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Act.31『中ボス遭遇と予想外の困惑』



 三日ダンジョン攻略をして、一日休み。

 これを繰り返しているうちにあっさりEが貯まったので、『天駆』を取得した。


 今攻略中のダンジョンは空が開けていて空間が広いので、空中を何度でもジャンプできる『天駆』で森の上を駆けまわり、『心眼』で見つけたモンスターを狙撃や『跳弾』で仕留める。

 私の進みが速いので、ぬいぐるみ軍団の進軍スピードも上がり、ダンジョンで遭遇するモンスターの強さもぐんぐんと上がっていく。

 傀儡は『巨大化』がレベル7に上がったので、もはやカバ並みのサイズになってかなりの力を持っているのだが、元々の能力値が低かったり運が悪かったりすると、わりとサクッと倒されてしまう。

 まあ、そうしたら次の傀儡を出して補充するだけなんだけど。


「〈Rx(レクス)、設定された時間になりました〉」

(「ん。ナビ、『結界』よろしく」)


 ナビに呼ばれて地上に降り立つと、ぬいぐるみ軍団の進軍も止まる。

 傀儡たちはそのままそこで待機させ、近づいてくるモンスターの迎撃を任せる。


 そして10分間、ナビの『結界』の中でアイテムボックスから取り出したハンモックチェアへ沈み込むように座り、酷使した感覚を閉じて休ませた。

 何も考えず、箱を閉じるように感覚を閉じる。


「〈Rx、設定された時間になりました〉」


 10分なんてあっという間だ。

 閉じた感覚にするりと入ってきたナビの声で、瞼を開いて身を起こす。


「そろそろ中ボスが出てきてもいい頃だと思うんだけどなぁ」


 なかなかエンカウントできないそれを思ってぼやきながらハンモックチェアを片付け、『結界』から出てライフルを構えると、再び天を駆けた。



 ***



 五月下旬。


 いまだ中ボスっぽいモンスターとはエンカウントできないが、Eは貯まったので特殊スキル『冥道視眼』を取得してみた。


 これは自動発動タイプのスキルなので、発動時にスキル名を言う必要が無いことに感謝した。

 私が持っているスキルの中では、一番アレな感じのスキル名だ。

 もしスキル名を言わないと発動しないという条件が付いていたら、取得しなかっただろうなぁと思う。


 それはさておき、このスキル、発動条件を満たすのが難しいらしく、なかなか発動しない。

 けれど『天駆』で駆けまわっている時にいきなり発動し、モンスターの体に極小のブラックホールみたいなものが視えるようになることがある。

 そういう時、『滞空延長』でその場に留まり、ライフルでその一点を撃ち抜くと、どんなモンスターでも一発で色を失って砕け散るので、かなりの爽快感があった。


 ピーキーなスキルだ、という第一印象だったし、実際に使ってみても本当に癖の強いスキルだけど、そこがまた面白くて楽しい。

 それに、極小のブラックホールみたいな黒い点が視えるのが『鷹の目』で見つけた急所とは別のところ、というのも興味深い。

 どうやら「急所」と「崩壊点」は、似て非なるもののようだ。


 そうして新スキルを試しながら、いつものようにどんどんダンジョンを進んでいたある日、急にゾワッと寒気がきた。

 けれど悪寒の種類がいつもと少し違って、はっと気づく。


「川から離れろっ!」


 思わず叫んだが、その命令は間に合わなかった。

 水辺の小路を歩いていた陸上型傀儡が1体、いきなり真横の川から現れた大口を開く巨大サメに丸呑みにされ、反撃する間もなく川に戻っていく巨体を見送るはめになる。


 どうやら『天駆』で森の上を駆ける私ではなく、小路を歩く傀儡の危険を、『危険察知』が報せたらしい。

 悪寒の種類が違う、という感覚的すぎて説明できないもので察知させられたので、反応が遅れた。

 それにしても、自分に対する危険でなくても発動したのは『危険察知』のレベルが上がってきたからか? あるいは相手が強いからなのか?

 気になったが、検証している暇はない。


 陸上型は森へ入って逃げるように、水中型は今のモンスターを追って攻撃するように、命令を出す。


 離れた場所に分散しているアイテム収集役たちは放置で、今のところ飛行型への命令変更もしない。

 私は『心眼』で巨大サメを追い、サカナ型傀儡が果敢に攻撃を仕掛けるのを見おろしながら、『天駆』で水上に出る。

 が、しかし。


 ライフルで水中のモンスターを攻撃って、無理なのでは?


 ふと思ったそれに、どう対処すべきか考えていると、一口で丸呑みにされた傀儡が巨大サメの腹の中で耐久値0にされたらしく、アイテムボックスに『傀儡の欠片』が一つ増えた。

 『心眼』で見ていると、サカナ型傀儡たちはそれなりに健闘しているものの、巨大サメに大きなダメージを与えるのは難しそうで、むしろ1体ずつ丸呑みにされて『傀儡の欠片』にされていく。


 このままではサカナ型傀儡がじわじわ全滅させられるばかりだ。

 私も攻撃に参加するなら、どうにか巨大サメを陸上に引きずり出さなければならない。


 考えて、まずはサカナ型傀儡をすべてアイテムボックスに戻す。

 次に数体の鳥型傀儡に巨大サメの真上、川の上空を旋回するよう命令 (性格「戦闘狂」の傀儡と、アイテム収集役はそのまま放置)。

 そして自分は森の中で待機しつつ、陸上型傀儡を森の奥に散開させ、私に近づくモンスターの排除を任せる。


 すると数分後、巨大サメは釣り餌に引っかかり、川の上を飛ぶ鳥型傀儡を丸呑みにしようと、大口を開けて空中に飛び出した。


 『心眼』でその動作を注意深く観察し、『ドレインフラワーⅡ』を発射。

 大きな的なので問題なく当たり、体内に埋まった二つの種が芽吹いて爆発的な勢いで緑の葉を生い茂らせていく。

 そうしてほんの数秒のうちに急成長していく二本の『ドレインフラワーⅡ』を見ながら、『鷹の目』で見抜いた急所を狙撃。


 魔法と物理の攻撃を横からくらい、巨大サメはジャンプの勢いを失った。

 そのせいで狙った鳥型傀儡(獲物)を捕らえることができないまま川へ落ち、水柱を高く上げ、すさまじい量の飛沫をまき散らす。

 その余波でさざ波が小路を濡らし、そこだけ土の色が変わった。


 さて、水系モンスターには『緑魔法』が有効だろう、というゲーム知識からの思い込みで『ドレインフラワーⅡ』をぶち込んでみたが、効果はどうだろう?

 これがゲームなら巨大サメの残存HPが表示されて効果を確かめられたり、エフェクトや効果音で有効度を知れたりするのだが。

 ゲームみたいなこの現実には、そのどれもが無い。


(「ナビ、あれって中ボス?」)

「〈その情報は当機のデータベースには存在しません〉」

(「あのモンスターの名前は?」)

「〈その情報は当機のデータベースには存在しません〉」

(「今の攻撃はどれくらい有効だと思う?」)

「〈当機のサポート範囲外の質問です。お答えできません〉」


 いつもついてくるナビゲーターは、こういう時にはまるで使えない。


 ううむ。

 『緑魔法』が有効であることを祈って、鳥型傀儡を囮に攻撃し続けるしかないか……


 水系モンスターっぽいブルードラゴンに『氷魔法』があんまり効かなかったことを考えると、それくらいしか攻撃手段がない。

 雷系の魔法があれば真っ先に使うんだけどなぁ、とうなりつつ、『心眼』で再びジャンプの予備動作に気づいて『ドレインフラワーⅡ』を用意。


 そして二度目のジャンプも真横からくらった『ドレインフラワーⅡ』とライフル狙撃で勢いを失い、何もできないまま落下していく巨体を見送る。


「一回目の『ドレインフラワーⅡ』がもう枯れてたな……。やっぱり効果が高いから、ハイスピードで育ってそのまま枯れるのか?」


 高く上がる水柱を前に首を傾げるが、やはりそれを知る術はない。

 地道に攻撃していくしかないか、と諦めてライフルを構えなおした時、『心眼』でまっすぐにこちらを向く巨大サメに気づく。

 おお、やっとこっち向いたぞ、と内心喜びながらも、冷静に準備。


 次の瞬間、小路を乗り越えて森に突っ込んできた巨大サメから『跳躍』で空に逃れ、同時に『チェーンシードアローⅡ』を発動。

 森の木々を一瞬にして薙ぎ払った巨体に二本の緑のツルが絡みつき、拘束しようと試みる。

 巨大サメは抵抗するようにもがき、薙ぎ倒した木々の上でのたうつ。


 私は陸上型傀儡たちが離れた場所にいるのを確認してから、のたうつ巨大サメの近くに着地。

 一回使ってみたかった魔法を試してみる。


 『ガーデン・オブ・ジ・エンド』、発動。


 当たれば即死の範囲魔法。

 しかしそれは驚くほど綺麗な庭園の幻影となって現れ、咲き乱れる色とりどりの花々と、えもいわれぬ芳香に思わず陶然となる。

 私を中心に、半径10m。

 唐突に現れた夢のような楽園に、そうして心奪われていれば、音もなく黒々とした槍のごとき鉄柵が地面から生えてきたかのように庭園を取り囲み、ただ一つの出口がギギィ……、と閉まっていき。


 カシャン、と軽い音がして完全に閉ざされるのとともに、耳障りな断末魔の悲鳴をあげて巨大サメが色を失い砕け散る。


「……」


 そして視界の端を流れていくアナウンス。


――― ドロップアイテム『ガルプシャークの牙』取得

――― ドロップアイテム『ガルプシャークの肉・上』取得

――― ドロップアイテム『魔法書「水魔法の素養」』取得

――― 3500E取得


「いや、中ボスに即死魔法が効くって、そんなんアリか???」


 ええええぇぇぇ……???


 意味わからん。

 マジで意味わからん。


 あの魔法使ったの私だけど、ただ使ってみたかっただけだったのにな……?

 何が起こるか見てみたかっただけの実験が、なんで効いちゃったん……???


 ボス系モンスターに即死魔法は効かないのが普通なのに、私の知っているゲームと違いすぎて困惑の極みである。


 しかしフォレストタートルの初回戦闘と同じように、『魔法書「水魔法の素養」』がドロップしているし、他のモンスターより稼げるEも多い。

 ガルプシャークとかいう巨大サメは、だからおそらく中ボスだと思うのだが。


「えええぇぇぇ……??」


 困惑と脱力がひどすぎて、一気にやる気が失せてしまった。

 『魔法書「水魔法の素養」』で『水魔法』の取得だけやって、今日はもう帰ろう……



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― 新着の感想 ―
[一言] 周回しなきゃ....!、即死してもドロップするボス何で、ただのカモだ!
[一言] 強いボスだと思っていたのにあっさり倒してしまったときのガッカリ感、わかります!傀儡は何体か倒されてしまつたけど主人公ちゃん不完全燃焼ですね。
[一言] 寧ろ中ボス程度までなら即死が通ると考える事も出来ますねぇ。
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