそうな曇天。
あちこちに点在する木や岩の他には何もない、どこまでも広がる一面緑の草原に、傷跡のように刻まれた一本の道。
遠く、遠く、大地を取り囲むように連なる山脈。
「開けた場所だな……。とりあえず陸上型傀儡グループと飛行型傀儡グループ、アイテム収集グループ出しとくか」
アイテム収集役グループに『隠蔽対象指定』を発動させて送り出し、陸上型と飛行型にはエンカウントしたモンスターの討伐を命じる。
次は忘れず『転送』先の登録。
(「ナビ、『転送』地点の登録お願い」)
ナビに言って、今まで藍市のダンジョン『アクアマリンの千路』の最終到達点を登録していたところへ、現在地を上書き登録する。
これで準備は完了。
私が進み始めるのを待つ陸上型のグループを地上に置いて、『天駆』で空に上がる。
曇天だが、一面緑でわりと景色はいい。
そんなダンジョン序盤の空中を、さっさと『天駆』で駆け抜けてゆく。
―――――― その時。
「〈全プレイヤーへ通達。侵略者の一斉攻撃により、ゲート耐久値が急激に低下。残存耐久値3%。ゲート破壊後、第三次侵攻が開始されます〉」
青いルームランプから緑色のルームランプになったナビが言う。
同時に体が強風で吹き飛ばされたような感覚を受け、気づけば入ったばかりのゲートの前に転がっていた。
辺りを見れば、同じくダンジョンから強制的に放り出されたプレイヤーとチェスマン達。
私はすぐに『跳躍』でその場を離れ、『天駆』で近くの建物の屋上に移動。
アイテムボックスを開いて、傀儡たちがそこに戻されていることにホッとする。
「〈ゲート崩壊。封印が破られました。モンスター多数出現、インベーダーが侵略を開始〉」
眼下の鉄扉に亀裂が入り、ナビの声とともに砕け散る。
ゲートだった場所は黒い靄の塊になり、無数のモンスターが湧き出る。
「〈第三次侵攻の発生を宣言する。全プレイヤーはこれを阻止せよ〉」
そうして三度目の侵略が始まった。