Act.30『ダンジョン攻略再開と新スキル』
翌日、久しぶりのダンジョン攻略。
モンスター肉を『良質』シリーズの調理器具で料理したものを朝食にして、特殊効果を付与。
念入りに、ゆっくりじっくりストレッチをして体をほぐしてから、部屋の隅に敷いたビニールシートの上でプレイヤー装備に変更。
(「ナビ、『転送』して」)
了解の返事とともに周囲の景色が変わる。
左側に大きな川。
右側には鬱蒼とした青黒い闇に沈む森。
見上げれば晴れ渡る空。
藍市のツインタワー前ゲートのダンジョン。
その中の、現在の最終到達地点だ。
私はまず性格「気まぐれ」の傀儡5体をアイテムボックスから取り出し、スキル『隠蔽対象指定』を使ってからアイテムを拾って来いと命じて放つ。
次に陸上型の傀儡の中から、哨戒・迎撃・護衛に向いたぬいぐるみを10体取り出し、私と同じ歩調で進むよう命令。
あとは川にサカナ型傀儡12体を放ち、空に性格「戦闘狂」を混ぜた哨戒役の鳥型傀儡を放って、準備完了だ。
いつでも撃てるようライフルを構えて歩き始めれば、ぬいぐるみ軍団も進軍を開始した。
――― ドロップアイテム『グリーンバードの嘴』取得
――― 250E取得
さっそく視界の端を流れていくアナウンス。
最初にモンスターを仕留めたのは、さすがというか、性格「戦闘狂」の鳥型傀儡だった。
しかしそこからは川の中でサカナ型傀儡も活躍し、私はライフルを一発も撃つことなく怒涛の勢いで流れていく視界の端のアナウンスを眺めながら川辺の小路を歩いてゆく。
――― ドロップアイテム『ブルーシザーフィッシュの鱗』取得
――― 160E取得
――― ドロップアイテム『ハンマーフィッシュの核』取得
――― ドロップアイテム『ハンマーフィッシュの肉・上』取得
――― 210E取得
――― ドロップアイテム『グリーンバードの羽』取得
――― ドロップアイテム『グリーンバードの肉・上』取得
――― 250E取得
――― ドロップアイテム『カメレオンフィッシュの鱗』取得
――― ドロップアイテム『カメレオンフィッシュの肉・上』取得
――― 520E取得
――― ドロップアイテム『ソニックフィッシュの薄翅』取得
――― 120E取得
――― ドロップアイテム『ホーンラビットの角』取得
――― 550E取得
――― ドロップアイテム『レッドボアの肉・上』取得
――― 230E取得
――― ドロップアイテム『ハンマーフィッシュの尾びれ』取得
――― 210E取得
――― ドロップアイテム『ラッシュビードルの甲殻』取得
――― ドロップアイテム『ラッシュビードルの核』取得
――― 230E取得
etc……、etc……
戦闘スピードが早すぎて、せっかく取得した『跳弾』を試す隙が無い。
いや、いいことなんだけど。
私が作った傀儡たちが有能ってことで、それはとても嬉しいんだけど。
今日は『跳弾』を試したいんだ!
というわけで、まだ傀儡と距離があるモンスターを探し、見つけた獲物を『跳弾』で狙撃。
森の中に身を潜めていたモンスターは、その上空に向かって撃った弾が空中の何もないところで弾かれたように急激に向きを変え、真上から撃ち抜かれて砕け散った。
――― ドロップアイテム『ビッグラビットの肉・上』取得
――― 150E取得
傀儡たちが倒したモンスターのドロップアイテムにまぎれて、私が『跳弾』で仕留めたモンスターのアナウンスが視界の端を流れていく。
……これ、面白いな?
今までにはない面白さに、口元まですっぽり覆うネックガードの下で、唇が勝手に笑う。
撃った弾を指定した所で跳ねさせて標的に当てるこれは、ビリヤードみたいな感じだ。
ビリヤード、やったことないけど。
でもたぶん、狙った玉を思った通りに動かしてポケットに落とすのに似たような面白さだと思う。
目視では障害物に遮られて姿が確認できず、向こうもこちらに攻撃するには離れすぎた位置から一方的に、しかも不意打ちで狙撃するのは独特の緊張感と面白さがあるのだ。
「やっぱ『跳弾』にしといて良かった」
うむ、と頷いて、歩調を乱さず落とさず、ダンジョンの小路を進んでいく。
何度か試してから、歩きながらでも『跳弾』で森に隠れたモンスターに当てられるようになったので、ますます楽しくなる。
弾を跳ねさせて狙い通りの角度に弾道を曲げる、というのは、本来なら難しい計算が必要なのだろうが、このスキルは私の感覚で指定した所に指定した角度で無色透明の板が現れ、それがライフルの弾を弾く。
私は計算などしていないが、モンスターに弾を当てられている。
だからたぶん、このスキルを使いこなすのに必要なのは、勘と慣れだ。
よし、何度も繰り返して、体で覚えよう。
それから1時間の攻略と10分の休憩を3セット行う間、ずっと傀儡たちと競うように『跳弾』を使い続けた。
***
ナビのアラームで三時間二十分のダンジョン攻略を終えると、帰宅してお風呂に入り、上がったらクールダウンのストレッチ。
ちょうど昼時なので、あとはそのまま昼食休憩。
今日のお昼ご飯はアイテムボックスから取り出したモンスター肉の焼肉丼。
朝に沸かしたヤカンから湯飲みにお茶を注ぎ、コタツの上に置いて両手を合わせる。
「いただきます」
返事をするみたいに、キャットタワーの上で香箱座りをしてこちらを見おろす雪柳が「なぁお」と鳴いた。
「雪姉さんのはご飯皿に入ってるよ」
ちょっと笑ってそう言ってから、テレビをつけて食べ始める。
ニューススタジオで真面目な顔をしたアナウンサーが原稿を読み上げている。
「第二次侵攻で寸断された高速道路が一部プレイヤー達の協力により復旧されましたが、今もライフラインを断たれ孤立した……」
道路の復旧作業ができるプレイヤー?
そんなスキルがあるんだろうか?
アナウンサーの言葉に内心首を傾げながら、そういえばコウモリの音波反響みたいなやり方の探索系スキルを受けたことがあったな、と思い出した。
私も最初から『隠密』や『心眼』、『裁縫』や『調理』のスキルを持っていたし、ナビは今までの生活や習慣から抽出されたものがスキルになっている、的なことを言っていた気がする。
いつ言われたかは忘れたけど (また一番最初の大慌てだった時かもしれない)。
ともかく、そういうことなら土木工事系のスキルを最初から持っているプレイヤーがいてもおかしくはない。
たぶん、そういう系統の仕事をしていた人がプレイヤーになって、その経験から抽出されたスキルがあったのだろう。
その後もニュースは第二次侵攻からの復旧作業の話題が続いたので、チャンネルを変えると、今度は第二回地上攻撃部隊迎撃戦についての報道番組。
テレビ局おなじみの“独自のルート”とやらで迎撃戦の戦地となった場所を調べ、世界地図に赤い点で表示しているが、それを見た私に分かったことは、世界中に赤い点が散らばっていて、これだけの情報では法則性は見つけられないだろう、ということだった。
そもそも戦地になった場所に意味があるのかどうかも分からない話だ。
コメンテーターは、なんだか色々と難しいことを言ってたけど。
モグモグと口を動かして焼肉丼を食べながらさらにチャンネルを変えると、天気予報がやっていたので手を止めた。
明日、この辺りは晴れるらしい。
お布団干そうかなと思いながら見ていると、週間予報では、三日後くらいから雨マークが続いていた。
布団干しだけでなく、洗濯物も早めに洗っておいたほうが良さそうだ。
その後、各地に設置されたカメラの中から、無事なものが送ってきた映像が映される。
山の上のカメラらしく、雪の降り積もった山脈の、青空を背に連なる真白の峰が綺麗だ。
上空には相変わらず正体不明の結晶体が浮かんでいるが、世界中どこにでもあるのでもはや日常風景の一部と化していて、初めて見た時のインパクトは薄れ、違和感が無くなってきている。
訳も分からないまま始まり、今も続く侵略者の侵攻『幻想侵蝕』。
それはいつまで続いて、この世界をどれだけ壊すのだろうかと、ふと思った。